1166 大宮殿にて
「神殿参り、行きます」
「でも、セラには皇女として公務があるよね? 無理にとは――」
「そんなの、行くに決まっているではありませんかー! 旅のみんなが集まってわたくしだけ除け者なんてイヤですー! わたくし、何が何でも行きますのでクウちゃんも協力してくださいー!」
「う、うん……」
「そもそも公務は3日からなので1日は平気だと思いますっ!」
「そかー。それはよかった」
というわけで、夕方――。
私は大宮殿に飛んで、まずはセラと合流した。
セラの部屋でおしゃべりする。
陛下たちとは夕食をご一緒することになって、その後でオハナシの時間を作ってもらえることになった。
「それにしても、クウちゃんも大変ですね。次から次へと」
「ホントだよー」
「もしかして、クウちゃんだけにですか?」
「う、うん……。そうだね……」
「それならわたくし、お手伝いをしましょうか!」
久しぶりだね、そのネタ!
「そうだ、セラ。ミルはどうしたの?」
私は話を変えた!
セラの部屋にはいないけど。
「ミルちゃんは、今日は午後からずっと、お兄さまのお手伝いですね」
「ん? お兄さまの? 何の?」
「いろいろな書類の計算が合っているかの確認みたいです」
「ミルが?」
「はい。ミルちゃん、パッと見るだけで長い計算でも簡単にできちゃって、ものすごく頭がいいんですよ」
「そかー」
セラに冗談を言っている様子はない。
あまりの意外な事実に、私は思わずポカンとしてしまった。
「わたくしたちも負けていられませんよね。もっと勉強しないと」
「う、うん。そうだね……。そうだ、セラ。久しぶりに勝負をしようか!」
私は再び話を変えた!
「いいですよー。望むところですっ!」
この後、私たちは、夕食の時間まで楽しく過ごした。
勝負は、うん……。
私の勝利でおわりました。
セラは、今でも純粋で本当に可愛い子です。
さあ。
豪華な食堂でディナータイムです。
陛下に皇妃様にお兄さまにお姉さまにナルタスくんに。
当然のようにミルもいた。
ミルには専用の場所が用意されていた。
いいんだろうか。
とは思うけど、それを言ったら私もなので気にしないことにした。
「クウ、今日もご苦労だったようだな」
お兄さまが言う。
「繰り返しご迷惑をおけかいたしました。なんとか解決しましたので、今回の件は平にご容赦ください」
何故、私が謝らねばならないのか。
そうは思いつつも謝るしかない我が身の悲しさです。
「はははっ! なんだ柄にもない」
お兄さまが爽やかスマイルを向けてくる。
私は息をついた。
「私、この2日で一気に大人になった気分ですよ。町のみなさんへの支援、よろしくお願いします。お金が足りなければ追加で出しますので」
「そちらは任せておけ。すでに動いている」
「クウさま、私も手伝っているのよ!」
「……ミルは計算が得意だそうだねえ。……よろしくねえ」
私はテーブルに伏せて、へたりたい気分です。
すでにテーブルには食器やカトラリーが置かれているので、残念ながらへたることはできないけど。
楽しい夕食が始まる。
「クウお姉さま、僕にもよかったら聞かせてください。新しい精霊さんが帝都に来ていたんですよね?」
「うん。そうだよー」
私は、主にナルタスくんにせがまれて、当たり障りのない範囲で雪と嵐の2日間の裏側をオハナシさせてもらった。
キオについては、ほとんどアンジェに丸投げだったけど。
セラの初詣は、簡単に了承をいただけました。
よかったです。
そして、食事の後は……。
別室に移って、お兄さまとの会談となった。
今回の件は「クウ案件」として、陛下からお兄さまに引き継がれたそうだ。
「クウ案件って、グルメならよかったですねー」
「クウちゃんだけに、というやつか?」
「はい。そうですねー。食うなら幸せですよねー。あははー」
「それで。今後はどうなる予定だ?」
「と言いますと……」
なんのことだろか。
「風と水の大精霊殿が来たのだ。火と土の大精霊殿も来るのだろう?」
「う」
言われてみれば、そうかぁ。
火の大精霊さん……。
「どうした?」
「あ、いえ……。その可能性もありますよね……。どうしましょう……」
「なんだ柄にもない」
困惑する私に、お兄さまがまた爽やかスマイルを向けてくる。
「お兄さまが私をどういう柄に見ているかはさておき、私、火の大精霊さんは本気で苦手なんですよ……。来られるとマズイかも……」
彼のことはよく覚えている。
スーツをビシッと着込んで。
赤い髪はオールバック。
年の頃なら、20代後半くらいに見える男の人。
知的で。
鋭利で。
気のせいではなく、精霊なのに眼鏡をかけている――。
まるで大企業のエリート社員みたいなお方でした。
「クウでも手に負えないのか?」
「クウちゃんだけに?」
「随分と余裕がありそうだな」
「とにかく、すっごい真面目なヒトなんですよぉ。もうなんか、辞書か計算機が歩いている感じの」
「火の大精霊殿か?」
「はい。なので、いきなり大火事とかはないと思いますけど……」
「くくく。なるほど。クウが苦手なタイプか」
「はい」
私、火の大精霊さんと話していると……。
就活に失敗した前世のトラウマが蘇るのです……。
頭がぐるぐるになってしまうのです……。
ちなみに土の大精霊さんのことはまったく知らない。
どんなヒトなんだろうか。




