1165 当たり前だよね!?
「クウさま、シねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「え?」
ドアが開いて、アンジェが現れた次の瞬間――。
その腰あたりから、鋭い風の槍が私に目掛けて飛んできましたが!
いや、うん。
はい。
そんなものが最強無敵のクウちゃんさまに効くはずもなく、片手で握って潰して消しましたが……。
「おい」
私はすぐさま犯人の首根っこをつかみ上げた。
「ふえええええええ! どうして効かないのよおぉぉぉぉ! ぎゃああああああああああああああああ!」
じたばたするキオに、ほんのかるーく魔力を流してあげると……。
ぐったり大人しくなった。
リトでたっぷりと勉強したから、扱いは容易いね。
というわけで。
午後。
のんびり店番をしていると、アンジェとキオ、それに続いて、スオナとアクアがお店にやってきた。
幸いにも、今日はエミリーちゃんはお休みだ。
フラウは大宮殿に行って、魔術師団と魔術の研究をしている。
ヒオリさんとファーは奥の工房。
お客さんもいなかった。
「ねえ、キオ。今回は私1人だったからいいけどさ、もしもお店に他の人がいたら大変だったからね? さすがに許してあげられないよ?」
「ご安心ください、クウさま。キオジール様は、ちゃんと最初からクウさまだけを殺す気でしたから。ピンポイント殺意です」
アクアが、なんの悪びれた様子もなく、むしろにこやかに言った。
「ねえ、アンジェ……。どゆこと……?」
私はアンジェにたずねた。
「あ、いや、うん。そうよね。あはは」
アンジェが笑ってごまかす。
「どゆこと?」
私は繰り返してたずねた。
様子から見て、アンジェも知ってたっぽいよね。
「すまないね、クウ。僕達もいろいろあって、どうも感覚が麻痺していたよ。クウならいいかと思ってしまっていたよ」
スオナが言う。
「そ、そうよね……。よく考えたら、いいわけないわよね」
「当たり前だよね!?」
まったく、もう。
どういうことなのか。
と思ったら、なんか、いつの間にか、ニンゲンに迷惑をかけるのはよくない、だけど私には何をやってもいい。
何故ならクウちゃんさまは、最強無敵だから。
という結論に収まって、4人は仲よく町を散策してきたのだそうだ。
私をどう倒すか……。
そのことで盛り上がりながら……。
結局、私を倒すなら、先手必勝の不意打ちあるのみ!
となったみたいで、先の攻撃に繋がったようだ……。
なんて迷惑な!
アンジェとスオナは、すぐに気づいてくれたから、まだいいけど。
真面目な子だと思っていたアクアが、完全にその気になっていて、自分たちもイタズラする気まんまんだったのがね……。
妖精郷のみんなを誘って、私への迷惑行為を全力で行います!
とか笑顔で宣言された日には、さすがに最強無敵のクウちゃんさまも目頭に熱いものを感じましたよ。
キオは、うん……。
すぐに降伏して、私のシモベになりましたね……。
シモベって……。
逆に、ものすごく嫌なんですけどね……。
まあ、うん。
私は疲れた。
なので、もうそれでいいことにした。
で。
気がつけば夕方だった。
「あー。すっかり遅くなっちゃったねー。スオナとアンジェ、謹慎中なのにバレたら怒られるんじゃない?」
「それはそうだけど……。やむを得ないよね、今日は」
「そうね。もうあきらめているから安心して」
スオナとアンジェが肩をすくめる。
ふむ。
さすがに、そういうわけにはいかない。
完全に私のせいだしね。
いや、うん。
正確には私のせいではないけど、私が関わっていることだし。
「それについてはこれから陛下に伝言をお願いしに行くよ。バレるより先に感謝が届くようにするね」
「アンタね……。陛下に伝言って……」
「クウだけだね、そんな無茶なことができるのは。だけど、ありがたくお願いしてしまうよ。正直、アロド公爵は怖いしね……」
「任せて」
「よかったですね、スオナ」
「ああ。そうだね」
アクアとスオナが微笑みを交わす。
「ふふんっ! クウさまにかかれば不可能なんてないわよね!」
何故かキオが誇らしげに胸を張るけど……。
君のせいだからね?
また泣くと面倒だから、華麗にスルーしちゃいますが。
「じゃあ、悪いけどお願いするわね、クウ。私たちは、そろそろ寮の門限だから悪いけど帰るわね」
「うん。また来年だね」
「そうね。新年はどうする? すぐに集まれる?」
「1日とか?」
「いいわよ。1日なら、みんなで集まって、帝都の神殿に精霊様へのお祈りに行くなんていうのはどう?」
「いいよー」
初詣みたいなものだよね。
「僕も構わないよ。アロド公爵家へのご挨拶は3日の予定だし。謹慎は年内と言われているしね」
「なら決まりね! エミリーたちにも伝えておいて」
「うん。リョーカイ」
「セラは、どうなのかしらね……」
「んー。一応、伝えておくね」
セラは難しいかもだけど。
「ええ。お願い。どうせなら、旅のみんなと行きたいわよね。マリエも」
「あー。だねー」
それはいいかも知れない。
「それにしても、今年もいろいろあったわねー」
アンジェが言う。
「だねー」
それには私も深く同意した。
学院に入って、クラスメイトと仲よくなって、学院祭があって。
夏には旅行して。
冬にも旅行して。
その間には、学院の研修もあって。
あっという間におわってしまった気がする。
「来年もよろしくね、クウ」
「うん。こちらこそ、アンジェ」
「僕もお願いするよ」
「もちろんだよ、スオナ」
私はそれぞれ、アンジェとスオナと握手を交わした。
「私もお願いします」
「もちろんアクアも、またよろしくね」
私が差し伸ばした指を、アクアが両手で握る。
「私は?」
キオがポカンと私を見上げる。
「キオは別に……」
「ふえ?」
「あー、ううん! キオとは年明けに精霊界で挨拶会だね!」
「そういえばそうだったわね! 任せて! クウさまのシモベとして、このキオがクウさまの名の下に、他の精霊どもをバッチリシメておくわ! クウさまの名前さえあれば何をしても――」
「ダメだからね?」
「ふえ?」
「ダメです。私の名前を使うのは禁止です」
「でも私、シモベよ?」
「ダメです」
「ふえ」
「わかった? 大人しくしていること。いいね?」
私は魔力を込めてキオに笑いかけた。
「は、はい……」
キオはわかってくれた。
「クウ、そうやって力づくで脅すのはよくないわよー」
と、アンジェには言われたけど。
違うのー!
これは完全なる、ただの教育なのー!
脅しではないのー!
最後に騒がしく言い訳しつつ、アンジェたちとはお別れした。
さあ、私はまだひと仕事ある。
大宮殿に行きますか。
アンジェたちの無実を、ちゃんと説明しないとね。




