1153 お茶会
カラアゲパーティーは盛況の内におわった。
私はバンザさんに十分にお礼を言った後、皇妃様に連れられて、セラと並んで別室へと移った。
イルとアリーシャお姉さまも一緒だ。
陛下にお兄さま、ナルタスくんとは、食堂でお別れした。
というわけで午後はお茶会となった。
「なるほどなの。カラアゲも最高だったけど、こういうのも美味しいの。ここは美味しいものの楽園なの」
席に着くや否や、イルは用意されたスイーツを食べ始めた。
カラアゲでお腹いっぱいになったはずなのに、まったく本当に、呆れるほどよく食べるものだ。
まあ、うん。
それを言ったらゼノやフラウやヒオリさんもなので、正直、呆れつつもいつもの光景ではあるのだけど。
彼女たちは、なんかこう、食べたものを最効率で魔力変換する機構のようなものを体内に持っているようだ。
ふむ。
もしかしたら、私にもあるのかも知れないね……。
だって、精霊だし。
今のところ機能していないようで、私はカラアゲ2個とサラダでランチは満足させていただいたけれど。
「お気に召していただけたのでしたら光栄ですわ。いつでもご用意させていただきますので、いつでも遊びに来てくださいね」
イルの食べる様子を微笑ましく見つつ、皇妃様が言った。
「それは素晴らしい話なの! イルはここに住んでやってもいいの!」
「あら。それは光栄ですわね」
「こほん。イル、食べおわったら精霊界に帰るからね」
申し訳ないけど、会話を遮らせていただきました。
「そうでしたわね。失礼しました。まずはクウちゃんに確認を取らないといけない話でしたわね」
「クウちゃんさまは横暴なの。自分は好き勝手こっちにいて、イルたちにはダメダメばかりなの。最悪――」
「イルー?」
「クウちゃんさまは最高なの! イルはクウちゃんさまのシモベなの!」
「よし」
「わたくしも少しだけいただきますね」
セラが気を取り直すように笑って、スイーツを口に運んだ。
「では、わたくしも――」
「アリーシャ」
お姉さまがスイーツに手を伸ばすと――。
それはもう優しい笑顔を皇妃様が向けた。
「は、はい……。お母様……」
さすがのお姉さまも、ピタリと手が止まった!
「メイヴィスにブレンダ、それにクウちゃんには本当に感謝するのですよ。ダメでもダメでも助けてくれるのですから」
「わかっておりますわ。3人ともわたくしの大切な友人です」
「クウちゃんは、わたくしのお友だちですけれどね。お姉さまは、ただのお友だちの姉です」
セラが満面の笑顔で迷いなく訂正した!
私は気にせずスイーツを楽しんだ。
クウちゃんだけにくう、なのです。
うん。
美味しい!
お腹いっぱいでも、楽しめてしまうものだよね、スイーツって。
「ところで皇妃様、先程の話なんですけれど……。イルが本当にこちらに滞在することは可能ですか?」
「もちろん大丈夫ですわよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「でも、イルサーフェ様は、サンネイラに神殿があるのですよね? サンネイラでなくてよいのかしら?」
「そうなんですけどねぇ……。さすがに今の状態では、私の目の届かない場所には置けませんよぉ。かといって、私の家に居られても邪魔だし……。どこか適当な場所をと思うと……」
「しばらくここで暮らしていただいて、アリーシャがサンネイラに嫁ぐのに合わせて一緒に移るのはいかがかしら」
「はい。そうですね……。それでいけるのなら助かります……」
「その時には遠慮なく相談してくださいね」
「ありがとうございます」
正直に言うと、イルはずっと精霊界にいなさい!
私がめんどくさいから!
と、言いたい本音もあるのだけど……。
イルの言う通り、私が好き勝手に生きていて、イルはダメ、とは、いつまでも言えないだろう。
そもそもゼノとリトは、とっくに自由にしている。
なので年が明けて、ゼノ主催の精霊界での挨拶会がおわったら、イルには行動の自由を許可しようと思っている。
絶対にトラブルを起こしそうだから気は重いけど……。
しょうがないよね……。
「ところで、お姉さまの婚約話は順調に進んでいるのですか?」
セラがたずねる。
「ハラデル男爵を仲介人として、内々にはまとまっていますよ。当人たちの気持ちに問題はありませんよね?」
「……それは、前提として決まっていることですわ」
ストレートに問われて、お姉さまは照れた!
「そうですか。よかったです。最近、そのお話がなかったので、実は少し心配していたのです。おめでとうございます、お姉さま!」
「ありがとう、セラフィーヌ。でも、まだ秘密ですからね? 発表の前に中央貴族から横槍が入ると面倒ですから」
「はい! わかっております!」
セラは力強くうなずいた。
もちろん私も、おめでとうを言わせていただきました。
お姉さまとトルイドさんはお似合いだし、水の大精霊もついているし、サンネイラの将来は明るいね。
「ふー! スイーツも最高なのー!」
イルは話を聞くこともなく、ひたすらスイーツを食べていた。
実に幸せそうだ。
「イルサーフェ様、お口のまわりが汚れていますよ」
アリーシャお姉さまがハンカチで、イルにキレイキレイしてあげる。
「アリーシャ、それにアリーシャの家族も、イルのことは気軽にイルと呼んでくれて構わないの。アリーシャはイルの契約者なの。ずっと友達なの。気楽に接してくれた方がいいなの」
イルが言う。
お姉さまと皇妃様が私に目を向けてきた。
私は笑顔でうなずいた。
「そうですわね。今後ともよろしくお願いしますわ、イルさん」
お姉さまが言った。
「なの!」
イルが元気に応じる。
続けて皇妃様も気軽なものに口調を変えた。
最後にセラも。
「じゃあ、アリーシャには契約をしてやるの! これで晴れて、アリーシャは水の巫女として――」
「あ、それはまた今度ねー」
「なの!?」
「今日のイルはここまでです。約束だからカラアゲパーティーはしたけど、帝都に大雪を降らせた反省はそれとは別です」
「なのー!」
「そもそも契約なんて、そんなお気軽にやることなの? 水の巫女になるなんて大変なことだよね? ちゃんと水の神殿でやらないといけないよね?」
「なのなの……」
イルは納得したけど……。
セラの視線が痛い!
ごめんね!
超適当にベッドの上で飛び跳ねながら契約したのは私です!
「イルは帰ってしばらく謹慎です。いいですね?」
「なのぉ……」




