1149 カラアゲパーティー
「こんなモノが――。くえるかぁぁぁ! なのぉぉぉ!」
「うわぁぁぁ!」
なんてことするんだぁぁぁ!
イルのヤツ、カラアゲを一口食べて静かになったと思ったら……。
カラアゲを山と積み上げた大皿を、両手で放り投げた!
宙に舞ったカラアゲと大皿は、私が咄嗟にすべてアイテム欄に収納したので実害はなかったけど……。
「こらイル! 食べ物を粗末にしちゃダメでしょ!」
こんにちは、クウちゃんさまです。
というわけで。
カラアゲを手に入れた私は、イルを起こして、早速、約束のカラアゲパーティーを開いたのですが……。
イルはこともあろうに、怒りの食通モードに入ったのでした。
「フンなの! こんなものはカラアゲじゃないの! これは偽物なの!」
「まためんどくさいことを」
「店長、偽物のカラアゲなどあるものなのですか?」
ヒオリさんが聞いてくるので、私は小皿にカラアゲをいくつか乗せて、試しに食べてもらってみた。
私もあらためて食べる。
「これは、まさに普通のカラアゲですね」
「だよねー」
ヒオリさんの感想も私と同じだった。
ちなみにフラウはいない。
私の話を聞いて、私の側に立ってくれたものの――。
とはいえまさか、大精霊と喧嘩になるわけにはいかないからと、イルが目覚める前に雪の帝都の散歩へと出かけた。
「ちがうなの! それはカラアゲじゃないなの! カラアゲというのは、もっと熱くてホフホフで、衣がカリッとしていて、かじると肉汁がジュワーっと溢れてくるものなのー!」
どこの高級品だそれは、と思ったけど。
言いたいことはわかった。
たしかに私が用意したのは、出来合いのカラアゲだった。
しかも胸肉だった。
私的には、さっぱりした胸肉も好きなんだけど……。
イルが言っているカラアゲは、ジューシーなもも肉を使った、揚げたてホヤホヤのもののことだね。
「店長、油と肉はありますか? あるならば、某が揚げましょうか?」
「待てなの。おまえは、ちゃんと作れるなの? プロの料理人なの?」
「いえ……。さすがにプロではありませんが……」
「ならダメなの! 失格なの! アリーシャを呼んでこいなのー! アリーシャにカラアゲを作らせろなのー!」
「……アリーシャお姉さまは、さらにプロじゃないと思うけど」
そもそもお姉さまは、どう考えても食べる専門だ。
と思ったところで、私は思い出した。
そういえば、以前にイルがカラアゲを食べたのは、食の都サンネイラだった。
アリーシャお姉さまも手伝って、トルイドさんが作ったのだ。
トルイドさんは、まだ若いけど、すでに頭角を現している料理の名人。
食の都の次期領主だ。
うーむ。
私は安易に、カラアゲはカラアゲだよね、と考えていたけど……。
イルがその時のカラアゲを基準にしているとすると……。
かなりハードルが高いぞ。
くまった。
これはクウちゃんさま、くまりましたよ。
「昏睡」
「なの」
「……店長? 何を?」
「あ、うん。ごめん、ヒオリさん。ちょっと見ててあげて」
再び私の緑魔法『昏睡』で倒れたイルは、ヒオリさんに預ける。
私は窓から飛んで空に出た。
そう。
くまりながらも、実は私にはアテがあった。
ただ、気は重い。
そのアテを頼るのならば、大宮殿に行かねばならない。
幸いにも陛下は、いつもの執務室にいた。
外から窓をノックして、許可をもらってから中に入らせていただく。
開口一番、陛下は言った。
「まさかとは思うが、クウ。突然の大雪は君の仕業か?」
「いいえ。私ではございません」
「では?」
「はい……。実は、水の大精霊イルサーフェが盛大にやらかしてくれました。大変にご迷惑をおかけしまして……。これは気持ちなのですが……」
私はアイテム欄から5つの木箱を取り出して、テーブルに置いた。
中には金貨が詰まっている。
「何の真似だ? 俺は金になど困っておらんぞ?」
「帝都の復興に使っていただければと……」
「安心しろ。幸いにも一夜でやんでくれたお陰で、大きな被害は出ていない。すでに解け始めているしな」
「気持ちなので、どうかお収めくださればと……」
「まあ、よかろう。では、帝都民の支援に使わせてもらおう」
「ははーっ!」
私は平伏した。
「わざとらしい態度はやめろ。……で、そんな演技をしていることだ、どうせ要件は他にもあるのだろう?」
「さすがは陛下! 彗眼でいらっしゃる!」
私は、今回の出来事を陛下に語った。
その上でお願いする。
「というわけで、できれば……。カラアゲの製作に、料理長のバンザさんのお力をお借りしたいと……」
「構わんぞ」
「ありがとうございます!」
「なあ、クウ。せっかくの機会だ。水の大精霊イルサーフェ殿を、大宮殿のランチに招待してもよいか?」
「私は構いませんけど、いいんですか、いきなり?」
「もちろん構わんぞ。歓迎しよう。カラアゲについても、大宮殿の食堂の方が作りたてを提供できよう」
「ありがとうございます! イルも喜ぶと思います! ただ……」
「どうした?」
「……トルイドさんに負けないように、頑張ってくださいね、と」
「ははは! 料理長には俺から伝えておこう」
「お願いしますっ!」
話はまとまった。
なんと大宮殿の食堂で、カラアゲパーティー・リベンジとなりました!
バンザさんなら万全だよね!
私は安心して、いったん、我が家へと帰った。




