1143 旅のおわりに……。
私は出来事が片付いて、一人、こっそりと息を吐いた。
あぶなかった……。
このクウちゃんさまともあろう者が、あやうく人前で発狂するところだったよ……。
だってさ……。
だってですよ……?
カメ様はウニで、ウニ様はカメなのに……。
カメ様がカメって……。
うん。
はい。
カメ様がカメってどういうことなのおおおおおお!?
あやうく叫びかけましたとも!
もちろん私は冷静ですし!?
精霊ですし!?
おすし!
叫ぶことだけは、なんとか頑張って耐えましたけれども!
しかもお店はフグ!
カメなのにカメで、フグ!
カメは、まあ、わかる。
カメさまだし。
ウニもわかる。
カメさまだし。
でもフグはどこから出てきたの!?
フグもカメなの!?
ちがうよね!?
フグは魚だよね!?
もうさ、完全に意味不明だよね、それ……。
自分でも何を叫びたがっているのか、まったく理解することができないし……。
でも、なんとかおわった。
私は頑張って、理性を回復させるのでした。
ちなみにカメさまの彫り物は、アイテム欄の中に大切にしまった。
家宝にするつもりだ。
「……ねえ、マリエ。もしかしたら、なんだけどさ。カメ様って、本当はカメなのかも知れないね」
私はマリエにポツリとつぶやいた。
「ねえ、クウちゃん」
「うん。マリエ」
「私は、別になんでもかめーへんよ」
「カメだけに?」
「うん。それぞれ信じたいように信じるのが一番だと思うよ」
「そかー」
私の推測は華麗に流されました。
みんな、カメ様に関わると、急に私に冷たいです。
ぐすん。
まあ、仕方ないけど。
カメ様のことをあれこれ詮索するなんて、不敬だよね、わかります……。
というわけで。
というわけでもないけど。
私は今、マリエと2人で壁際に立って、セラと衛兵隊長の難しいオハナシがおわるのを待っていた。
ミルはセラの肩に座って、ご意見番のような顔をしている。
オハナシの内容は、ゴロツキたちとボスの処遇についてだ。
トラブル自体は、簡単に片付いた。
何故なら、彼らのボスは私のことを知っていた。
私の顔を見た途端、ひっくり返られました……。
青の魔王とか言われてね……。
どうやらボスは、私には記憶がなかったけど、以前に海洋都市で蹴っ飛ばして殲滅した一味の元幹部だったようだ。
当時のボスが騒ぎの中で消えて――。
うん……。
私がトリスティン送りにしたヤツだね……。
ファミリーは分裂して、壊滅。
彼は今、船商人として、普通の取引をしているらしい。
部下は単に、手柄を求めて暴走しただけのようだ。
普段は普通に船員をしているらしい。
私の価値観で見ればファミリーという時点で普通ではないし、店に来た連中はどこからどうみてもチンピラだったけど……。
海洋都市的には多分、普通なのだろう。
あそこは力こそ正義の世界だ。
ともかくボスは屈服した。
敵反応も消えていたので、ボスのナオ送りはやめておくことにした。
セラのオハナシがおわった。
結果として、ファミリーの連中には、町で騒いだ罪として厳重注意と罰金が課されることになった。
セラはあくまでお忍びだったし、実害もなかったし、素直に平伏しているので軽めの処置にしたようだ。
私からは、今後はカメ様を敬うようにとだけキツく言っておいた。
オハナシがおわって、お見送りを受けつつ商業港から離れて――。
物陰に隠れて、転移。
私たちはいったん、ディシニア高原に戻った。
高原にはダンジョンがあるので、私なら行くのは簡単なのです。
かくして最後はあっさりと、北での時間はおわった。
時刻は午後3時。
まだなんとか、冬の空は青かった。
私たちは、枯れた景色が広がる広々とした草原で一息をついた。
「ふうー。ようやく本当におわりましたね。疲れましたぁ」
セラがへたり込む。
「だねー。私、お腹がペコペコだよー。ねえ、みんな、ディシニアの町で軽く食べてから帰ろうか?」
「うん。いいよー」
マリエに提案されて、私は笑顔でうなずいた。
「そうですねえ……。帰ったら、いろいろと報告することもあって、のんびりしている暇もなさそうですし……」
「あー。うん。だねえ」
北での出来事は、報告が必要だよね。
「ねえ、クウちゃん」
「どうしたの、マリエ」
「私は帰らせてね?」
「ふふ」
私はニッコリした!
「ねえねえ、クウさまっ! 海洋都市ってどんなところなの? さっきの連中からしてすごそうよね?」
「すごいよー。無法地帯みたいな感じだし。でも、いろんな文化が混じり合って熱があるというか、ワクワクできる場所だよ」
「私も行ってみたい! ねえねえ、遊びに行こうよ!」
「また今度ねー」
ミルには、明日にでもという勢いでせがまれるけど……。
さすがに、しばらくはのんびりしたい。
年が明ければ、今度は調印式があるし。
また忙しくなるのだ。
この後、私たちは高原から町に降りた。
旅の最後の時間を、表通りの小洒落たお店に入って、サンドイッチでもいただきながらのんびりと――。
したかったのだけど……。
「お帰りなさいませ、トラベラーズの皆様!」
なんと即座に小麦売りの商人ウィート氏に見つかってしまった。
どうやらひたすら、私たちのことを待っていたようだ。
トラベラーズというのは、うん。
プリンセス・トラベラーズ、適当に私がつけた皇女様御一行の別名だね。
というわけで……。
旅の最後は、ディシニア小麦の買い取りでおわった。
ウィート氏は、すでに引き渡しの準備を整えていた。
約束通り、私は大量に買わせてもらった。
なにしろ秘密とはいえ、私の浄化魔法で清められた土地で育った小麦なのだ。
どんな味なのか、とても気になる。
すべて魔法のバッグことアイテム欄に詰めさせてもらって、代金についてはその場で支払った。
ちなみにサンドイッチはいただくことができました。
ウィート氏が商館で用意してくれた。




