114 学院祭、2日目!
ついに、というか一晩が過ぎただけなのですが、やってきました当日が。
学院祭2日目。
今日は陰謀渦巻く決戦の日だ。
朝食をヒオリさんと2人で取って、いざ出陣!
ちなみにヒオリさんには、裏であれこれ行われていることは話した。
その上で知らないフリをしてもらうことにした。
学院長といっても、貴族の生徒たちに独断で厳罰を与えることができるほどの権力はないようだし。
表面上は何もなかったように済ませるのが、きっと一番いい。
「店長、くれぐれもですが。派手なことはしないでください」
「わかってるよー、もう。私は地味で慎重なタイプなんだから大丈夫だってー」
「くれぐれもお願いしますよ?」
ヒオリさんに何度も頼まれて少しイラッとしたけど。
作戦はカンペキだ。
問題なし。
そもそも私は前に出ないしね。
学院に行って、アリーシャお姉さまたちと合流。
正門のところで待ってくれていた。
すぐに連行された。
ちなみに私はローブ姿だ。
平和な学院祭で顔を隠しているのはいかにも怪しいけど、念の為、身バレはしない方がいいだろう。
練武場で最後の練習かな、と思ったら、ちがった。
向かったのは昨日のメイド喫茶だった。
「さあ、着替えますわよ」
「え。あ?」
あっという間に脱がされて、昨日の水色のメイド服を着ることになった。
「近くにいた方が助けてもらいやすいでしょう?」
どうやら私、アリーシャお姉さまの従者として、武闘会の前に行われる貴族の園遊会に同席するようだ。
その園遊会こそが悪役令嬢ディレーナさんとのファーストステージとなる。
私の自慢の空色の髪は、ブレンダさんが上手に隠してくれた。
後ろ髪をまとめて、白い布で全体を覆った。
手鏡で見せてもらったけど素晴らしかった。
髪の色が目立たないし、ちゃんとメイドさんっぽい。
ブレンダさんって言動は男勝りだけど、ぬいぐるみが好きだったり髪の扱いが上手だったり意外と女の子だね。
言うと怒られそうなので言わなかったけど。
さらに黒縁のメガネをかけて、変装はバッチリだった。
この変装技は、しっかりと覚えておこう。
今後も使えそうだ。
「私、黙ってうしろにいればいいんですか?」
「ええ。給仕等は必要ありません。うしろにいてくれるだけでよいですわ」
「わかりました」
お姉さまはあえてディレーナさんの用意したドリンクを飲み干すつもりだから私も気を抜くことはできない。
薬物はすり替え済みだけど、あれからディレーナさんたちの様子は見に行っていないのでどうなっているかわからないし。
ああでも、きっとおいしい食べ物がたくさん並ぶんだろうねえ。
私、従者ってことは食べられないのかぁ。
がっかりすると、ならいっそヴェールをかぶって顔を隠し、セラフィーヌに成りすましますかと言われたけど、さすがにそれは辞退した。
メイドで頑張ろう!
支度が完了した後は急いで練武場に行った。
そこでメイヴィスさんとブレンダさんに強化魔法をかけて、最終確認をしてもらう。
2人とも十分に仕上がっている。
強化された身体に振り回されることなく、ちゃんと動けている。
すごいものだ。
見ていて感心してしまう。
相手のドーピングがどれくらいのものかはわからないけど、これで負けることはさすがにないだろう。
ちなみに武闘会は、園遊会がおわってすぐに開始される。
なかなかの過密スケジュールだと思う。
学院祭、2日じゃ足りないね。
私も結局、イベントも屋台も楽しめずにおわりそうだ。
いや待て。
園遊会が始まるまで、まだ時間がある。
私はアリーシャお姉さまにお願いして、少しだけ離れさせてもらうことにした。
ちょっとだけ。
ちょっとだけ見てこよう。
今日もなにか、面白いイベントをやっているかも知れない。
外に出るとステージに人が集まっていた。
お。
何か始まっている。
案内板が出ていた。
吟遊詩人カイル、特別講演
皇女殿下の世直し旅
第一章 祭りの夜に輝く光
とのことだった。
面白そうなので見に行ってみる。
ステージの上に、シンプルな旅装束で立つ1人の若者がいた。
その手にはリュートがある。
若者の顔を見て私は大きな声を出しかけた。
え。
どゆこと?
私は彼を知っている。
ザニデア山脈のダンジョン町で冒険者をやっていた彼だ。
うん。
間違いない。
がんばり屋さんな水魔術師の妹がいる彼だ。
ダンジョンの中で助け続けて、最後は私がブチぎれて半殺しにした彼だ。
その彼が今、なぜかステージの上でリュートを奏で、皇女殿下が帝都を旅立つ場面からを吟じ始めた。
へえ。
何の取り柄もない青年だと思っていたけど、意外にもいい声をしている。
リュートもきちんと弾けていた。
物語は、正直、面白かった。
悪徳商人を成敗するクライマックスは大いに盛り上がった。
ネミエの町での出来事だ。
完全に美化されて、暴れん坊姫様!ってノリだったけど、いいのか悪いのか面白さとしては倍増している。
ボンボン貴族をボンボン商人に変えたのもナイスな判断だと思った。
これなら貴族に睨まれることもないだろう。
うむ。
堪能した。
カイル青年も立派になったものだ。
私は惜しみない拍手を送った。
思わず聞き入ってしまって、結局、屋台巡りはできなかったけど、大いに満足して私は園遊会に臨むのだった。
いやーしかし、人生ってわからないものだね。
私しかり。
カイル青年しかり。




