1135 セラの答えは……。
私はドキドキしつつ、セラからの返事を待った。
実は、ずっと気になっていた。
だけど、なかなかタイミングをつかめず、ここまで言い出せなかった。
何故、にくきゅうにゃ~んだったのか。
クウちゃんだけに、ではなかったのか。
セラは果たして、どんな答えをくれるのだろう……。
「……あの、クウちゃん」
セラが困惑するように言った。
「う、うん。なぁに、セラ」
「いったい、どういうことなんでしょうか。意味がよくわからないのですが……」
「え」
「え」
沈黙が流れた。
「あの、セラ。クウちゃんだけに、だよ? クウちゃんだけに」
クウだよ?
なのにセラは首を傾げるのだ。
「はい……。なんのことでしょうか……」
と。
沈黙が流れた。
「あの、セラ」
「はい。クウちゃん」
セラは、もしかして、私をからかっているのかな?
でも、わかる。
セラは私をからかってなんていない。
本当に困惑している様子だ。
「あ、ううん……。なんでも……」
どうしよう。
どうすればいいのか!
私にはわからなくなってしまった!
だってセラが!
クウちゃんだけに、なのに、なんのことでしょう、なんて……!
もしかして、成長してしまったのかな……。
今日の頑張りで大人になって……。
クウちゃんだけには卒業しちゃったのかな……。
もう過去に、なってしまったのかな……。
それはなんか、寂しい……。
です……。
私は泣きたくなった!
うえーん!
「あ、もしかして……。こういうことですか?」
「どういうこと、かな?」
「クウちゃん。今日、わたくしがにくきゅうにゃ~んをお借りしたのは、精霊様は楽しいことが好きだと、できるだけまっすぐな形で、そのままの言葉と姿で皆に伝えたかったからです。クウちゃんだけには違いますよね? クウちゃんだけには芸ではありませんから」
「え。あ。うん」
「そうですよね。よかったです」
えっと。
えーとぉ……。
あれ。
私は必死になって考えた!
だって、うん!
まさかセラが、そんなにちゃんと考えていたなんて!
まさかセラが、暴走しないだなんて!
「……あの、セラ」
「はい。クウちゃん」
「クウちゃんだけに、くう」
私は言った。
なんとなく、微笑むセラのとなりで言ってみた。
私はセラの反応を窺う。
セラは夜空を見上げる。
そして言うのだ。
「そうですよね……。本当に、クウちゃんだけに、ですよね……」
と。
「そうだね……」
私も同じように夜空の星を見つめた。
ああ……。
未だかつて、こんなにも心穏やかなクウちゃんだけにがあっただろうか。
いや、ない。
生まれて初めての夜に、私は小さく微笑むのでした。
「ねえ、セラ。久しぶりに勝負しようか?」
「はい。なんのですか?」
「ズバリ、しりとり勝負」
「いいですよっ! それ、本当に久しぶりですねっ!」
「うん! だねー」
しりとりは、このイデルアシスの世界に来た最初の頃、セラの部屋で初めてお泊りした時に遊んだ。
当時の結果は、よーく覚えている。
私の全勝……。
だってセラは、「く」あれば「クウちゃん!」だったし……。
「じゃあ、セラからどうぞー」
「わかりました。いきますね」
今夜のセラは、手強そうだ。
初めての夜の時のようには、もういかないだろう。
いざ、勝負!
セラが最初の言葉を口にした!
「クウちゃん!」
と。
「……えっと。セラ?」
「はううううううううううう! やってしまいましたぁぁぁぁ!」
うん。
はい。
私はホッとしたよ。
セラはセラでした。
2日目の旅の夜。
私たちは、本当に優しい時間を過ごした。
ちなみにこれは、夕食の時にシャグル氏から聞いた話なのだけれど……。
夜明けまで兵士たちが大騒ぎをした宴会場は、祈りと祭りの聖地としてこれから大切にしていくそうだ。
しまい忘れていた私のテーブルが祭壇なのだという。
そう言われてしまっては今から回収もできないので、テーブルはそのまま置いていくことにした。
大切に使っていってください。




