1133 セラのとっておきは……。
クウちゃんだけに、くう。
私は悟りを開いたような気持ちで、セラの言葉を待った。
否定するつもりはない。
ないのだ。
何故なら、もう今更だからなのだ。
いいよ、セラ。
どうぞ。
私は笑顔で、ちゃんと見ていてあげるよ。
私は待った。
居並ぶ豪族とその兵士たちの前で、セラが真面目な顔をして、クウちゃんだけにしてしまうのを。
南の島のリザードマンたちのように、みんなでもやっちゃうのだろうか。
それはそれで面白いことだ。
すなわち正義なのだ。
キタイなのだ。
いや、うん。
キタイは……、もう手の届かない場所に行ってしまった……。
のかも知れないけど……。
ボンバーハッピーは、かまに斬られて消えてしまったけど……。
しゃるーん☆ですら、お客さんが押し寄せた結果、ボンバーが代行して、綺麗になくなってしまったのだけど……。
いや、しゃるーん☆は、どうなんだろうね……。
そういえば最近、シャルさんのお店には行っていないや……。
まだバーガー屋をやっているのだろうか……。
私はそんなことを思いつつ、セラのとなりに降りた。
姿は消している。
だけどセラは、私の気配に気づいたのだろう。
セラの肩が小さく笑った、
そんな気がした。
セラが口を開く。
そして、くるっと一回転した。
ん?
一回転?
さらには腕を胸の前に持ち上げると、肉球ポーズを決めて、こう言った。
「にくきゅうにゃ~ん」
んん?
んんんん?
私だけでなく、シャグル氏を始めとした豪族と兵士の皆さんも、それをポカンとした顔で見ていた。
「ぱちぱちぱち」
拍手の音が聞こえた。
見ればマリエが、笑顔で拍手をしていた。
ラシーダも拍手をする。
ハッと我に返ったシャグル氏たちも、慌てて拍手をした。
陣地は拍手に包まれた。
私は呆然として――。
呆然とするあまり、姿を現してしまっていた。
「クウちゃん、何点でしたか?」
「……」
「クウちゃん、何点でしたか?」
「………………」
「クウちゃん?」
何度かセラに呼びかけられて、私もハッと我に返った!
「セラ、今のって?」
「はい。にくきゅうにゃ~んですっ! 実は密かに練習していましたっ! どうでしたか何点でしたか?」
「あ。えっと……。5点?」
「やりましたーっ! わたくし、5点をいただきましたー!」
セラが飛び跳ねて喜ぶ。
いや、うん。
100点中なんだけどね、それ……。
お約束として……。
「もうひとつあります。いきますね」
拍手が静まるのに合わせて、セラは言った。
いや、動いた。
手のひらを合わせた両腕を、まっすぐに上に伸ばして――。
それから――。
その両腕を横に開いていく。
開いた内側には光が広がる。
セラが魔力を発揮して、生み出した真っ白な光だ。
腕は、水平より少し上のところまで動かす。
生まれた光は、まるで傘のようだった。
「きのこ」
セラが言った。
なる、ほど。
私は一瞬、傘に見えてしまったけど、言われてみればきのこだ。
私は拍手した。
みんなも拍手した。
「クウちゃん、私のオリジナル技ですっ! 何点でしたか!?」
「うん! 100点!」
「やりましたー!」
これは、セラにしかできない芸だね!
素晴らしい!
再び拍手が落ち着いてから、セラは語った。
「さて、みなさん。
最初にお見せしたにくきゅうにゃ~んですが――。
実はアレは、とっておきではありますが、わたくしの技ではありません。
あれは、精霊様の御業です」
「おお、なんと……」
シャグル氏が驚きの声をもらした。
「故に、迂闊に真似などなさらないようにお願いしますね」
「ははー!」
「精霊様は楽しいことが好きです。妖精さんも楽しいことが好きです。皆は今後ともお祭りを大切にして、楽しく毎日を生きてください」
「ははー!」
「さあ、皆、最後に祈りを――」
セラが目を閉じて手を組んだ。
なんと……。
驚いたことに……。
それは普通の、精霊神教の祈りだった……。
最後にハイカットって言っちゃうヤツ……。
セラはいったい、どうしてしまったんだろう……。
まるで皇女様に見えるよ……。
皇女様なんだけどね、実際……。
でも、クウちゃんだけに、しないなんて……。
それはいいことなんだけれど。
私はホッとしているんだけど。
真っ赤に熟したキノコでも、セラは食べてしまったのだろうか……。
それって毒キノコだからね……。
正直……。
正直に言うと、セラがクウちゃんだけにしちゃって――。
私が愕然とするところまでが――。
ひとつの芸――。
そんな本音もあったりなかったりするので、ホッとしつつも、少し残念な気持ちもあるような気もするけど……。
いや、うん。
真面目な話、しなくてよかったんだけどねっ!
ホントに!
ともかく。
かくして物語は平和に――。
とは、いかなかった。
別れ際、兵士の1人がセラに泣きついてきたのだ。
病気の母親を救ってほしい、と。
セラはそれに応えた。
すると、他にもたくさんの声が上がった。
結局、この日は馬に乗って、豪族たちの先導を受けて、夜遅くまで各地で治療をすることになった。
マリエとラシーダとミルは港湾都市に帰ってもらった。
マリエとミルは辺境伯のお屋敷で一泊だ。
私たちの分も、たっぷりとおもてなしを受けて、楽しんでもらいたい。




