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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1118 閑話・はぐれ狼オムの新たなる挑戦






「なにぃぃぃ!? ラシーダが馬車でこちらに向かっているだと!? ダンジョン町から!? どういうことだ!」

「はい……。それが、ダンジョンから出てきたとのことで……。つい先程、現地から早馬で連絡が」

「ラシーダは帝都へ向かったのだ! 見間違いだろう!」

「しかし、報告では確かに本人だったと……」

「そんな馬鹿なことが! くそっ! 踊らされたというのか……!?」


 部下からの報告を受けて怒鳴り散らすノカース子爵の姿を、俺は黙って部屋の隅で立ったまま見ていた。

 俺はオム。

 つい半月前までは、チンケなはぐれ狼だった男だ。

 腕っぷしにも知恵にも度胸にも自信のある俺だが、どうにも運だけが足りずに流れ流れている。


 今、俺は、帝国の港湾都市ヴェザにいる。

 ヴェザは、ビナム辺境伯が治める北方地域において最も栄えた都市で、辺境伯もこの都市に住んでいる。

 俺がいるのは、その辺境伯邸に近いノカース子爵の別邸だ。


 俺はこの都市に、海洋都市に拠点を構える傭兵団の一員としてやってきた。

 一員とは言っても、ただの荷物の運搬係だが。

 ただ、この俺のデカい体や、体のキレを見て、ノカースは俺もまた一流なのだと理解したようだ。

 傭兵団の連中が全員仕事に出た後――。

 俺はノカースに認められて、ボディガードの任に就いていた。

 俺は運のない男だが、実力は確か。

 故に辛抱強く仕事をしていれば、必ずチャンスは来るのだ。


 ジルドリア王国の景勝地ファーネスティラでは、闇の力に取り込まれて、危うく死にかけた俺だが――。

 海洋都市では、ナオ・ダ・リムと青の魔王に蹂躙された俺だが――。


 ……成り上がってやるぜ!

 ……今度こそな!


「高い金で密かに雇った傭兵どもは、全員、行かせてしまったのだぞ……。私兵ならば動かせるとはいえ――。しかし、辺境伯領内で迂闊に使えば、どこから足がつくかわからん……。ええいっ! どうすればよいのだ!」

「しかし、旦那様……。帝都へ行っていないのならば、逆に我々にとっては都合が良かったのでは……?」


 荒ぶるノカースに、部下がおそるおそる言う。

 するとノカースは冷静になった。


「ふむ。それはそうだな。帝都から皇女など連れてこられて、光の力で回復などされようものなら、計画が水の泡どころか――。下手をすれば、この私の矛盾した発言が露見しかねんかったからな」


 ノカースは、辺境伯が病に倒れたのを利用して――。

 辺境伯の息子には、側近として、豪族に不穏な動きがあると囁き――。

 豪族には、こちらは間者を使って、辺境伯の息子が地元勢力の一掃を狙っていると危機感を煽り――。

 両者の対立を深めさせていた。

 北方を混乱させ、調停役として実権を握るのが狙いのようだ。

 あわよくば辺境伯の息子を蹴落とし、次の辺境伯の座も、という野心も抱いている様子だった。


「帝国の聖女、セラフィーヌですか……。ただの物語だと思いますが……」

「当然だ。聖女とは、ただ1人、光の精霊様に認められた特別な存在。そんな者が世界に2人もいるものか」


 皇女セラフィーヌのことは俺も知っている。

 光の力を以て、悪党どもを成敗して回っている正義の旅の皇女だ。

 ただ、多くの人間は、ノカースと同じ見解だろう。

 セラフィーヌの話は、あくまで物語。

 虚構だ。

 聖女ユイリア様以外に光の力を持つ者など、いるはずがない。


「報告では、ラシーダ様は皇女セラフィーヌを連れてきたともありましたが、気にされる必要もないことですよね」


 部下が肩の力を抜いた、お気楽な様子で言った。


「なんだと!? 何故最初に言わなかった!」

「皇女とダンジョンから出てくるなど、どう考えても有り得ない話ですし、そもそも皇女に光の力など……」

「それは私が判断することだ!」

「ひぃぃぃぃ! 申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!」


 とはいえ、有り得ない話だろう。

 北の地のダンジョンで、たまたま皇女と出会った?

 事前に打ち合わせでもしていれば別だが。


「……本物だとしたら、厄介だな。つまりそれは、かなり早い段階から打ち合わせがあったということになる」


 どうやらノカースも俺と同じ懸念を抱いたようだ。


「え。それでは、旦那様はもはや……」

「何を言っておるかぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃ! もももも、申し訳ありませんんんん!」


 俺は心の中で笑った。

 無能な部下だ。


「くそ! どうする! 万が一にも本当だったとしたら……!」


 ノカースが地団駄を踏む。

 そこに新しい報告が来た。

 辺境伯の屋敷にもダンジョン町からの急報が届いたそうだ。

 しかもダンジョン町の長と兵士隊長の連名で。


「最悪だ! どうしてくれるのだ! 本物ではないか!」

「し、しかし、来たとて、光の魔力などあるはずも……」

「影に優秀な癒やし手が付いておるのだろう! その者が万が一にも辺境伯の病を癒やしたらどうするのだ! 私のことも疑っておるかも知れん。もはやかくなる上はアレを使うしかあるまい」

「アレ、とは……? なんなのですか……?」


 部下も知らないようだ。


「ふふふ。これよ」


 ノカースが懐から取り出すのは、小袋だった。

 中には金貨が入っていた。


「よし、おまえたち! すぐに我が町に戻るぞ! ダンジョンから街道でヴェザに来るのなら必ず我が町を通り抜ける! 皇女殿下をお迎えして、金にものを言わせて歓待という歓待をしまくるのだ!」

「おお! それはいい考えですね、旦那様!」

「当然よ。暴力だけが手段ではないわ。皇女殿下の歓心さえ得られれば、もはやこちらのものよ! 急ぐぞ! オム、貴様にも来てもらうからな」

「へい」

「貴様には、どうやら見どころがありそうだ。町に着いたら私のとっておきをおまえに預けるとしよう。おまえが動くのは最悪の場合だが、動いても動かなくても成功の暁には俺の私兵に取り立ててやろう」

「へい」


 貴族の私兵とは、ファミリーでいうなら正規の構成員。

 肩で風を切って歩けるようになるということだ。

 俺には傭兵団との契約もあるが、ノカースであれば俺ごとき雑用係を引き抜くのは容易だろう。


 ……何をやらされるかは知らねぇが――。

 ……危険なんぞ、怖かねぇ。

 ……危険もなしに、出世なんて出来るとは思ってねぇしな。


 俺にも再び運が回ってきたようだ。





またまた登場のはぐれ狼オム!


出番1⇒ 725 閑話・はぐれ狼オムの成り上がり

出番2⇒1040 閑話・はぐれ狼オムの成り上がり、ファーネスティラ編


今回は3度目の出番!

果たして今度こそ成り上がれるのかー!?

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― 新着の感想 ―
[一言] クウちゃんと縁のある悪運の持ち主、オムの再登場ですねw オムが自分の悪運に諦めて、更生の道を歩む日は来るのか?
[良い点] いつも楽しく読んでます! 出てきた(笑) オムさんも懲りてないよね~ 三度目の正直で勝ち組になれるか? 仏の顔も何とかで捕まるか! クウちゃん前世で因縁あるの(笑) ま、オムさんいた…
[良い点] オムは悪人にモテるんですね!
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