1116 北への準備! なのとの遭遇!
陛下たちとの会話をおえて、私はすぐにディシニア高原の麓の砦にいるセラたちのところに戻った。
セラたちは、観光に出たりせず、ずっと砦で待機していた。
私は早速、セラに話をした。
「――というわけだから。セラ、帝国の聖女としての大仕事、頑張ってね」
「はい。早くも緊張してきましたけど、わたくし、やります」
「事件の方は私に任せといて」
私はラシーダから、ノカース子爵の身体的な特徴を聞いた。
ラシーダは、マリエの腕に抱きついたまま、素直に教えてくれた。
教えた後で不安げにたずねてくる。
「あの……。ノカースおじさまは、どうなるんでしょうか」
「そりゃ、裁かれると思うよ」
「そうですか……」
「私は連行するだけだから、具体的には言えないけどね」
ラシーダとしては複雑な心境のようだ。
何しろ、親切なおじさまとして信じていたようだし。
「でも、もしかしたら……。わたくし、思うのですけど、おじさまこそが罠にかけられている可能性も……」
「そのあたりも、ちゃんと調べるだろうし、大丈夫と思うよ」
バルターさんに不覚はないだろう。
私も敵感知や魔力感知で、だいたいは推し量ることができるし。
ノカース子爵が明らかに無罪なら口添えはする。
「なんにしたってさ、セラがラシーダのお父さんの病気を治してあげれば、それでだいたいは解決よね。早く行きましょー」
せっかちなミルが出発を促す。
「ごめんもうちょっと待ってて。さすがにここから北に行くのは遠いから、転移陣を開通させてくるよ」
幸いにも、北方にもダンジョンはある。
場所は聞いたので、私なら精霊界を経由してチョチョイのチョイだ。
というわけで、急行!
私は高原の森にあったゲートをくぐって、精霊界に入った。
すると……。
ものすごく面倒なことが起きた。
「カラアゲを食わせろなのー! クウちゃんさまは、一人で遊んでばかりでズルいのズルすぎるなのー!」
水の大精霊こと、なのなの5歳児。
水色の髪のイルに見つかってしまったのだ。
「ごめんねー。今、急いでるからー」
「イルも連れていけなのー! どうせ面白いことに決まっているなのー!」
イルが逃がすものかと抱きついてくる。
あーもう!
私は振りほどこうとしたけど、必死に抵抗された。
面倒なので魔法で眠らせようとすると、その気配を敏感に察知したのか、
「……イルを置いていったら、キオにも言ってやるなの。……2人でクウちゃんさまを待ち構えてやるなの」
とか言ってくる。
「今なら、イルだけで済むなの。オトクなの」
とかも。
あーもうめんどくさい!
とはいえ、キオにまで来られるのは厄介この上ない。
キオは風の大精霊。
気は強いのに、すぐにぴーぴーと泣く子だ。
「はぁ。もう、しょうがないなー」
「やったなのー! これからどこへ行くなの!?」
「その前に、イルは小動物にはなれる? 猫とかフェレットとか」
「なれるなのっ!」
ぽんっ!
と、身を返して、イルが青い小鳥になる。
「これでいいなの?」
「うん。いいよー。その姿でなら、連れて行ってあげるよ」
「カラアゲが食えないなの!」
「クウときだけは、元に戻ってもいいから」
クウちゃんだけに。
「わかったなの」
「はぁ。失格」
「なんでなのー!?」
クウちゃんだけに、しないなんて。
「ごめんごめん。失格ではないんだけどさ、やっぱり今回は遊びじゃなくて真面目なことだから、また今度でお願い」
よく考えれば、ラシーダのお父さんの命にも関わる仕事なのだ。
遊びの子は連れていけない。
「イヤなのー!」
「埋め合わせに、おうちに帰ったらすぐにイルだけこっそり呼んで、カラアゲの山をごちそうしてあげるから」
「ホントになの? すぐに山なの?」
「うん。ね」
「……クウちゃんさまの魔法で作った精霊産のカラアゲはイヤなの。イルが食べたいのはニンゲンの作ったカラアゲなの。ニンゲンの作ったウマウマのカラアゲで山は作れるなの?」
「大丈夫っ! 任せといて!」
なんとかイルはわかってくれた。
疲れた。
私は1人で物質界に戻った。
ダンジョンに入る。
ダンジョン探索は割愛。
転移陣を開通させて、ディシニア高原の砦に戻った。
砦に戻ると、すぐに光の魔力を感じた。
姿を消して様子を見に行けば、砦のロビーでセラが怪我をした兵士たちにヒールの魔法をかけていた。
兵士たちは高原での魔物討伐から帰ってきたところのようだ。
高原は、瘴気が払われてすっかり綺麗だけど、自然の営みとして魔物は発生しているようだ。
みんな、光の力に感動していた。
私は、客間にいたマリエたちのところに行った。
「ただいまー」
「おかえり、クウちゃん」
ラシーダに巻き付かれたままのマリエが、疲れた笑顔で出迎えてくれた。
さすがはマリエ。
環境に慣れてきようだね。
死んだような顔から、疲れた笑顔に回復している。
「……あの、マイヤさまは、転移の魔術、魔法を本当に使われるのですか? お姉さまからそう聞きましたが」
ラシーダが言う。
「あ、私のことはスカイって呼んで。ハロのことはミストでお願い。ここから先は偽名を使わせてもらいます」
蒼穹のスカイと幻影のミスト。
大宮殿で決めた偽名だ。
セラが実名なのに私たちだけ申し訳ない気もするのだけど、これについては許してほしいところだ。
私とマリエは、普通に暮らしているしね。




