1113 皇女セラフィーヌの光のオハナシタイム
こんにちは、クウちゃんさまです。
というわけで。
悪党どもは全員ロープで縛って、まとめて道に置きました。
問題はここからです。
どしたものか。
私の大親友の一人、ゼノリナータさんがいればね……。
いくらでもオハナシなんて聞けるんだけど……。
あいにく今回、ゼノはいない。
呼びに行ってもいいんだけど、グチグチ言われるだろうしなぁ……。
「ところで、マイヤ」
「はい。なんでしょうか、セラフィーヌ様」
「わたくし、北方へ行くことを決めました。ラシーダさんのお父君の病を光の力で癒やすためです」
「はっ! 了解しました!」
私はまたマリエの真似をして敬礼しましたが……。
ふむ。
セラ、行くことにしちゃったかぁ。
陛下とは、北には関わらない、北には行かないって約束したけど……。
理由からして、やむなし、だよねえ……。
行くなとは言えない。
正直、私も行くべきだと思うし。
「ただ姫、まずはこいつらからオハナシを聞いてみましょう」
私はヘビータたちに目を向けた。
すでに悪党どもは目を覚ましている。
ほどきやがれ!
ぶっ殺すぞ!
とかの威勢の良い声が響いているけど私は気にしない。
しかし、本当にどう話を聞いたものか。
実のところを言えば、試したことはないけど、ゼノと同じ闇の尋問は私でもやろうと思えばできる。
でも、それをやっちゃうと、なんか一線を越えるような気がして、どうしても及び腰になるのです。
ゼノにお願いしている時点で同罪ではあるのですが……。
それでも、なのです……。
特に、お友だちの前ではやりたくないのです。
と、私が葛藤していると――。
「それではわたくしが、直にオハナシを聞きましょう」
セラが堂々と前に出た。
どうする気だろう。
「わたくしは、バスティール帝国第二皇女セラフィーヌ・エルド・グレイア・バスティールです」
セラが堂々と名乗りを上げる。
「わたくしは貴方がたに、帝国皇女としていくつかの質問を行います。答えれば良し。答えぬ者は、帝国への叛意有りと見做します。宜しいですか。運命の分かれ道だと思って、よく考えて返答なさい」
こわっ!
セラ、こわっ!
なんかゾッとするくらいに冷たい迫力があるんですけど!
「では右から順に、所属と氏名を述べなさい」
発揮された光の魔力に輝いたセラの白銀の双眸に見据えられて、一番右の人がビクンと全身を震わせた。
光の魔力には心に対する強い影響力がある。
畏怖させたり、信頼させたり……。
セラの力はユイやナオと比べればまだ未熟だけど、それでもただの人間には効果を持つはずだ。
皇族としての権威もあるのだから、尚更に。
ただ残念ながら、彼らは口が固かった。
捕まって、皇女を前にして、光の力を当てられても、そっぽを向いて知らんぷりをしたのだ。
とはいえ結論を言えば、結局、すべてしゃべった。
ユイがセラに伝授した白魔法――。
「チャームパーソン」
効果は、相手を魅了し、自分を親友と思わせる。
を掛けたからだ。
うん。
セラも意外と容赦ないねっ!
というかユイ、そんな危険な魔法までセラに教えていたんだねっ!
セラが悪用するとは思わないけどっ!
セラが選んだのは、戦闘中に指示を出していた男だ。
彼は残念ながら、魔法に抵抗できなかった。
セラを親友と信じ込んで、聞かれたことをすべて話した。
彼は、荒くれ者でも冒険者でもなく、北部に領土を持つ貴族、ノカース子爵家の子飼いの部下だった。
あとの連中は、海洋都市を根城とする傭兵団の構成員だった。
お金さえ気前よく払えば、暗殺だろうが誘拐だろうが、なんでもこなす危険極まりない連中だった。
帰って覚えていたら、ナオにチクろう。
海洋都市は、ナオの影響力がかなり強い場所なのだ。
ちなみにヘビータは、傭兵団の幹部らしかった。
裏の世界では有名な存在らしい。
ノカース子爵は、ラシーダの兄を密かにそそのかして、豪族との間に決定的な対立を生み出し、血みどろの騒ぎになったところで――。
自らが調停者となることで、権益を拡大、あわよくば次の北の辺境伯を狙っているらしい。
ちなみにノカース子爵の名は、ソソというらしい。
繋げて、ソソ・ノカース。
まさに、その人と言うわけだ。
なんか、うん。
たまにこういうわかりやすい人がいて面白いよね、世界って。
彼らの目的は、ラシーダの暗殺。
兄の仕業とも豪族の仕業ともつかない帝都の近郊で殺すことで、中央からの余計な横槍を防ぎ――。
さらには、調停の障害とならないようにしたかったようだ。
豪族が殺したとなると、調停が難しくなる。
兄が殺したとなると、ノカースも事件に巻き込まれる可能性が高い。
ということのようだ。
ちなみにラシーダのお父さんは、本当に病気のようだ。
少なくとも子飼いの部下は、ノカースが毒を入れたという話は聞いたことがないと断言した。
最初の頃は普通に心配していたそうだ。
不治の病だと確信して、野心を抱いたようだけど。
というわけで。
子飼いの部下の知っている範囲ながら、事件は解明された。
「……まさか、ノカースおじさまが犯人だなんて。信じられません。親切で優しい人だと思っていたのに」
ラシーダはショックを受けていた。
しくしくと泣いてしまう。
父が倒れて以降、ノカースは頻繁に辺境伯家を訪れてラシーダにも励ましの言葉をかけていたらしい。
ラシーダは、ノカースにセラに治療を頼むことも相談したそうだ。
その時は、辺境伯家が中央に助力を求めるなんて大恥になる、皇女が北方に来るなんてあり得ない――。
さらには、父はきっと回復すると言われて……。
一度はあきらめたそうだけど――。




