1112 麗しのお姉さま!(マリエ視点)
「お姉さま! お姉さま! 光と闇をまといしハロお姉さま! ああ、お姉さまは聖女様だったのですね! いいえ、闇の力をも扱うお姉さまは、もしかして聖女様以上の存在なのでしょうか!」
「えっとお……」
ラシーダ様に両手を握られて、キラキラな目で称賛されて、私、マリエはどうしていいのかわかりません。
だって、はい。
闇はミルちゃんの力。
光はセラちゃんの力。
どちらも本当の力です。
私の力ではないけど、偽物ではありません。
ちなみに墜落したミルちゃんは、メイドさんが保護してくれました。
「わたくし、お姉さまを称える言葉を思いつくことができません! 世界で一番でしょうか! 宇宙で一番でしょうか! それともそれとも! ああああ、どうか駄目な妹をお許しください!」
私が戸惑う内、ラシーダ様は落ち込み始めました。
なんでしょう。
私、クウちゃんの苦労を少しだけ理解しちゃった気がしますね。
具体的に誰がという話ではないのですが。
「ハロお姉さま!」
「は、はい」
「……わ、わたくし。先程のことを思い出したら、急に怖くなって震えてきてしまいました。あの、抱きしめてもいいですか?」
「えっと。あのー」
私はメイドさんに助けを求めて、視線を向けました。
するとメイドさんにお辞儀されました。
それはえっと、抱きしめさせてあげて、ということでしょうか。
「はい……。私でよければ……」
「お姉さまー!」
全力でぎゅっとされました。
ラシーダ様は、私よりも頭ひとつ分くらいは背が低いです。
ちょうど、私の胸にラシーダ様の顔が当たるくらいの感じです。
というか、思いっきり胸に顔を押し付けられました。
くすぐったいんですけど……。
グリグリされているんですけど……。
気のせいか、スーハーされているんですけど……。
ホントに怖がってるんですか、これ!
私は引き剥がしました!
「ああ、お姉さまー! わたくし、まだまだ怖いです!」
「元気そうですよね!」
「はっ!」
「……どうされたんですか?」
「さすがはお姉さまですね。ごめんなさい。本当は、お姉さまのおむねの感触が気持ちよくって、つい」
はっきり言われても、困りますよ……。
私、どうしたらいいんでしょう。
ここでようやくメイドさんが助け舟を出してくれました。
「お嬢様、遊んでいる場合ではないと思いますが。そろそろ、真面目な話をされてはいかがでしょう」
「そ、そうでした……。わたくし、つい……」
怖かったのは、本当なのでしょうけど。
だって殺されかけたのです。
「もう大丈夫ですよ。そろそろセラフィーヌ様も来ると思いますので、来たら紹介しますね。話はセラフィーヌ様にお願いします」
私は優しく言葉をかけました。
するとタイミングよく町へと続く側から、礼装姿のクウちゃんとセラちゃんが現れてくれました。
「ほら。来ましたよ」
「――はい」
2人の姿を見て、ラシーダ様が姿勢を正します。
清廉とした態度でした。
先程までの変態ちっくな妹モードはどこへやら、です。
「ハロ、ご苦労でした。悪党の退治は済んだようですね」
セラちゃんが、まるで自分は一切関与していないような顔で、まさに皇女様としてしゃべりかけてきます。
いえもちろん、セラちゃんは皇女様ですが……。
普段はラフに接しているので……。
「はっ! 完了しました!」
私はピンと体を伸ばして、敬礼して答えました。
するとクウちゃんが、プッと笑います。
笑わないでよー!
兵士って、こういう風に返事をするものだよね!?
「マイヤは、悪党の拘束をお願いします」
「はっ! 了解しました!」
クウちゃんがピンと体を伸ばして敬礼します。
私の真似ですかー!?
真似ですよねー!?
だって私の方を見て、ププってまた笑ったし!
クウちゃんは、すぐに消えましたが。
ここでセラちゃんが、皇女様の顔でラシーダ様に向き合います。
「北方、ビナム辺境伯家のラシーダと申します。この度は危ないところをハロ様に助けていただき、心からの感謝を」
「ご無事で何よりです。しかし、北方辺境伯家の未成年の女子がどうしてディシニアに?」
ラシーダ様が改めて事情を説明します。
病気の父親を救うために、皇女様の光の力を借りたいと。
話を聞いて、セラちゃんは2つ返事でうなずきます。
「わかりました。わたくしでよければ、力になりましょう」
「本当ですか! ありがとうございます、セラフィーヌ殿下! このご恩はわたくし一生忘れません!」
「恩を感じていただくのは、助けることができてからで結構ですよ」
鷹揚に構えたセラちゃんは本当に皇女様です。
ユイナちゃんもそうだけど、公私の切り替えが完璧です。
クウちゃんにくうくう言って甘えたり、くうくう言って困らせたりしている子だなんてとても思えません。
しばらくするとクウちゃんが、ロープに縛った荒くれ者たちを魔法で宙に浮かせて飛んできました。
荒くれ者たちを地面に落として、また行ってしまいます。
何往復かして、ヘビータも含めた全員を集めて、ようやく着地します。
「姫、これで全員です」
「ご苦労でした」
「はっ! 完了しました!」
体をピンと伸ばしてクウちゃんが敬礼します。
そして、ニヤリとして私に目を向けてきます。
私の真似ってことだよね、また!
どうしてクウちゃんは、いつでも遊び心を忘れないんですか!
真面目にやりましょうね!?
と言いたかった私ですが……。
もちろん空気を読んで澄まし顔を続けましたとも。
何しろ私は、いつものマリエではありません。
皇女様の右腕という謎の存在、幻影のハロなのですから。




