1106 幻影のハロ(マリエ視点)
こんにちは、私、マリエです。
私は今、ディシニア高原の麓のダンジョン町に来ています。
歌劇に出てくる女騎士みたいな、カッコいい礼装に身を包んで。
はっきり言って、注目を集めまくっています。
私のフルネームはマリエ・フォン・ハロ。
皇女殿下のお供、幻影のハロとは、まさに私のことです。
先程、グルメを求めて裏通りを歩いた時なんて、物陰からの視線が突き刺さって痛いくらいでした。
クウちゃんとセラちゃんは平然としていますけど……。
私には無理です……。
出血多量で死んでしまいそうです……。
と思っていたところ。
なにやら唐突に現れた小太りな中年男性の商人さんがクウちゃんの知り合いで、これから静かな場所で話を聞くのだそうです。
私は、ホッとしました。
ようやく、人目を気にせず休憩することができそうです。
私は、はい……。
単に付いてきただけのおまけの子で、ここまで自分の魔法で飛んで来たわけではないのですけれども……。
連れてこられるだけというのも疲れるのです。
「ねえ、クウさま。それなら私、幻影さんと一緒にお散歩しててもいいー? 話を聞くだけなんて退屈だし」
ミルちゃんが言います。
私はそれを、完全に他人事として聞いていました。
幻影さんとは誰のことなのか。
なんかやっぱり疲れていたようで、すぐに理解できなかったのです。
「んー。危なくない?」
「平気よー。さっきの通りでも平気だったでしょー。それに私、ちゃんとアンジェリカたちとも旅をしてきたわよ」
「それもそうか。じゃあ、マリエから離れないようにね。後から迎えに行くからさ」
「はーい!」
ん?
マリエって、私?
あれ、そういえば幻影って私かぁ……。
気づいた時には手遅れでした。
「さ、行こう、マリエ! 私たち2人で、この町を探索よ!」
「え。あ、あの」
「ほら、早くー」
ミルちゃんが私の背中を押します。
意外と力があって、私は押されるまま歩いてしまいました。
ああああああ!
クウちゃんたちが行ってしまいます!
セラちゃんは、クウちゃんと手をつないで満面の笑みです!
私のことなんて、もう忘れています!
頼りのクウちゃんは、ウィートさんという商人に矢継ぎ早にしゃべりかけられて返答に大変そうです!
私はミルちゃんに押されるまま、みんなとは別の方向にぃぃぃぃ!
気がつけば私、見知らぬ町にポツンとしていました。
ど、どうしよう……。
私は途方に暮れました!
「まずは、マリエが好きに歩いていいわよ。私はお姉さんだから、マリエが失敗しないようにサポートしてあげるわ」
ミルちゃんが私の肩に座ります。
そういえばミルちゃんもいるんでした。
少しだけ安心です。
安心していると、まわりからひそひそ声が聞こえます。
おい、あれって……。
皇女様の旅のお伴じゃねーか……。
だよな、妖精もいるし……。
ホントにつえーのか?
ただのガキに見えるけど……。
だなぁ……。俺でも勝てそうだけど……。
しっ! テメェら、聞こえたらヤベェこと言うなよ……!
ああ、なんか早くもまわりの人たちが私とミルちゃんに気づいたようです。
そりゃ、気づきますよね。
なにしろ思いっきり目立つ礼服姿ですし。
腰には剣まで付けてしますし。
どこからどう見ても庶民ではありませんし私は庶民ですけどね!
喧嘩なんて売られたら即死ですよ!
「マリエ、ぶっ飛ばしてやれば? あいつら、マリエのことを弱いとか言ってバカにしてない? 幻影のハロの力を見せてやりなよ」
気のせいか、ミルちゃんの声が冗談に聞こえませんっ!
なんでだろうね!
「あははー」
うん。
逃げよう!
私は即座に空気の奥義を発動した。
あくまでも自然体、それが気配を消す基本にして極意です。
私はスタスタと歩いて、その場から離れました。
幸いにも絡まれることはありませんでした。
で……。
ひたすら人の目を避けて歩く内……。
気がつけば、町外れにまできてしまいました……。
人気はありませんが、不気味です。
なんか、はい。
オバケか悪党でも出てきそうな感じに。
まわりは、雑木林です。
小さな広場には、たくさんの瓦礫が積まれていました。
魔物に壊された残骸でしょうか……。
「ねえ、マリエ、あれ――」
ミルちゃんが指差す先、瓦礫の山の奥に一台の馬車が止っています。
明らかに不自然です。
場所自体は町から土道でつながっているので……。
来ること自体はできると思いますが……。
私も普通に歩いてきたわけですし……。
「ちょっと見てくるね」
ああ!
私が止める間もなく、ミルちゃんが飛んでいってしまいます。
と思ったら戻ってきました。
「マリエ、大変……!」
ミルちゃんが声を抑えて叫びます。
「奥の森の中で、女の子が襲われてる! 助けてあげて! 早く!」
ええええええ!
私に言われてもおおお!




