1097 旅のお誘いは……。
「さあ、クウ。次は私たちの旅の話を聞いてよ! クウにも聞いてほしくて、しゃべらずに待っていたんだからね!」
「おー。聞く聞くー」
というわけで、アンジェとスオナの旅の話を聞かせてもらった。
2人はなんと走って、食の都であり水の神殿の町でもあるサンネイラまで妖精たちと共に旅してきたのだ。
道中は、ミルが勝手にお店の甘味を食べたり……。
ミルが面構えだけで強盗と勘違いして冒険者たちに喧嘩を売ったり……。
休憩中にミルが勝手に散歩に出て、声をかけられるまま付いて行って誘拐されかけたり……。
水の神殿では信者たちに精霊の使徒のような態度を取ったり……。
挙げ句、領主夫妻にまで上から目線で語ったり……。
いろいろと大変だったようだ。
「全部ミルだね」
それが私の実直な感想だった。
「クウから話は聞いていたけど、予想以上だったよ」
スオナが疲れた顔で笑った。
「ミルお姉さまは、好奇心旺盛で本当に素晴らしいお方です」
アクアの声に嫌味はない。
本気で思っているようだ。
「今の私たちには丁度いいくらいの刺激だったわね。今の私たちって、自分で言うのも何だけど本気で最強だし」
「ちなみに戦いはあったの?」
私は自信満々に胸を張るアンジェにたずねた。
「道中、森の中でキノコ狩りの女の子が狼に襲われていたのは助けたわよ」
「へー。よく見つけたね」
「私たちは気づけなかったけどね。ミルが悲鳴を聞き取ったの」
「ちなみに、2人で戦う時って、アンジェが前なの?」
「フォーメーション?」
「うん。アンジェ、こだわってたよね」
「懐かしいわね、それ」
「だねー」
アーレの町で出会った日、私が前で、アンジェが後ろで、とか、そんな話で盛り上がっていたものだ。
「スオナと一緒に戦う時は、2人で横並びね」
「へー。そうなんだー。アンジェが剣も習っているのは知っているけど、スオナも剣はやっているの?」
「僕は、剣はやっていないけどね。橋の下で暮らしていた頃に研究していたから接近戦もやろうと思えばできるよ」
そう言ってスオナが見せてくれるのは、水の魔力で作った盾だった。
盾の表面からは、水の矢を射出することができるそうだ。
守りつつ攻めることができるという。
「ホント、器用よねえ。私も練習したけど、無理だったわ。そもそも動きながらだと維持できないし」
「アンジェの場合は、身体強化して斬りかかった方が早いだろうしね」
「まあね。私もその結論に至ったわ」
なんにしても、ミルが役に立つこともあったようだ。
よかったよかった。
そんなこんなで、旅の話は楽しく聞かせてもらった。
その後で私は年末の旅行の話を切り出した。
すると……。
「ごめん、クウ!」
いきなりアンジェが頭を下げて、手を合わせてきた。
「どしたの?」
「そのことなんだけどね、駄目になっちゃったの」
「済まないね。実は僕もなんだ」
「どして?」
なにかあったの?
私は心配したけど……。
うん、はい。
関係者各位に無断で女の子2人旅をしたことがあっさりとバレて……。
フォーン大司教からは穏やかに説教され……。
アロド公爵からは、とても冷たい声で警告を受けたらしい……。
まあ、しょうがない。
そりゃ、怒られるよね……。
今日ここにこれているだけ、まだマシだろう。
私はヒオリさんたちにも話を振った。
すると、こちらも……。
「クウちゃん、ごめんねっ!」
なんとエミリーちゃんが謝ってきた。
「実は、クウちゃんの許可さえもらえれば、あとしばらく、再び竜の里に籠もろうと話していたのである」
「うん……。ハトちゃんの研究を、もっとしたくって……」
「申し訳ありません、店長! 某も最先端のゴーレム研究を見逃すことはできないので竜の里に行かせていただければと!」
「フラウがいいならいいけど……」
竜の里に、ポンポン人を招いていいのだろうか。
と私は思ったけど。
「妾は構わぬのである。ヒオリもまたクウちゃん工房の仲間なのである」
というわけで、エミリーちゃんたちも行かないことになった。
研究より旅を優先させろー! なんて言うつもりはないので、私は快く3人を送り出してあげることにした。
ちなみにゼノは、最初から今回の旅行には来ない予定になっている。
ゼノは、年末はアリスちゃんと一緒に過ごす。
魔法少女アリスちゃんの新衣装と新技を2人で考えるそうだ。
夕方。
私は、そのことを大宮殿に戻ってセラに伝えた。
セラは、いつものように願いの泉のほとりで精神集中の訓練をしていた。
なので、すぐに合流できた。
話を聞いたセラは、ぱぁぁぁぁぁっと表情を輝かせた。
「では! 今回はクウちゃんとの2人旅ですね! 皆さんが来れないのはもちろん残念ですけど……。わたくし、感激です! いったい、2人だけの旅なんてどんなことになっちゃうんでしょうね! わくわくしますね! あ、ミルちゃんも来るなら3人ですね。まあ、でも、ミルちゃんはマスコット枠ですし、実質的には2人旅ですよね! どうしましょうねー!」
「あはは。マリエも来るかもだけどねー」
「あー。いましたね、マリエさんが」
「ん? どしたの?」
気のせいか、急に無表情になったような。
と私は思ったけど、
「え? なんですか? ふふふ」
と笑うセラは、無邪気ながらも上品で、まさに皇女様だった。
やっぱり気のせいだったようだ。
あはは。
私も笑った。




