1091 御主人様決定選手権大会!
「おまえらー! マゾの子がほしいかー!」
「「「おおおー!」」」
「でも、聖女様が怒るから奴隷はダメだってよー!」
「「「えー!」」」
「でも安心しろ! 結婚だ! 結婚のチャンスはあるってよー!」
「「「女はー!?」」」
「バカ野郎! 女同士だってありだろうがよー!」
「「「おおおー!」」」
スキンヘッドが輝くモルド辺境伯の熱い煽りの下、闘技場にて御主人様決定選手権大会は始まった。
何故か当然のように観客も入っている。
完全にお祭り騒ぎだ。
まあ、うん。
私は、この無意味な熱気、決して嫌いではない。
むしろ好ましいです。
ちなみに私は今、特設ステージ上のお姫様席に座っている。
とてもとても恥ずかしいです。
とてとてです。
ステージの下にはお兄さまたちが並んでいる。
これから、奥に控えている参加選手たちが、それぞれに対戦相手を決めて、お兄さまたちの前に列を作るのだ。
安全については、モルド所属の魔術師さんたちがかける保護の魔術で確保する。
私とゼノがいるので、万が一のことが起きても問題はない。
ちゃんと蘇生します。
渾身の力で楽しんでもらおう。
ちなみに大会は、第一部から第三部までの部数制だ。
部ごとの参加選手は200名。
制限時間は2時間。
うしろに並びすぎて時間が来てしまったら、それでもアウト。
「さあ! テメェら! 戦いたいヤツの前に走りやがれ! 喧嘩祭りの始まりだ!」
スキンヘッドを陽射しにきらめかせる辺境伯の宣言で、大会は開始された。
参加者たちが、次々とお兄さまたちの前に立って名乗りをあげていく。
それをお兄さまたちは片っ端から倒した。
ふむ。
思ったよりも差があるね。
と思ったけど、ちがうか。
真っ先にツッコんできたのは威勢のよい若手ばかりだ。
ベテラン勢は、様子を見ている。
対戦希望の行列は、意外にもというか、次期辺境伯なのだから当然なのかな――。
ウェイスさんが一番に長くなった。
続いてお兄さま。
ブレンダさんのところにも多くの人が並んだ。
この3人はまさに激闘だった。
後半からはベテラン勢が出てきて、押される場面も増えた。
それでもお兄さまたちが優勢なのは、まさにこれまでの特訓の成果だろう。
モルドの人たちには、「こいつらゾンビかぁ!」とか言われていた。
なんか、うん。
打たれても打たれても戦うお兄さまたちは……。
まさにそんな感じがした。
メイヴィスさんは、残念ながら対戦の途切れることが多かった。
モルドでは知られた名前ではないしね。
挑戦意欲を掻き立てられる相手ではなかったようだ。
お姉さまは最初から若手限定なので、列もそれなりだった。
とはいえ激闘だったけど。
結局、第一部では、6人の猛者が私の元にたどり着いた。
全員、蹴っ飛ばしておわったけど。
第一部がおわって休憩時間となる。
「大丈夫ですか?」
私は、座り込んで動けなくなったお兄さまたちにたずねた。
まだあと2回、戦いは続く。
「ふふ……。はは……。仮にも精霊の試練をくぐり抜けてきた俺達だ、並ではないと自覚しているが、さすがはモルドの兵だな……」
お兄さまが力なく笑う。
「昨日のダンジョンより、ずっと辛いですわ」
はしたないことに、お姉さまが仰向けに寝転んでしまった。
「だなぁ……。目算が狂ったぜ……」
ブレンダさんも、すでにお疲れの様子だ。
「まったく。羨ましいです」
メイヴィスさんは余力たっぷりで不満げな顔をしていた。
まあ、うん。
私は気づかないフリをした。
一番人気になっていたウェイスさんは、言葉を発することもできず倒れていた。
やがて時間が来て第二部が始まる。
お兄さまたちは第一部よりも苛烈に激戦を繰り返した。
残念ながら私のところに来るモルド兵は一部より増えてしまったけど、十分に今までの訓練の成果は見せていたと思う。
最後の第三部では、もはやお兄さまたちはボロボロで、私も連戦する羽目になった。
三部ではバスクさんが出てきて、なんとメイヴィスさんのところに行った。
2人の戦いは、実に見応えがあった。
結果はバスクさんの勝利だったけど、メイヴィスさんの鋭い一撃が何度もバスクさんを貫きかけていた。
あと一歩届かなかったのは、やはり経験の差だろう。
メイヴィスさんのところには、さらにモルド辺境伯の奥様とその直属の部下が並んだ。
第三部では、メイヴィスさんも戦いを堪能できた。
不完全燃焼にならなくてよかった!
ラーラさんはウェイスさんのところに行って、お疲れなウェイスさんを容赦なく倒して、私のところにまで来た。
私は、うん。
バスクさんもラーラさんも奥様も蹴っちゃいました。
3人はいい人だと思うけど、さすがに御主人様と呼ぶ気はないのです。
ちなみにタイナは来なかった。
残念。
トリを飾るのは、なんと辺境伯本人だった。
ウェイスさんと戦った。
結果は、辺境伯の勝利。
ふらふらのウェイスさんを容赦なくぶっ飛ばして、豪快に笑った。
そして、私との最終決戦をして……。
夕方。
お祭りはおわった。
最後は、私に蹴っ飛ばされてひっくり返りながらも、脅威の回復力で早々と復活したモルド辺境伯の締めの挨拶だ。
「テメェら、今日はよく戦った! 俺も戦ったが、結局、誰もマゾの子には勝てなかったなぁ! がはははは! 世界は広いってことが、よくわかっただろ! 学院生のガキ共も強かっただろ! テメェらの大半には言ってなかったが、男の一人は皇太子で、女の方は皇女とウェイスの婚約者だったんだぜ! どうよ! 帝国とモルドの未来は明るいよな!」
おおおおおお!
参加者たちが元気いっぱいに威勢を上げる。
「おーし! 今夜は宴会だ! このまま闘技場に食うモンと飲むモンを運ばせるから思う存分に楽しみやがれ!」
おおおおおおおおおおお!
さらに大歓声が起きた。
「私たちはどうしましょうね」
私は、闘技場の隅でぐったりして動かないお兄さまたちにたずねた。
本当なら帰らないといけない時間だけど……。
夕方には帰るべしと言ったのは私だけど……。
この後の宴会に参加しないのは、もったいない気がする。
「……せっかくだ、参加しよう。……モルドの者達とも縁を深めて損はあるまい」
お兄さまが絞り出すような声で言った。
「はーい」
楽しい最後の夜になりそうだ。
「それにしても……。悪かったな、クウ……」
お兄さまが言う。
「えっと。何がですか?」
謝られても、私には心当たりがなかった。
「おまえをちゃんと守れなかった。かなり抜かれてしまったな」
「あはは。そんなことはないですよー」
「ふ。次に機会があれば、今度はもっと守ってみせる」
「期待していますね」
「任せておけ」
お兄さまが小さく笑う。
その笑顔を見て、私はしみじみと思った。
思えば、仲良くなったものだなぁと。
まさかお兄さまの口から、私を守るとか、そんな言葉が出るなんて。




