1090 旅、5日目
さあ、ついに旅も5日目、最終日の朝を迎えました。
お兄さまたちがちゃんと起きてくるか微妙なところだったけど、お兄さまたちは普通に起きてきた。
お兄さまたちは随分と強くなった。
加えてこの旅では、すでに一度、成長酔いをしている。
クウちゃんずチートなしの自力ダンジョン探索では、二度目の成長酔いとまではいかなかったようだ。
みんなで一緒に朝食を取る。
今日はちゃんとゼノもいる。
「クウ、俺たちは予定通り、今日もダンジョンに行くが――」
「予定通り、ちゃんと午後には帰ってくださいね?」
私は、ニッコリとお兄さまにお願いした。
お兄さまはシレッとした顔で、
「わかっている。午後だな」
「夕方ではないですからね? 空が赤くなる前に、ですよ?」
「ふむ……。午後と言えば、夜でも午後と……」
「今夜の夕食は大宮殿で陛下たちと取る予定でしたよね?」
「それは1日くらい伸ばしても……」
「まったく。何を言っているんですか、皇太子ともあろう者が。ちゃんと常識的に動いてくださいよ」
私がお説教しようとすると……。
外から変な大声が聞こえた。
たのもー!
たのもー!
しかも複数。
嫌な予感がした。
マゾの子、出てこーい! 勝負だー!
俺が御主人様だー!
御主人様に、俺はなるぞー!
別邸とはいえ領主の館の前で、こいつらは何を叫んでいるのか……。
衛兵は止めないのか……。
私は呆れ返ったけど、モルドでは普通なのか……。
「ちゃんと常識的に動く君が、常識的に呼ばれているようだぞ?」
お兄さまが言う。
その他のみんなは笑った。
私は無視して食事を続けたけど……。
バン、と、ドアが開いて朝からバスクさんが現れたと思ったら、
「エルフの子! 闘技場の準備ができたぞ! さあ、来い! 御主人様決定選手権大会を始めるぞ!」
「朝から何ですか、それは……」
さすがに無視も出来ず、私はぼやいた。
まあ、はい。
エルフの子と言っているだけ、かなりマシですが。
私はエルフではありませんが。
「何って、今日がラストチャンスだろ? そりゃみんな、仕事なんてそっちのけで挑戦するってモンよ。各地から続々と兵士も集まっているぞ。軽く1000人は超えるから丸1日かかるぞ!」
「うわぁ」
思わず変な声が出ましたよ!
広域殲滅魔法で地域一帯まとめて消し飛ばしてやろうか!
「おお! それならクウちゃんを手に入れることができるかもしれねーな!」
「師匠が来てくれりゃ、モルドの未来はバラ色だな!」
ウェイスさんとブレンダさんが大いに賛同する。
お兄さまとお姉さまは静かだった。
と思ったら、
「……ねえ、お兄さま」
「ああ、アリーシャ」
なにやら意気投合している。
と思ったら、お兄さまが言った。
「どうやら今日のダンジョンは中止せざるを得ないようだな」
「ええ。そうですわね。万が一にもクウちゃんを差し出すわけにはいきませんわ」
「そういうわけで、バスク。クウを手に入れたければ、まずは俺たちを倒してからにしてもらおうか」
「そうですわね」
お兄さまとお姉さまが立ち上がる。
「ウェイス、ブレンダ、おまえたちにも手伝ってもらうぞ」
「わーったよ。いい修行になりそうだしな」
「だなー」
おお、意外にもあっさりと、ウェイスさんとブレンダさんがお兄さまの側についてくれたよ。
「あのお、皆さん、本気ですか……? 1000人超とか……」
レイリさんは早くも顔色を悪くしていたけど……。
「レイリも頼むぞ」
「は、はい……」
結局、お兄さまに頼まれてうなずいた。
「勝手に話を決められても困りますからね? そもそも、いくらお兄さまたちでも1000人なんて無謀です」
「ボクがいれば楽勝だけど?」
「ゼノは見学に決まってるでしょ!」
「えー!」
「よし、こうしましょう! お兄さまたちには、それぞれ、間隔を開けて横一列に並んでもらって、挑戦者には対戦相手を選んで縦に並んでもらいます。それで後はひたすらの一騎打ち! 休憩はアリです! で、お兄さまたちに勝った人だけ私と戦うことができる!」
名付けて、アイドルグループ握手会方式!
「ふむ。それはいいアイデアだな」
「面白そうですね」
お兄さまとメイヴィスさんが、すぐに賛成してくれる。
「あのお、クウちゃん……。それだと私、即死だと思うけど……」
「もちろんレイリさんは回復役なので戦いません」
「よかったぁ。ほっとしたよぉ」
うん、レイリさんは戦わなくていいよね!
「あと、お姉さまの対戦相手は若手限定にしましょうか」
「あら、わたくしだってそれなりにはやれますわよ?」
「それなりには、ですよね」
「そうですわね……。現実的に見れば、それが妥当ですか……。わかりました、それでいいですわ」
「という感じで決まりましたけど、いいですよね?」
私はバスクさんにも確認を取った。
「おう! いいんじゃねーのか。なかなか面白そうだ」
バスクさんは簡単に了承する。
「ちなみに言っておきますけど、私は勝とうが負けようが、誰かのものになる気はありませんからね?」
「おいおい、それだと勝負の前提が」
「知りませんよ。勝手に決められて、はいそうですか、なんてうなずけることじゃないですよね、それ」
「む? おまえが自分で言ったと聞いているが?」
「ノリで言っただけです」
「言ってるじゃねーか!」
「ジョークです。だいたい、奴隷とか本気ですか? 聖女様に知られたら大変なことになりますよ」
主に私がチクります。
「む。それは、まあ、よく考えれば問題だな……。では結婚で!」
「お断りです! それこそ言っていません!」
ともかく、勝負はすることになった。
お兄さまたちには頑張ってもらおう。




