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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1087/1359

1087 その贈り物は……。





 普通に考えれば、タイナに勝ち目はない。

 トレントは明らかに、中級の冒険者がパーティーで倒すべき敵だ。

 先のミノタウルスよりも強いだろう。

 ただ、草原の丘で繰り広げられる死闘は互角だった。

 火の魔力をまとうタイナは凄まじい。

 初めて見た時、お姉さまに向かってその力で攻撃しようとした時、咄嗟に止めたのは正解だった。

 その力をタイナは8歳の時に自力で得たという。

 たいした才能だ。

 そして昨日、私のサポートでさらにその力はブーストされた。


 私はハラハラしながら戦いを見ていた。


 タイナが損傷を受けていく。

 致命傷こそないものの、鞭のようにしなる枝のすべてを回避することはさすがに無理だった。

 革鎧が破られて、そこから血が滲む。

 打撲もあることだろう。


 枝でよろめいたところに、トレントが突進してきた。

 タイナは横に飛び退いてかわす。

 突進を受ければ、さすがにひとたまりもない。

 今のはヒヤリとした。


 タイナの肉体強化は、だいたい1分で切れるという。

 切れれば力尽きる。


 1分は、あっという間に訪れた。

 活動限界だ。

 ただ、それでもタイナはまだ動けていた。

 昨日の練習の成果だろう。


 だけど、見ていればわかる。

 長くは持たない。

 タイナ自身にも、それはわかっているのだろう。

 トレントからの攻撃が、わずかに止った。

 タイナは身をかがめる。

 トレントが、大きく振りかざした枝を、強烈に振り回して、タイナにぶつけようとしてきた。

 その枝の下をかいくぐって、タイナが飛び込む。

 トレントには目と口がある。

 タイナが狙ったのは、目と目の間、眉間だった。

 刃が食い込む。


「火力拳――! 全開だぁぁぁぁぁ!」


 最後の魔力を発揮してタイナは刃を押し込んだ。

 刃から炎があふれる。


 おお……。


 トレントは炎に弱い。

 内側から焼かれて、動かなくなった。


 タイナの勝利だ。


 トレントが消えて、魔石へと変わる。


 そして、舞い落ちるように、樹冠の部分から、なにか輝いたひとつの小さなかたまりが落ちてきた。

 タイナはその場にへたり込みつつ、それを手のひらで受け止めた。


「やった……。出た……」


 血に濡れた顔でタイナは微笑み――。

 倒れた。


「タイナ!」


 私は姿を見せて、あわてて近づいた。

 すぐに回復魔法をかける。

 タイナの傷は、あっという間に癒やされた。

 ただ、意識は戻らない。

 魔力を完全になくしているからだ。


 タイナの手から、小さなかたまりがこぼれ落ちる。

 それは、一見すると、ただのクルミのような木の実だった。

 ただ、手に持って、じっと見てみると……。

 角度によって、七色に輝いても見えた。

 貝殻みたいな木の実だ。

 奪うつもりはないげと、なんだろうと思ってアイテム欄に入れてみる。


 幸運の木の実。

 持つ者に幸運をもたらすと言われるお守り。


 あと、分解のアイコンが白色になっていた。

 分解可能ということだ。

 リンクを辿ってみると、なんと分解に成功すれば、ミスリル・ナゲットが手に入るようだ。

 ミスリルの価値は高い。

 ナゲットとはいえ、かなりの額になる。

 タイナは、お金稼ぎに来たのだろうか。


「うーん」


 考えて、それは違う気もする。

 だって、先のトレントは完全放置されている様子だった。

 大迷宮には多くの冒険者が入っているのに、ここには誰もいない。

 きっと、分解できることが知られていないのだ。

 あるいは、ドロップ率がかなり低いのか。


 なんにしても木の実は、タイナの手のひらに戻した。

 これはタイナのものだ。


 魔力の回復魔法もかけてあげる。

 すると、しばらくして、タイナがゆっくりと目を開いた。

 意識が戻ったのだ。


「……マゾの子」


 タイナのアーモンド型の目が、私のことを捉えた。

 私はタイナのとなりに座っていた。


「クウだよ」

「どうしてマゾの子がここに……?」


 私の言葉は届かなかった!

 いや、うん。

 意識を取り戻したばかりだし、仕方ないよね!


「君を見つけてね」

「ダンジョンで?」

「うん」


 大きな目で、じーっと見つめられた。

 照れる。


 その後、タイナは自分の体を見て、


「怪我が治っている……。マゾの子が治してくれたの?」

「うん。そうだよ」


 というか、私の名前、覚えてくれていないのかな……。

 ぐすん。


「正直、無謀だった……。勝てたけど、マゾの子が助けてくれなければ、私は帰れなかったと思う。感謝する」

「どういたしまして。次からは気をつけてね」

「うん。わかった」

「でもどうして、ここに来たの?」

「これを、取りに来た」


 タイナが目を向けるのは、手のひらの中の木の実だ。


「それを? どうして?」


 私はたずねた。


「これは、幸運の木の実。お守りになる。モルドでは、大好きな人に感謝の気持ちと共に贈るものでもある。滅多に手に入らないレアなアイテム。ドロップしてくれて本当によかった」

「そっかぁ……。よかったねえ……」


 私がうなずくと、またタイナにじっと見つめられた。

 え。

 私、思う。

 まさか、あの……。

 木の実、私にくれる感じなのだろうか……。

 大好きって……。

 感謝は、うん、昨日のことだよね……。

 でも、大好きなの……?


「ねえ、マゾの子」

「あああああああああああああああ!」

「どうしたの?」

「と、ととと、とにかく出ようか! 積もる話はまた外で!」

「うん。わかった」

「離脱!」


 私はタイナの手を握って、銀魔法『離脱』でダンジョンから出た。

 タイナと兵士の人には思いっきり驚かれたけど、うん、すごい魔術だということで納得してもらった。

 私、マゾの子。

 ご主人さまを求めて旅する、すごいエルフなの。


「おお。帰ったか」


 ラーラさんがやってくる。


「ただいまー」


 私は気を取り直して笑った。


「ん? クウだけか? あと、タイナがどうして一緒なのだ?」

「私だけ、今日は別行動でねー」

「そうなのか」

「タイナはダンジョンにいてね……」


 その、あの……。

 私のことが大好きみたいで……?


「ラーラ様」


 私の手を離して、タイナがラーラの前に出た。


「どうした、タイナ」

「これをあげる」

「私にか?」

「うん。受け取って」

「では、ありがたくいただこう」


 タイナがラーラに木の実を渡す。


「これは、幸運の木の実か?」

「うん。ラーラ様のために取ってきた」

「この輝きは、まさに本物だな。しかし、この実を渡すことには求愛の意味があるのだぞ。タイナが知らないのは無理もないが……」

「知っているから平気。ラーラ様のことは大好き」

「そ、そうなのか……?」

「うん。私を村で見つけてくれてから、ずっと好き。だからずっと、これをラーラ様に渡したかった」

「はは……。て、照れるな……。もらってしまったが……」


 はい。


 えー、私、関係ありませんでした!

 タイナが木の実を渡して見つめるのはラーラさんでしたぁぁぁぁぁ!


「ダンジョンではマゾの子に助けられた。トレントは自力で倒したけど、マゾの子が来てくれなければ私は動けなかった。あらためて感謝する」

「そうか。私からも礼を言おう。うちの大切な子を救ってくれたのだな」

「偶然だし、気にしなくてもいいよ。タイナは立派に戦っていて驚いた」

「それはそうだろう! 何しろ私が見込んだのだ!」

「ラーラ様の期待に応える」

「ああ。楽しみにしている」


 タイナとラーラさんが微笑みを交わす。


 ラーラさんは年下が好みだと公言していたしね……。

 まあ、うん。

 今はまだ大人と子供だけど……。

 年の差で言えば5歳前後だ。

 あと何年かすれば、いい感じになるのではないでしょうか!


 はい。

 私は所詮、マゾの子ですよねー!

 あははー!


 ラーラさんは、今日は1日、ウェイスさんたちが出てくるまで、外の広場で待機が仕事なのだそうだ。

 タイナも一緒にいることになった。


 私は、うん、はい。


 どうしようね。


 少なくともお邪魔をしてもしょうがないので……。


 あ、そっか。


 ダンジョンに戻って転移陣を探すことにした。

 また忘れるところだったよ!






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― 新着の感想 ―
まぁ、名前覚えてもらえない時点でね?(´ω`)トホホ… お酒を解禁して忘れようよクウちゃん
[一言] かくしてクウちゃんの初恋?は、人知れず静かに散っていくのであった・・・
[一言] これは失恋になるのだろうか?
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