1084 喧嘩!?
さあ、どうなるかな。
ダンジョンに入ってすぐの天然洞窟っぽい広場で、ブレンダさんと柄の悪い冒険者が対峙する。
2人とも、剣を抜く様子はさすがにない。
「おらぁ!」
ブレンダさんがいきなり殴りかかったぁぁぁぁ!
「おっと」
それを冒険者は、軽く身をひねって回避!
さすが、ザニデアの大迷宮に挑もうとする冒険者だけはある!
「ほお」
「ハッ」
ブレンダさんが感心すると、冒険者は肩をすくめた。
と思ったら2人とも笑った。
「おっさん、まあまあやるな! かわされるとは思わなかったぜ!」
「はっはっは! 嬢ちゃんもな!」
どうやらモルド流の挨拶だったようだ。
冒険者が仲間と共に去っていった。
「よう! せっかくだし、オススメルートとか教えてくれよ。私等、日帰りでやれるとこまでやりたいんだけどさ」
ブレンダさんが後を追って、馴れ馴れしく話しかける。
「あー。そりゃいいな」
「そうですね」
ウェイスさんとメイヴィスさんも続いた。
「クウちゃん、これ、入れればいいのよね」
「うん」
「じゃあ、やっちゃうね」
しゃがんだレイリさんが、いそいそとバックパックに食料を詰める。
私も手伝った。
「……私、モルドに生まれなくて本当によかったわ」
レイリさんがしみじみと言った。
「就職は? 誘われてるよね?」
「私、帝都勤務志望なの。クウちゃんからもそう伝えてもらえると嬉しいわ」
「あはは」
「また気楽に笑ってー。クウちゃんは平気だろうけど」
「話には聞いていましたが、独特の風紀ですわね。いきなり大喧嘩になるかとヒヤヒヤしましたわ」
お姉さまもしゃがんで手伝ってくれる。
お兄さまは……、あ。
ふと顔を上げて見てみれば、なんと1人で、ブレンダさんたちとは別の冒険者に話しかけようとして――。
怖気づいたようだ。
接近に気づかれた瞬間、身を返して違う方を向いた。
「不思議な壁だ」
とか、まるで壁を観察するようなフリをする。
私は笑った。
すると気づかれて、睨まれた。
結局、お兄さまは私たちのところに来て、荷造りを始めた。
「ねえ、お兄さま」
「なんだ、クウ」
「81ですね」
「……なんだ、それは」
「くく。です」
9x9的な。
ちょっと笑えた的な。
「思いきり笑っていたクセに、なにがくくだ」
「あはは」
「だいたい貴様は、俺を誰だと思っている」
「それ、ウェルダンにしかならないですからね? ギャグですよ?」
「ふふふ。せっかくの権威も、クウちゃんの前では形無しですわね」
お姉さまが上品に笑った。
「そりゃ、クウだからねー。クウちゃんだけにってやつ?」
様子を見ているだけのゼノが知った顔で言った。
「ああ、なるほど、な。クウちゃんだけにくうか」
なぜかお兄さまが納得する。
「そーそー。それそれ! 意味わかんないよねー!」
同意して、ゼノがケタケタと笑った。
私は唇を尖らせて反論した。
「意味はわかるでしょー。私がくうんです。故に、クウちゃんだけになの」
「でも、セラも言いまくってるよね?」
「う」
痛いところを突かれた!
「なんで? ねえ、なんで? なんでクウちゃんだけになのに、他のニンゲンも普通にくっちゃってるの? その意味をボクに教えて? ボクも言っていいの? クウちゃんだけにくうって。それとも精霊はダメなの? なにか条件があるなら教えてもらってもいいかな? ねえ?」
ゼノがわざとらしい笑顔を寄せてくる。
私は、はい。
キレましたよ!
この温厚なクウちゃんさまをキレさすとは、たいしたものですね!
「ねえ、ゼノちゃん。100年くらい眠ろうか」
私はゆらりと立ち上がった。
「あー、もう! 冗談だからさー! 冗談だからね!? なんでボクの時だけ本気で怒るのさクウはー!」
「お約束?」
「そんなお約束はいらないから! そこは笑っとこうよー!」
「くく。まさに81だな、クウ」
お兄さまが笑った。
「……はぁ。まあ、いいですけど」
たしかに、くくの子ですし、私。
私は荷造りに戻った。
ほどなくして、すべてのバックパックに荷物を詰め終えた。
ブレンダさんたちも、日帰りで中ボスに挑めるという中堅冒険者向けの有益な情報をもらってきた。
ブレンダさんたちの実力は、すでに中堅以上はある。
よほど慢心しなければ、勝てるだろう。
出立するみんなを見送って、私は1人になる。
さあ、では。
せっかくですし、私も探索を始めますかー!
まずは転移陣を探そう!
 




