1083 突入! ザニデアの大迷宮
順番が来て、私たちはダンジョンへのゲートをくぐった。
ザニデアの大迷宮には、私も1年ぶりだ。
前に入った時は、ただひたすらにカイル青年のお世話だけでおわった。
最後は私がブチギレて、半殺しにして、ダンジョンから出て、助けたところで即座に逃げたので……。
まともに探索はできなかった。
まあ、今日もお兄さまたちのお世話係みたいなものなので、あまり好きにはできないのだけど。
とりあえず転移陣にだけ触っておければいいかな。
と私は思っていた。
ダンジョンに入ってすぐの緑色に薄く輝いた自然洞窟のような広場には、他にも冒険者たちの姿があった。
地図を開いて、今日はどのルートを進むのか確認している。
ザニデアの大迷宮は広い。
たくさんのエリアが存在しているようだ。
「なあ、クウ。ひとついいか?」
鉄鎧と剣と盾を身に着け、勇ましい姿のお兄さまが言った。
「はい。なんですか?」
「今日なんだが、俺たちだけでパーティー行動をさせてもらえないだろうか」
「と言いますと……?」
「クウは好きにしてくれて構わない」
「えっと、あの」
「ふ。外で言って誰かに聞かれれば、反対されるだろうからな」
お兄さまがニヤリとする。
続けてウェイスさんが笑って、
「だなー! クウちゃん、今日はさ、力試しがしてーんだよ。俺等もクウちゃんのお陰で随分と強くなった。俺等は果たして、どこまでやれるのか。それを俺等だけで試してみたいんだ」
事前に相談はしてあったのだろう。
メイヴィスさんたちが、賛同するようにうなずいた。
「危険ですよ?」
私が心配すると――。
「無理はしない。それほどには」
お兄さまが言う。
「それほどにはって……。何かあったらどうするんですか」
「しかし、思わないか、クウ」
「何をですか」
「卒業してしまえば、おそらく、俺やウェイスには自分のすべてを賭けて戦うような場はなくなる。もしもあるとすれば、それは国の危機だ。だから俺は今日しかないと考えている。頼む」
「そんなこと言って、私の勘が正しければ、どうせ卒業したって、なんだかんだ理由を付けてダンジョンをせがみますよね?」
自由に動けなくなるなら、ますます私のところに来そうだ。
放課後にパルクールをやって、元気が有り余っている人たちだし。
「はっはっは!」
笑って誤魔化したー!
「レイリさんはいいんですか? 危険ですよ?」
「大丈夫だよ、クウちゃん。ちゃんと手紙は書いたから」
遺言か!
まったく。クウちゃんだけに、くう。ですよ、これは。
私が呆れていると……。
「まー、いいんじゃないのー。それならボクがこっそり見てるからさー。死ぬまで手出しはしないってことで」
「死んだら大変だよね!?」
「なんで? 死んだって蘇生するだけでしょー」
「あー。うん。そだね」
実際、闇の大精霊さんは、夏休みにアーレの黒騎士さんたちを殺しまくって訓練していたらしいね、そういえば……。
「というわけで、ゼノがいてもいいなら許可しますけど、どうですか?」
「うむ。良かろう。妥協点だな」
お兄さまが偉そうにうなずく。
まったく、どうして上から目線なのか。
と思ったけど、帝国の皇太子だったね、このイケメンさんは。
最近、忘れそうになるよ……。
「クウちゃんだけ抜け者にして申し訳ないのですが……。わたくしたちも、ついクウちゃんに甘えるクセがついてしまっていて、ここまで連れてきてもらっておいて言うことではありませんが、このままでは良くないと考えていたのです。今回はわがままを言って申し訳ありません」
メイヴィスさんが丁寧にお辞儀してくる。
「はい。まあ……。死んだ時の保険はできましたし、いいですけど……」
「さすがは師匠! 話がわかる!」
「そうですわね。さすがはクウちゃんですわ」
すかさずブレンダさんとお姉さまがヨイショしてきた。
不覚。
つい、さすクウを許してしまった。
「じゃあ、食べるものも自分たちで運んでくださいね」
日帰りとはいえ、昼食は必要だ。
私はアイテム欄から水とパン、それに干し葡萄を取り出した。
あと、バックパックも。
地面にそれらが並ぶと、笑い声が聞こえた。
「おい、見ろよ! 坊っちゃん嬢ちゃんがピクニックを始めやがったぜ!」
「おいおい。ここは帝国最大のダンジョン、大迷宮だぞ。世間知らずがオママゴトに来る場所とは違うんだよ」
柄の悪い冒険者が、こっちに来たぁぁぁ!
絡む気まんまんだぁぁぁぁ!
まあ、いいか。
眠らせとこ。
と私は思ったのだけど……。
「なんだよ、ほしいからってやらねぇぞ」
ブレンダさんが余裕の笑顔で、やってきた冒険者に相対した。
ふむ。
私は様子を見ることにした。
みんなのお手並みを、まずは拝見させていただこう。
レビューをいただきました! ありがとうございます!




