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1076 閑話・新人兵士タイナ・リドルは水着に着替えて……。



 私はタイナ・リドル。

 10歳になって、モルド領軍の兵士になったばかりの新人。

 もちろん、自分で志願してのことだ。

 私は小柄で心配されもしたけど、そもそもまだ10歳なのだから、これから一気に大きくなる予定だ。

 それに私には火の魔力がある。

 8歳の時に狼に襲われて、必死に反撃する中で魔力に目覚めた。

 魔術はまだ何も使えない。

 うちは貧乏で、魔術書を買うお金はなかった。

 うちの村には魔術師もいなかった。

 魔力に目覚めた時の感覚は今でも覚えている。

 体の内側から、それこそ燃え盛る火のように力が湧いて、私は襲ってきた狼を激戦の末に退治した。

 その後、すぐに私も力尽きたけど。

 私はその力を、火力拳と名付けて……。

 練習を繰り返して……。


「火力拳!」


 と、踏ん張って叫ぶことで、確実に発動できるようにした。

 だけど村のみんなには、笑われておわった。

 本当にパワーアップしていることを、誰にもわかってもらえなかった。

 でも私は、村にやってきた従騎士のラーラ様に才能があると言われた。

 ラーラ様は、私の火力拳を素晴らしい技だと褒めてくれた。

 その証拠にと紹介状まで書いてくれた。

 なので10歳になってすぐ、私は村を出て、要塞都市ルーデアに行って、モルドの兵士に志願した。

 私は正規の兵士として雇ってもらえた。

 まだ新人なので今はダメだけど、将来的には魔術も教えてもらえる。

 嬉しい。

 ともかく、私には火力拳がある。

 使うと、ほんの1分で力尽きてしまうけど……。

 ポーションを使えば、連続発動できるけど……。

 それでも今の私では3回が限界だけど……。

 でも、その3回の1分間の内なら、私は年上の兵士にだって勝てる。

 まだ戦わせてもらったことはないけど、騎士にだって勝てる自信はあった。

 私の火力拳は最強だ。

 ラーラ様が認めてくれた私の力だ。


 そして、その力を試す機会が来た。


 なんと、モルド辺境伯家のご令嬢であるブレンダ様が、目が合って口笛を吹かれたという理由で――。

 私の所属する部隊に喧嘩を売ってきたのだ。


 ブレンダ様と一緒にいるのは――。


 帝都中央学院の制服を着た、完璧に超お嬢様な女の子たちだった。

 護衛として、騎士の人たちも一緒だった。

 だけど残念ながら、騎士の人たちは喧嘩には加わらず、喧嘩が始まるところで距離を置いてしまった。


 喧嘩が始まる。


 びっくりすることに、お嬢様たちは強かった。

 ブレンダ様が強いことは聞いていたけど……。

 まさか3倍の兵士を相手に笑顔で戦えるとは思っても見なかった。

 本当にすごかった。

 騎士にも勝る強さに見えた。


 私はうずうずして……。

 私は新人なので、こんな時には命令があるまで待機が基本だけど……。

 気がついたら、前に出ていた。


 そして隊長に許可をもらってから、目の前にいたお嬢様に……。

 私の全力の火力拳をお見舞いしてやろうと思ったのだけど……。

 火力拳を発動させたところで……。

 私の拳は、いきなり現れた青色の髪の女の子に、軽々と止められてしまった。

 それどころか体が痺れて、動かなくなった。


 その後……。


 青色の髪の女の子は、私の先輩たちをひとり残らずノシてしまった。

 軽々と、1分もかけずに。

 さらに、全員に回復の魔術をかけて、元気にさせてしまった。


 青色の髪の女の子の話は聞いていた。

 マゾの子だ。

 奴隷になりたくて、ご主人様探しの旅をしているエルフとのことだった。

 超強くて、魔術も超すごい。

 しかも美人で可愛い。

 運良く奴隷にできれば、立身出世は間違いなし。

 大勢が、マゾの子を探していた。


 で、今……。


 私たちは、そんなマゾの子に連れられて、勤務時間中にも関わらず、何故か露天の大温泉に向かっていた。

 お嬢様たちと騎士の人たちも一緒に。


「隊長、仕事はいいの?」

「いーのいーの。ブレンダ様のご命令だぞ。おまえものんびりしな。カネもブレンダ様が全部出してくれるそうだ」

「わかった」


 実は、大温泉に入るのは初めてだった。

 楽しみだ。

 なにしろ入場料がかかるので、お金のない私には縁がなかった。

 最初にもらったお金は、プライベート用の装備一式と魔力回復用のポーション代に充てて、もう空っぽだ。

 兵士としての装備やポーションは支給されるけど、それを仕事以外で勝手に使うことはできない。

 私は、休みの日にも訓練や狩りがしたかった。

 兵士ならダンジョンにも入れるし。

 魔力回復用のポーションは、高価だったけど、頑張って1本だけ買った。

 いざという時、役に立つ気がする。

 私は、魔力消耗の激しい火力拳が戦闘の命なので。


 施設に到着した。

 私たちはぞろぞろと建物の中に入る。


 大温泉では、水着の着用が必要だという。

 私は恥ずかしながら、今までに水着を着たこともなかった。

 なにしろうちの村では、子供の川遊びは服か全裸だ。


 水着は、自前で持ってきてもいいし、レンタルしてもいいし、施設で売っているものを購入してもいいそうだ。

 私たちはレンタルの水着を着るとのことだった。

 私は先輩に言われるまま、小サイズの短パンをレンタルして、先輩たちと一緒に更衣室に入った。

 お嬢様たちは別室だった。


 服を脱いで、先輩たちと同じように短パンを履いた。

 脱げないように紐で止める。


 それで準備は完了だ。


 私はワクワクしながら、露天の大浴場へと出た。


 大温泉は、ルーデアの町の一番の人気スポット。

 特に今の季節、冬には人が集まる。

 午前でもお客さんはいた。


 まずは、体をシャワーで丁寧に洗い流す。

 汚れた体で湯船に入らないのがマナーなのだそうだ。


 シャワーを浴びていると、お嬢様たちが来た。


「おっまたせー!」


 友達でもないのに友達みたいに手を振って、青色の髪のエルフの女の子がこちらに歩いてきた。

 奴隷になりたいマゾの子とは思えない、明るくて元気な姿だった。


 ブレンダ様たちも一緒だった。


 お嬢様方も、レンタルの水着を身に着けていた。

 紺色のワンピースだ。


 私たちは先にシャワーを浴びおえた。

 だけど先にはいかない。

 護衛も兼ねて、お嬢様方と一緒に湯船には向かうそうだ。


 しばらくすると、シャワーを浴びて、全身を濡らしたお嬢様方が出てくる。

 さあ、行こうか。

 と思ったら、マゾの子が声をあげた。


「え。ちょっと待って」


 その視線は、なぜか私にあった。


「なにか?」


 私はたずねた。


「いや、あの。なにか、じゃなくって……。なんでパンツだけなの?」

「先輩たちもですが」


 なにかおかしいだろうか。

 パンツだけなのは、先輩たちも同じだ。

 私は自分の体に目を向けたけど、おかしいところはないはずだ。

 ちゃんと短パンの紐も結んだし。


「いやいや! だって、え、まさか。それって、もしかして、密かに巷で評判の男水着チャレンジってヤツ? いや、うん。似合ってるし違和感はないけど、さすがにやめた方がいいよ!」


 マゾの子が、なぜか大いに混乱している。

 意味がわからない。

 男水着チャレンジとは何なのか。


 するとなぜか、先輩たちが大笑いを始めた。

 マゾの子が怒り出す。


「こらー! いくら子供だからって、こういうのはダメだって! 悪意があるのなら許さないからね!」

「本当です。これが虐待なら、見過ごすことはできません」

「待て待て、マゾの子さんにすらりとした清楚なお嬢様よ。アンタたち、絶対に壮絶に勘違いをしているからな」

「なにを!」

「なあ、タイナ」


 隊長が私に確認を取る。

 なんのことだろう。

 私には本当に意味がわからなかった。


「おまえ、男だよな?」

「うん。当然」


 なにを言っているのだろう。

 私は男だ。


「え。そうなの?」


 マゾの子が、なぜかますます驚いた顔をする。







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― 新着の感想 ―
[一言] 奴隷になりたいマゾの子エルフ、ご主人様捜しの旅。 『王子、奴隷の子、連れて来たってよ?』 『マゾの子に、ご主人様を公募させてんだとよ』 『…ま、町中でか?』 『…さすが王族、高度なプレイ』…
[良い点] タイナはもしかしたら本作初登場の男の娘? [一言] クウちゃん様に付いた通り名が"マゾの子"とは、、、 でもクウちゃんのご主人様になれるなら、ワイもバトルに参加するぞ〜! アベシ!(クウち…
[良い点] いつも楽しく読んでます! 読んでて、あれ?女の子コースでアウトかと思ったら、逆転サヨナラホームランの男の子でした(笑) [一言] 途中まで騙された!
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