1074 汚れたローブと汚れたバッグ
オリビアさんの様子を見に治癒院に行ってみると、院の前で、若い冒険者たちがオリビアさんに絡んでいた。
断るオリビアさんを、しつこい様子でパーティーに勧誘していた。
まあ、うん。
見てしまった以上は助けよう。
と思ったら、走ってきた中年冒険者がしつこい連中をぶん殴った。
まさに問答無用だった。
他の冒険者たちも走ってきて……。
しつこく勧誘していた連中はボコボコにされた。
やがてモルド兵も現れた。
兵士は、ボコボコにしていた冒険者たちを褒めると、ボコボコにされた方を容赦なく連行していった。
わかっていたけど、この町でオリビアさんに手を出すのはご法度だ。
なにしろこの町で生まれ育って、すっかり一人前になった今でもこの町で働いてくれているまさに地元の宝なのだから。
オリビアさんが無事なのを見届けて、私はその場を離れた。
とりあえず、うん。
大変そうだけど、元気そうでよかった!
「さーて、次はっと……」
お。
見覚えのある雑貨屋があった。
ボロボロのローブを銀貨5枚とか吹っかけてきたので、値切りまくって小銅貨5枚にさせたお店だ。
久しぶりに入ってみる。
相変わらず店内は乱雑としていて……。
どこから手に入れたのか……。
古びた冒険の道具が、あれやこれやと置かれていた。
店主との会話もないまま、私は適当に棚の商品を見ていった。
と――。
ひとつ、気になるものを見つけた。
それは、古びたバッグだった。
なんとなく魔力を感じる。
魔力感知してみると――。
うん。
バッグは微弱ながらも闇の魔力をまとっていた。
私はバッグを手に持って、カウンターに置いた。
「おじさん、これ、いくらー?」
フードの中からニッコリ笑顔で、無愛想な店主に聞いてみた。
店主の対応は去年と同じだった。
値踏みするように私の顔をじろじろと見た後で言った。
「金貨1枚」
「はぁ!?」
だいたい10万円だとぉ!
去年のボロボロなローブより値段を倍にしやがったなぁぁぁ!
私、去年よりも2倍はお嬢様ですかー!
あーそうですかー!
そう見えますかー!
それはべつに嬉しいけどー!
でも、それとこれとは別だ。
「ないわー。おっさん、このボロバッグのどこが金貨1枚だ」
「うちでは適正価格だ」
「銀貨5枚」
ガツンと勢いをつけてカウンターに置いた。
だいたい50000円。
うん。
去年と同じ小銅貨5枚で押し切ろうかとも思ったけど……。
一応は魔法のバッグなので、少しは値段をつけてみました。
「わかった。それでいい」
向こうとしては大儲けだろうね……。
商談は簡単に成立した。
「ところでおじさん、このお店の商品ってどこで手に入れているの? まさか盗品とかじゃないよね?」
「何を言うか。ちゃんと町から買い取ったものだ」
どういうことかと思ったけど……。
「ダンジョンの外でも中でも、このあたりじゃ出てくるのさ。捨てるくらいなら使うべきだろうよ」
あー。
そういうことかぁ……。
遺品かぁ……。
理解できたので、私はお店を後にした。
お祈りしてから、バッグをアイテム欄に入れた。
表記を確かめる。
汚れたバッグ。
と、出た。
他にメッセージはなかった。
どうやら汚れたアイテムは、不確定扱いのようだ。
「そういえば、忘れてたな」
私のアイテム欄には、もうひとつ、汚れたアイテムがあった。
それは――。
汚れたローブ。
去年、同じ雑貨屋で買ったものだ。
埃り臭くて、あちこち破れた酷い品だったけど、私の空色の目立つ髪を隠すのには役立ってくれた。
洗ったらアイテム名が変わるのかな……。
試してみよう……。
と思いつつ、新しいローブが手に入って使わなくなって、そのまますっかりと忘れていた品だ。
私はいったん町から離れて、人気のない岩山の一角に座った。
汚れたローブと汚れたバッグを置く。
「さーて。どうしようかなぁ」
手段はいくつかある。
手で洗う。
洗浄の魔術を使う。
生成技能の「修復」を使う。
まずは、お手軽で簡単な「修復」を試してみた。
修復の技能は、タタくんたちの武具を直すのにいつも使っている。
こちらの世界でも、すっかりお手の物だ。
ただ、うん……。
残念ながら、使っても外見に変化がなかった。
アイテム欄に入れても、汚れたローブと汚れたバッグのまま。
汚れたローブは、汚れたローブに修復されました!
ということなのだろう……。
残念。
次に試したいのは、洗浄の魔術。
ヒオリさんやレイリさんが得意とする水の魔術だ。
綺麗に汚れを落としてくれる。
ただ、私の魔法リストには存在していない。
ゲームにはなかった。
今まで覚えることもしてこなかった。
ただ、うん……。
私の能力なら、ぶっつけ本番で出来ちゃう気もする。
やってみようかな。
洗浄の魔術は何度も見ているので、魔力の流れは理解しているし。
優しく、渦を巻くように……。
「洗浄」
私は魔術を唱えた。
よし!
上手くいった!
魔法の水流に包まれて、ローブもバッグも綺麗になった!
アイテム欄に入れて確かめてみると……。
破れたローブ、破れたバッグ。
うん。
はい。
「ダメじゃん!」
と、私は大いに落胆したのですが……。
「いや、待て! 待つんだ、私! まだあきらめるのは早いぞ!」
破れたアイテムならば……。
そう。
私はあらためて2つのアイテムを置くと――。
再び生成技能の修復を使った。
すると……。
よし!
ローブもバッグも直った!
アイテム欄に入れて、アイテム名を確かめてみる!
ローブ!
見事なまでに普通のローブだった!
そして、妖精の鞄。
妖精の鞄は、品質としては「並」だったけど、10個のアイテムを専用の亜空間に収納可能とコメントにあった。
これはすごいものだろう……。
しかも、サブメニューの生成の項目にリンクがつながっていた。
リンクされた生成ページを開いてみると……。
なるほどー。
裁縫技能で生成可能だった。
必要なスキルは80。
カンストすなわちスキル120の私なら余裕だ。
ただ、必要なアイテムに「妖精の羽」というものがあった。
そのアイテムを私は持っていない。
リンクを辿って調べてみると……。
その名の通り、妖精族からのドロップ品のようだった……。
うん……。
妖精族には何人も知り合いがいるけど……。
羽、むしってもいいのだろうか……。
よくないに決まっているよね!
わかる!
しかも鞄を生成するためには、4枚も必要だし!
もしかしたら、鞄にしても羽にしても、ただのダンジョンのドロップ品なのかも知れないけど……。
妖精はこの1000年間、ずっと姿を消していたわけだし、その可能性の方が高いのだろうけど……。
いずれにせよ、私は決めた。
この鞄は、いったん封印だ。
汚れたローブは、「19 ザニデアのダンジョン町」で買った時のものです。
その後、「23 異世界もふもふ岩山生活」で
アイテム欄に入れても綺麗にならないことに疑問を持って……。
ついに今回、約1000話を経ての解決編なのです。




