1072 旅、3日目
クウちゃんさま! クウちゃんさま!
クウちゃんさまー!
クウちゃんさま最強ー!
クウちゃんさま素敵ー!
クウちゃんさま、こっち向いてー!
そんな大歓声がこだまする、それは素敵な夢なのでした。
「残念ながら現実だ。目を逸らすな」
「はい。すみませんでした」
私は朝からお兄さまに頭を下げた。
お屋敷の居間だ。
はい。
昨日の夜のことでございます。
「本当に……。どうして君は、少し目を離すとそうなるのだ」
「それが自分でもさっぱり……。いつの間にかそんなことになっていました」
「とにかく、外に出る時はローブを着ろ。というか姿を消すか空にいろ。君に勝てば君を所有できるということで、腕に覚えのある連中が君に挑戦するために朝から町をうろついているぞ」
「あのー」
「なんだ、どうした、クウ」
「私、これでも一応は女の子なので、モノ扱いはちょっと……」
嫌なんですけど。
するとお兄さまは、はぁ、とわざとらしくため息をした後、椅子に座った足を組み替えてジトッと私を見つめた。
「君が自分で言ったことなのだろう?」
「はい。まあ……」
それはそうなんですけれどね。
つい、ノリで。
「あはははは! 昨日のクウは本当に面白かったからねー! 最後はみんな、なんか信仰してたし!」
宙に浮いたゼノがケラケラと笑う。
「もー。止めてよねー」
「面白かったのに、止める必要なんてないよね?」
「まあ、それはそうか」
たしカニ。
ちょきちょき。
v(・v・)v
「しかし、勝てばクウちゃんをもらえる、ですか……。それなら私も挑戦させてもらおうかしら」
「私も! 勝てたらメッケもんだよな!」
「それな。俺も一応」
何故か、メイヴィスさんとブレンダさん、ウェイスさんまでもが、私に向けて名のりを上げてくる。
ちなみにレイリさんは、静かに紅茶を飲んでいた。
「やめて差し上げなさい。クウちゃんが困っていますわよ」
お姉さまが冷静にたしなめてくれた!
ありがとう!
と思ったら!
「挑戦するなら、当然、うちのセラフィーヌからですわ」
あ、はい。
「あの、お姉さま……。セラには言わないでくださいね? 本当にかかってこられると本気で困りますので」
「ふふ。ごめんなさい。冗談ですわ」
「俺たちについては、今日の昼には忘れている。そうだな?」
お兄さまが言った。
「ええ。そうですわね」
お姉さまたちは、うなずいてくれた。
よかった!
どうやら私は助かったようです。
お兄さまに説教はされましたが。
「ただ、クウ。これからはちゃんと、何かする時には今が面白いかどうかだけではなく明日にはどうなるのかも考えて行動するように。あと、夢とかごまかさないで正直に報告するように」
「はい。申し訳ございませんでした」
さらにこの後……。
辺境伯夫妻とも同じようなやりとりがあって……。
朝食の頃には、私は疲れていたのでした。
朝食は予想通りガッツリ系だった。
茶色だ。
大皿に乗せて、どん、と様々に調理された肉が出てきた。
好きなだけ自分で取って食べるフリーなスタイルだった。
ただ、幸いにもサラダも出てきたので、私はそちらを主にいただいた。
私は肉食系ではないのだ。
私は草食系の、大人しくて臆病な子なのだ。
にゃむにゃむと草を食べるのがお似合いの子なのだ。
草。
うむ。
前世では、笑うという意味もあったね。
笑いを示すネット用語の「w」が語源で、wを並べると草が生えているみたいだからという理由だったはずだ。
朝食の後は、しばしの自由時間。
今日は昼から竜族との会談。
私には、メルスニールさんを迎えに行く大切な仕事がある。
ザニデアの大迷宮に入るのは明日になった。
会談には、次期領主のウェイスさんと皇太子のお兄さま、あとゼノもメルスニールさんの側で参加する。
お姉さま、メイヴィスさん、ブレンダさん、レイリさんの女性組は参加しないので1日フリーだ。
あと、今は自宅に帰っているけど、ラーラさんもお姉さまたちとこの後で合流することになっている。
ラーラさんは、お姉さまたちの警護を担当するようだ。
「今日は何をしようかしら」
朝食の後、ロビーに戻ってお姉さまが言った。
「そりゃ、訓練だろー」
「そうですね。幸いにも、いくらでも相手はいますし」
とは、ブレンダさんとメイヴィスさん。
うん。
いつも通りだ。
「明日1日、ザニデアの大迷宮に潜るなら、さすがに今日はゆっくりした方がいいと思いますよ。観光にしたらどうですか?」
私は言った。
過去の経験から見ても、ダンジョンに入れば死闘は確実だし。
体調は万全の方がいい。
「観光もいいかも知れませんわね。わたくしも、屋台街やプールのような温泉を見てみたいですわ」
「くれぐれも喧嘩を売ったりするなよ?」
お兄さまがお姉さまに警告する。
「わかっていますわ、お兄さま。クウちゃんと一緒にしないでください」
「ははは。それはそうか」
お兄さまは気楽に笑った。
くう。
クウちゃんだけに。
なにも言い返すことはできませんが!
「っても、売られたら買うけどな!」
「それは当然です」
ブレンダさんとメイヴィスさんは、やる気満々ですね。
わかります。
ただ出歩くならラーラさんに加えて何人かの精兵が護衛に付くようだし、そんなことにはならないとは思うけど。
「クウちゃんはどうしますか? 短時間だけでも一緒に来ませんか?」
「んー。そうですねえ」
お姉さまに誘われて、私はどうしようか迷った。
迷ったけど、やめておいた。
さすがにないとは思うけど、新たな敵対者がいたら大変だ。
空に浮かんで、ちょっと調べておこう。
 




