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1070 エリカとオハナシ




「ちょっとエリカー。どういうことですかー」

「なんですの、クウ。いきなり」


 日暮れの時刻。


 私は転移の魔法を使って、エリカのところに来た。

 ジルドリア王国の王城だ。


 幸いにもエリカは執務室にいた。

 さらに幸いにも一緒にいるのは『ローズ・レイピア』の幹部たる竜の人たちだけだった。

 なので気兼ねなく、私は浮かんだままエリカの首筋に横から絡んだ。


「エリちゃんだけに、エリ」

「なんですのそれは」

「エリちゃんだけに、エリ」

「わかりましたわ。やればよいのでしょう」


 私を引き離して、エリカは襟を整えた。


「おー」


 私は拍手した。


「だから、なんですの?」

「ちなみに、ユイちゃんだけに、ユイ、はどう思う? あと、ナオちゃんだけに、ナオ、も」


 私はエリカにたずねた。


「はっきり言って、どちらも言葉として意味を成していませんの。エリとクウならともかく」

「そかー」

「それで、クウ。本当に、いきなり現れてなんですの? まさかわたくしの襟が気になってどうしようもなくなりましたの?」

「そんなわけあるかー!」

「耳元で叫ばないでくださいませ!」

「あ、ごめん」


 それは確かに。


 話が落ち着いたところでハースティオさんに誘われて、私は椅子に座った。

 エリカも王女席から離れて、テーブルを挟んだ対面の席に座る。


「実は、ザニデア山脈に、ジルドリアの冒険者が来ててね……」


 私は本題に入った。

 一通りの話を聞いたエリカは、


「それはご迷惑をおかけしましたの」


 と、私に頭を下げた。


「エリカは、今回の大商人とか公爵のことは知っていたの?」

「存在については知っていましたわ。ただ裏に吸血鬼がいて、ワイバーンの幼子を攫うなどとは思ってもいませんでした。しかも、呪具の力で帝国の町を混乱に落とすどころか、領主一家を狙うなど……。正直、予想の範疇を超えていました。クウがいてくれてよかったですわ」

「公爵家って、もしかして、例のアーサークンのところ?」


 アーサーとは、以前に私がトリスティン送りにした傲慢な貴族青年の名前だ。


「ええ。そうですわ」

「そかー」

「アーサーも、帰ってきてしばらくは大人しかったのですが……。今ではまた家族と共に、表ではいい顔をしつつ裏では好き勝手。クウの話に出てきたウラ・ガーネも公爵家とつながっています。親戚ですし、できれば恭順してほしいところでしたが……。覚悟の時ですわね」

「公爵家のお取り潰しとか?」

「……ええ。……そうですわね」


 私がたずねると、エリカは重々しくうなずいた。


「それは……。大事だねえ……」


 私には他に言いようがない。


「クウちゃんさまにはご迷惑をおかけしました」


 ここでハースティオさんが、エリカに続いて頭を下げてきた。

 ハースティオさんが言う。


「実は公爵家は、私の提案で泳がせていたのです。時代の流れに気づいてエリカ様に恭順すれば良し。そうでなくとも、公爵家を餌としてエリカ様の時代に不要な貴族をまとめて釣り上げようと」

「なるほど……」

「クウちゃんさまからのご意見があれば……」

「あー。ううん。私からは特にないので。すべて、ご随意に」


 うむ。


 国の政治に干渉するなんて、とんでもない。

 私の小鳥さんブレインでは不可能です。


「エリカ、頑張ってね。応援だけはしてるよー」

「他人事みたいに言わないでくださいませ」

「え。だって、他人事だし」

「薄情ですの!」

「さすがにハースティオさんたちがいれば平気でしょ」


 悪魔がいたとしても対処できるよね。

 政治力もあるし。


「はぁ……。でも、親戚を断罪なんて、正直、気が重すぎですの。どうしても二の足を踏んでしまいますの」

「ゼノの力を借りて、人格を変えちゃうとか」

「それは……。魅力的な提案ですが、やめておきますわ。今さら強制的にいい人にしたところで、詮無きことですし……。それに精霊様のお力は、人間のためにあるものではないですわよね……。シャイナリトー様のそのお言葉は、確かにその通りだとわたくしも思いますの」


 エリカはしみじみと言った。


「ねえ、エリカ」

「はい。なんですの、クウ」

「私の力は、普通に利用しているよね?」


 けっこう気楽に。

 魔導具もアクセサリーも、たっぷりと作ってあげたよね。


「ねえ、クウ」

「うん。なぁに、エリカ」

「……無駄な抵抗をせず、ちゃんと自分の意思で反省してくれれば地位の剥奪と財産の没収で済ませたいところですが」


 話を戻したぁぁぁぁ!

 というか、誤魔化したぁぁぁぁぁ!


 まあ、いいか。


「せめて、お父さんかお兄さんにお願いしたら? 一応は、まだ王様と王太子で2人がやるべきことだよね?」


 本来ならば。


「下手に関わらせると、懐柔されないか心配ですの。お父さまもお兄さまも新時代の王国を理解してくれていますが……」

「あー。そかー」


 言われてみれば、そうだったね……。

 今ではエリカの言いなりで、エリカにすべてを任せて、表に出てくることすらなくなったけど……。

 国民をゴマ粒程度にしか考えていない人たちだったよ。


 ともかく、あとはエリカの問題だ。

 辛い決断もありそうだけど頑張ってもらおう。

 エリカが将来、改革と新時代の女王になるのならば、面従腹背の貴族の大掃除はきっとどこかで必要になるのだろうし。


 この後、エリカからは夕食に誘われた。


 だけどそれは断った。

 今は旅の最中なのだ。

 辺境伯から予定は聞いていないけど……。

 騒ぐのが大好きそうだし、今夜も宴会とかしちゃうのだろう。

 さすがにそちらが優先だ。


 私はモルドに戻った。


 ふむ。


 丘の要塞は静かだった。

 お屋敷も静かだった。

 ロビーにゼノがいたのでどうしたのか聞いてみると……。


「みんな、精も根も尽き果てて寝たよ」


 とのことだった。


「そんなに訓練しちゃったんだ?」

「それなりには、かな。たったの半日だし。ただ、みんな頑張ったから、少しは抵抗力がついたと思うよ」

「そかー」


 宴会するような状態ではなさそうだ。

 残念。

 ちなみにレイリさんも逃げることはできず、きっちり訓練を受けたようだ。


「で、クウ。今夜の食事はどうする? ボク、お腹空いたんだけど」

「私も」

「言えばここでも出してもらえると思うけどさ。せっかくだし、どこか面白そうなところに食べに行かない?」

「いいね。行ってみようか」

「決まりだね! クウならそう言うと思って、待っててよかったよ」


 というわけで。


 今夜はゼノと2人、モルドの町に出ることになった。

 美味しい食べ物、あるといいなー。

 あと、面白いことも。






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― 新着の感想 ―
[一言] エリカさん、危ないところだったような。自国の人間がどうしようもない強者に喧嘩を売りそうだったわけで。商人はまだしも貴族は国の構成主体だろうし、無関係にしてもらえるか怪しい気がする。ハースティ…
[一言] ま、まあ、クウちゃんは友達だからノーカンだからw
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