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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1060 剣で語る人たち





 夜。かがり火の中で交流会が始まる。


 見た目だけは清楚なご令嬢のメイヴィスさんと、見た目からして武人肌な従騎士のラーラさんが――。


 キンッ!


 と、挨拶代わりに軽く切っ先を触れ合わせた。

 次の瞬間。

 動いたのはメイヴィスさんだった。

 ラーラさんの剣が戻らない内に剣の下に飛び込んで、同時に引き寄せた剣を容赦なく突き上げた。

 間一髪でラーラさんは避けたけど……。

 当たっていれば、顎が砕かれても不思議はない一撃だった。

 メイヴィスさんは止まらない。

 上体を反らしたラーラさんに、そのまま肩をぶつける。

 さらに足をかけて、転倒させようとした。


 おおっ!


 ラーラさんは、足をかけられながらも体幹の強さでその押し込みに耐えた!


 逆にメイヴィスさんを掴んで――。


 おおお!


 背中に背負って、一本背負いみたいに投げたぁぁぁぁ!

 メイヴィスさんの足が浮いた!

 いや、これは!

 ちがう!

 投げられたのではなくて――。

 メイヴィスさんは、自分からラーラさんの動きに体を合わせたのだ!


 実際、ラーラさんは投げきることができなかった。


 投げられる途中で体を抜いて、メイヴィスさんが空中で一回転するような見事な曲芸技を披露する。

 綺麗に着地して、微笑む。


「ほお……。少しはやるようだな」


 それを見て、ラーラさんは感心した顔を浮かべた。


「そちらもですね。正直、最初の突きで決まったと思いましたが」

「ヒヤリとはした」


 肩をすくめて、ラーラさんが剣を構え直す。

 メイヴィスさんは突きの構えを取る。

 その後は、正面からの激しい打ち合いとなった。


 互角だ。


 パワータイプのラーラさんと、スピードタイプのメイヴィスさん。

 スタイルは異なるのに――。

 なんかこう――。

 パズルみたいに当てはまった、美しい戦いだ。


 実際には――。


 肉体への魔力浸透を十全に行えていないことを考えれば、メイヴィスさんの方が総合的な実力は上だろう。

 万全の状態なら圧倒していたと思う。


 とはいえ、専門の訓練を受けたこともないだろうに、ラーラさんは微弱ながら魔力を身体に浸透させている。

 ラーラさんの方も、たいした才能と伸び代だ。

 2人は年齢も近いし、良いライバルになれそうだね。


「ホント、みんな、戦うの大好きだよねえ」


 ゼノが呆れた声で言う。


「だねー」


 私も笑って同意した。



 かがり火の広場では、お兄さまたちも戦っていた。


「ほらほらどうした! そんなもんかー!」

「くっ! ナメるなよ――!」


 お兄さまは、モルド辺境伯本人に剣を打たれて、必死に防戦していた。

 モルド辺境伯は、さすが歴戦の勇者。

 疲弊した今のお兄さまでは、ちょっと勝ち目はなさそうだ。

 とはいえ――。

 うん。

 よく耐えている。

 並の人間なら、辺境伯の重い一撃なんて、受け止めようとしただけで潰されてしまうことだろう。

 しかも、たまに反撃もしている。

 辺境伯も厳しい声をかけつつ、なので楽しそうだ。

 お兄さまは必死だけど。



 お姉さまは、モルド辺境伯婦人と戦っていた。

 奥様は火の魔術師のはずだけど……。

 私が見るところ、ラーラさんよりも魔力の肉体浸透が進んでいて、剣技からして近接戦闘経験豊富なことが窺える。

 お姉さまを相手に余裕の態度だった。


 しかし、皇族相手でも容赦なしなんだね。

 いや、うん。

 容赦はしているのか……。



 ウェイスさんとブレンダさんは、一般の兵士たちと戦っていた。


「おらおらどうしたー! かかってこいやー!」

「私らは、まだまだ行けるぜー!」


 ウェイスさんとブレンダさんの威勢の良い声が聞こえる。

 兵士たちは次から次へと交代して2人と戦う。

 決着はつけず、数度の打ち合いがひたすら続く感じだ。


「若も強くなった」

「嬢もかなりのモンだぞ」


 兵士たちからの評判は上々のようだ。

 私も鼻が高い。

 体力が全快なら、もっと激しくやれるんだけどね。

 そこだけは残念だけど。


「どぉれ。では、そろそろこの俺様も、貴様等の腕を見てやろうか」


 お。


 真打ち登場のようだ。


 副将のバスクさんがウェイスさんとブレンダさんの前に立った。


「同時に来やがれ! 俺を倒してみろや!」


 そして、吠えたぁぁぁ!

 普通の人間なら、それだけが怖気づくこと確実の大迫力だ。

 戦いは、バスクさんの勝利でおわった。

 ウェイスさんとブレンダさんは、残念ながら剛剣に吹き飛ばされて、地面に倒されてしまった。


 他の戦いにも決着はついた。

 お兄さまとお姉さまも、最後には剣で吹き飛ばされてしまった。

 ただ、大きな怪我はしていない。

 そのあたりは、ちゃんと加減されていたようだ。

 普通の怪我はしていたけど……。

 それについては、レイリさんが見事な回復の魔術で癒やした。

 傷跡も綺麗に消えた。


 メイヴィスさんについては引き分けでおわった。


「もういいだろ。そこまでだ」


 辺境伯が止めたのだ。


「お館様、まだやれます!」

「その通りです」


 ラーラさんとメイヴィスさんは抗議したけど――。


「俺は腹が減ったんだよ! あとは宴会だ!」


 と、却下された。

 たしかに言われてみればお腹が空いていた。

 それはみんなも同様のようで……。

 すぐに夕食の雰囲気になってしまって……。

 メイヴィスさんたちもあきらめた。


「ここまでのようだな。正直、都会のお嬢様が私と互角に打ち合えるとは思わなかった。あらためてよろしく。モルドへようこそ。私のことは、気楽にラーラと呼んでくれればいい」


 剣を下ろしたラーラさんが微笑みを浮かべる。


「ええ。今後ともお願いします、ラーラ。私のことはメイと。親しい者にはそう呼ばれています」

「了解した、メイ」


 ラーラさんとメイヴィスさんが爽やかに握手を交わした。

 うむ。

 青春だね。


 お兄さまとお姉さま、ウェイスさんとブレンダさんは、バスクさんと兵士たちに囲まれて腕前を称賛されていた。

 レイリさんも、見事な回復魔術の腕前を褒められて、将来はモルド領軍に就職しないかと誘いを受けて困っていた。


 みんな打ち解けて、いい雰囲気だね。

 力を示せば認められる。

 モルドは、わかりやすい土地だ。


 活躍のなかった私とゼノは蚊帳の外だけど、気にしない。

 目立つ気はないのだ。

 私はそもそも、地味で大人しくて清楚で控えめで温厚な子なのだから。


 と。


 そこに……。


 1人の兵士が、慌てた様子で走って広場に入ってきた。


「お館様」

「どうした、急いで」

「それが――。ヤバン様がウェイス様に挨拶したいとのことで、勝手に来てしまいまして……」

「ハッ! あの山賊もどきか!」


 辺境伯が、明らかに嫌っている声を上げた。


 時間を置くことなく、いかにも悪そうな一団がスロープを上ってきた。

 先頭にいるのがヤバンだろう。

 獣の毛皮を着て、まさに山賊のボスな雰囲気がある。


 うしろには、ずらりと部下がいた。

 みんな悪人そうだ。


 それまでの和気あいあいとした広場が、すーっと静まり返る。


 辺境伯が前に出て言った。


「――おい。勝手に入ってきやがって。ぶち殺すぞ」

「そりゃねえだろ、お館様よ。俺ァ、ただの善良な商人だぜ。次期当主様が帰ったとあれば挨拶くらいさせてくれや」


 ふむ。


 その割には敵反応が出ているね。

 どうやら、ただ挨拶に来たわけではなさそうだ。






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― 新着の感想 ―
[一言] クウちゃん様の運命力「本日の悪役をお届けします」
[一言] あかん クウちゃん様だけやなく、ゼノまで居るんやでw 脳筋歓迎会は興味なかったみたいだけど、悪人は大好きやぞ 何やらかしてもクウちゃん様に文句言われないからな
[一言] トリスティン「また送られてくるんやろな……」
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