1052 千客万来4
肉じゃがを食べていると、威勢よくロックさんの御一行が現れた。
「おーっす! 野郎ども、生きてるかー!」
一緒に来たのは姫様ドッグの店員さんたちだね。
「ロックさーん!」
「おう、クウ」
私が呼びかけると、店員さんたちといったん分かれて、ロックさんが1人で私たちのテーブルに来てくれた。
「ねえ、ロックさん。姫様ドッグ店ってまだ営業中だよね? そんな何人も店員を引き連れてきていいの?」
「いいのいいの。細かいことは気にするな」
「いいならいいけど」
「ま、アレだ。今夜は勝負だからな! おやっさんに言って、混み合う前にさっさと店を閉めさせたのさ!」
「うわ」
また勝手なことを。
それで閉めちゃう店長さんも店長さんだけど。
その店長さんは後から来るそうだ。
ブリジットさんも店長さんと一緒に後から来るらしい。
ちなみに、おやっさんこと店長さんは、ブリジットさんの父親だ。
「ロック殿は、すっかり姫様ドッグ店の人間ですね」
ヒオリさんが笑う。
「もったいないよねえ。せっかくSランク冒険者になって、天下を取ったのに」
「バカ野郎。一流には、休養も必要なんだよ」
「仕事が休養なんだ?」
「おう。気楽なモンさ」
わはははは、と、ロックさんが笑った。
メアリーさんといい、楽しんで仕事ができるところはすごいね。
「冒険者としては、また来年だな。実は、ディシニア高原のダンジョン再調査への参加を要請されててな」
「へー。そうなんだー」
「氾濫があって悪魔も現れた場所だから、当然、危険な調査になる。だから今は英気を養うのさ。始まったらしばらく帝都からは消えるけど、おまえ、俺に会えないからって寂しがって泣くなよ」
「泣きませーん」
「そこは泣いとけよっ! わはははは!」
笑うだけ笑って、ロックさんは仲間たちのところに戻った。
「ディシニア高原は、すでに店長が浄化されたのですよね?」
「うん。去年にね。ダンジョンは残ったままだけど、もう普通のダンジョンのはずだから問題はないと思うけどねー」
浄化したのは、ユイとナオと3人で旅をしていた時のことだ。
あの頃、2人はカメだった。
今ではすっかり、聖女様と若き英雄だけど。
話していると、また知り合いがお店に入ってきた。
いかにも気取ったスーツ姿の中年男性だ。
「やっほー! ウェルダーン!」
私は手を振った。
すると、私たちのテーブルに来てくれた。
「ふん! 今日も元気そうだな、クソガキ」
「まあねー」
「学院長先生も、これに振り回されて大変ですな」
「お陰様で楽しい日々を過ごしております」
「ウェルダンがこのお店に来るのって久しぶりだよね。どうしたの?」
「ロック・バロットに誘われたのだ。今夜は久しぶりの大宴会だとな」
「なるほどー。今夜はウェルダンが奢ってくれるんだ?」
私は茶化して言ってみた。
「誰が奢るか! ……と、言いたいところだが、」
ウェルダンは店内を見渡すと、
「……ふうむ。前回の時は、ウェーバー頭取に出させてしまったからな。一度くらいは良いかも知れんが」
「おーい! みんなー!」
私はすかさず立ち上がって、叫んだ!
「今夜は、今をときめくオダウェル商会のウェルダン会長が、全部、お金を出してくれるってさー!」
おおおおおお!
お店は大いに盛り上がった!
素晴らしい!
キャロンさんがやってきてウェルダンの肩を馴れ馴れしく抱いた。
「ウェルダン! おまえ、いい男になったな!」
「ふんっ! ただの金持ちの気まぐれだ。たまには貴様ら庶民に騒がせてやるのも悪くなかろう」
「おし、なら! 感謝の気持ちを込めて! クウちゃん、アレやるか!」
「お、いいね!」
私はすぐに賛同した。
ウェルダンといったら、やっぱりアレだろう。
「おい、クソガキども! 勝手に決めるな!」
「いいじゃん、やろうよー!」
私もウェルダンと肩を組んだ。
「その通り! せっかく美少女と美女が、こうして肩を寄せてやってるんだ。乗らないなんて男じゃねーぞ!」
「まったく……。まあ、よかろう……」
「店長、アレとはなんですか?」
ヒオリさんには首をひねられたけど……。
まあ、うん。
ここはまず、見ていてもらおう。
キャロンさんと3人で並んで、いざ!
「「「この私を、誰だと思っているー!」」」
うむ。
決まった!
この後、獣人のおじさんとおばさんも約束通りにやってきた。
ブリジットさん親子も来た。
姫様ロールの店長さんとウェーバーさんも一緒だった。
だいたいメンバーも揃ったところで、みんなで乾杯することになった。
音頭は、出資者のウェルダンが取ることになった。
「こほん。今夜は、成り行きで奢ることになってしまったが……。奢ると言ったからにはすべて出してやる。存分に飲み食いするといい。ここは庶民の店だが、それなりに美味いものを出すからな。では、乾杯だ!」
「「「「かんぱーい!」」」
ちなみにロックさんとおじさんの飲み勝負は……。
おばさんに怒られて……。
ウェーバーさんの提案もあって、特製大皿料理の早食い大会へと変わったけど……。
うん。
普通にブリジットさんの優勝でおわった。
さすがだ。
去年の姫様ドッグ&ロール大食い大会に続いて、2連覇なのです。
おめでとうなのです。
そんなこんなで……。
12月14日。
旅の前日なのですが、今日は本当に千客万来。
たくさんの人と触れ合って、楽しく、おわったのでした。




