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105 怒ってるよね?



「本当に、おまえにはいくら感謝しても足りない気持ちだが――。まずは一応、念の為に違うかも知れないから確認させてもらうぞ」

「……あの、怒ってますよね?」

「怒ってはいない。感謝しているのだ」

「いや、でも……。青筋が立っているような、いないような……」

「感謝の気持ちが強くてな」

「そ、そかー」


 大宮殿に到着して応接室に通された私は、今、針のむしろだった。

 テーブルを挟んだ向かいには皇帝陛下と皇妃様がいる。


 さっきから陛下は額の隅に青筋を立てて、明らかに怒っているのに怒っていないと作り笑いを向けてくる。


 助けを求めて皇妃様に目を向けると、優しく微笑まれた。

 いや怖いんですけどっ!


 頼りのセラは自室に戻ってしまった。


 私は1人だ。


「で、演説の時に俺を包んだ光の柱は、以前、奥庭園でおまえがセラフィーヌにかけた魔法で間違いないのだな?」

「はい。エンシェントホーリーヒールです」

「たしか解呪の魔法と聞いていたが、体の隅々にまで力が溢れるのを感じたが?」

「完全回復の効果もあるんですよ、アレ」

「おまえはそんなものをポンポンと使えるわけなのだな?」

「ポンポンじゃないですけどねー」


 古代魔法だから長い精神集中がいるし。

 まあ、もう慣れっこだから、それなりに適当でもいけるけど。


「それより陛下。演説会、ウケてましたよー。私の友達の女の子も、陛下のことを英雄みたいでカッコよかったって言ってたし。モテモテでしたよー」

「悪いが俺は常にモテている。今更だ」

「あ、さよですか」


 自分で言うとは。

 やりますね!


 とはいえ皇帝だから、そりゃ、モテるか。

 チヤホヤされるよね、実際。


「……で、あのー。えっと。演説会は大成功だったのに、どうして私は呼び出されて怒られているんですか?」

「だから怒ってなどいない。確認を取っているだけだ」

「あはは。そかー」


 私の勘違いだったのかな……?


「私、いい仕事したよね?」

「そうだな」


 どうやら本当に感謝されているだけっぽい?

 ならよかった!


「うんっ! 珍しく頑張りましたっ! 私もやる時にはやるんですよっ!」

「本当にありがたい話だ」

「なーんだ、もう、怒られてるかと思って損した。いいですよー、はい、感謝の気持ちはいただきました!」

「……誰がいつ感謝した?」


 陛下が腕を組んで私を睨んでくる。


「陛下が? 今?」


 私はキョトンと首を傾げた。


 あれ。


 感謝されているんだよね、私。


「ああ、そうだったな。すまん、うっかり忘れた」

「もしかしてお疲れですか?」

「昨日から一睡もできていないのでな。疲れているといえば疲れている」

「その割には顔艶、いいですね」


 少なくとも、目の下にくまができていたりはしない。


「おまえにもらったアクセサリーのおかげでな」

「それはよかった。でも、実は私も寝てないんですよ。怒られるかと思って緊張で目が冴えてたんですけど、なんか安心して眠くなってきちゃいました」


 いかん。

 大きなアクビが出てしまった。


「ほお。おまえはなにをしていたんだ? また死霊退治でもしてくれていたのかな?」

「ふふっー。盛大にお笑い祭りを開いていました! 私、セラと2人でコンビを組んだんですよ」


 あれは盛り上がった。


 フラミンゴっ!


「ほほう。俺たちが多数の貴族に囲まれて神経を磨り潰している時に、おまえたちは笑い転げていたわけか」

「盛り上がりましたよーっ! あ、見たいですか?」

「誰が見たいと言った」


 また睨まれた。


「見たくないなら別にいいですけど……」


 というか、帰りたいんですけど。

 一気に眠くなってきた。

 まだ帰っちゃダメなのかなぁ、と、ちらりと皇妃様を見ると、


「実はクウちゃんのおかげで、ハイセルは今、精霊に選ばれし歴代最高の皇帝だと持ち上げられているのです」

「へー、すごいですね」

「今こそ帝国の威信を世に示す時だと貴族たちは息巻いています」

「へー、すごいですね」

「もちろん戦争を起こすつもりはありません。ですが神殿に認めさせ、聖者認定されるべきだとの意見が多く出ています」

「へー、すごいですね」

「もちろんわたくしたちにそのつもりはありません。ハイセルは、聖女のように光の魔術を使えるわけではありませんしね」

「そかー」


「おい、クウ。おまえ、さっきから真面目に聞いてないだろ」


「だって眠くなっちゃって」


 我慢してもアクビが出てしまうのだ。


「大事な話をしているのだ。我慢しろ」

「ふぁい……」


「でも、あの光がクウちゃんの仕業で安心しました。本当に精霊からの祝福だとしたらそれこそ聖者でした」

「私も精霊さんですよー」


 一応だけど。


「ふふ。そうでしたね。ごめんなさい」

「まあ、祝福というよりは、ちょっとしたサプライズ? イタズラですけど」


「ほほお。おまえはイタズラで俺を聖者候補にしてくれたわけか?」


「……あの、陛下」

「なんだ?」

「やっぱり怒ってますよね?」


 だってピクピクしてるし。


「怒っていないと言っている」

「そうですよ、クウちゃん。わたくしたちのためにいろいろしてくれていることには感謝しているのです」

「お世話になってますしねー」


 家をもらったし、セラとも仲良くさせてもらっているし。

 できることはします。


「……でも陛下は怒っていますよね?」

「怒っていないと言っている!」

「怒鳴った! やっぱり怒ってる!」


 私が悲鳴を上げると、陛下はコホンと息をついた。


「とにかく、だ。今、帝国の貴族社会は火薬庫だ。おまえはこれから学院祭に行ったり社交の場に出たりと貴族に接する機会が増える。くれぐれも言っておくが、連中の前で派手な真似はしてくれるな」

「行くなとは言わないんですか?」


 言われれば行かないけど。


「いや、むしろ行け。俺の目の届く範囲で慣れろ」

「なら行きますけど……。楽しみにしてたし……」


「クウちゃんは、アリーシャのことをお姉さまと呼んでいるのよね?」

「はい。前にお店に来てくれて、仲良くしてもらいました」

「ならわたくしのことはお母さまと呼んでいいのよ?」

「……いえ、それはさすがに。お姉さまはともかく、お母さまはちょっと意味が重すぎるというか……」

「あら残念だわ」

「あはは」


 あきらめてくれてよかった!


「とにかく俺が言いたかったのはそういうことだ。わかったな?」

「ふぁい」


 いかんアクビと返事がまた重なってしまった。


「あと俺は断じて怒っていない。俺を怒らせたら立派なものだということもよく覚えておけ。わかったな?」

「ふぁ~~い」


「クウ、まだ寝るな。もう1つある」

「……ふぁい」


 頭が振り子みたいに揺れる。

 さっきまで意外と平気だったのに、睡魔って一気にくるねえ。


 陛下が手を招くと、隅で控えていた執事さんが近寄ってきてテーブルに革袋を置いた。


「先日のゾンビ退治の報奨だ。取っておけ」

「ありがとうございまぁす……」


 ふらふらしながら革袋を手に取って、私は目が覚めた。


「え。これ、大金!?」


 そう。

 お金は眠気に勝る!

 あきらかに貨幣がたくさん入っている!


「金貨で100枚だ。遠慮するな」

「えっと」


 いいのかな。

 皇妃様を見ると、うなずいてくれた。


「なら遠慮なく……。ありがとうございます……」


 アイテム欄にしまう。


「おい、クウ。おまえ、なぜアイネーシアに確認を取った?」

「え、だって」

「なんて不愉快なヤツだ」

「やっぱり怒ってるじゃないですかー」

「怒っていないと言っている!」

「また怒鳴ったー!」


「アナタたち、親子みたいね」


 皇妃様がクスクスと笑う。


「こんな面倒な娘などいるかっ!」

「はーこっちこそ怒鳴るお父さんなんていりませんよーだ!」


 楽しそうな皇妃様の前で、私はそっぽを向いた。



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