1044 モッサの秘密、ナリユの近況
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、トリスティン王国の王城の中にいます。
トリスティンには、ヤラとレヤクの2人を「よろしくお願いします」するためだけに来たのですが……。
不覚にも、またも文官に見つかってしまい……。
というか、私の設置ポイントに、どうも待機していたようで……。
ヤラとレヤクには容赦ない徹底的な教育をお願いして……。
私とリトは、お城にいた騎士団長兼現政府の影の支配者なドラン氏と、応接室でお話をする流れになりました。
あと、少し遅れて、ギニス侯爵もやってきました。
ギニス侯爵は……。
ナリユ卿の失踪をキッカケに、ドラン氏を失脚させ、自らが貴族連合の盟主になろうとしていた人物ですが……。
今では無事に和解して、王城に滞在している……。
はずです。
まあ、はい。
私は、ただのふわふわのクウちゃんさん12歳なので、実のところ、難しい部分までは存じておりませんが……。
今日もお城にいるということは、そういうことなのでしょう。
とはいえ今日の私は、ふわふわのクウちゃんさんではなく、白い仮面を身につけた聖国のソード様なのですが。
ともかく。
今、応接室の中では、セイバーことリトが、ドラン氏とギニス侯爵と何やら難しい話をしていた。
私は、話の内容も理解できないので、完全に置物。
もう帰りたかったけど……。
オルデのこともあるし、そういうわけにもいかず、話の結論が出るのをぼんやりとした気持ちで待っていた。
オルデは、ただの帝都の町娘だったのだけど……。
私がついうっかり、トリスティンに「よろしくお願いします」してしまったことをキッカケに……。
ナリユ卿に見初められて……。
なんだかんだで、結婚することになった。
ギニス侯爵の養女となって、それからのことらしいけど。
「そういえば、ソード殿」
ぼんやりしていると、いきなりドラン氏に話を振られた。
「ん? なに?」
不意打ちだったので、思わず普通に返してしまった。
まあ、今さらだけど。
「モッサは元気にしておりますかな?」
「はい。まあ……。帝都で礼儀作法の教室を開いていますよ。オルデも一番弟子として頑張っています」
「そうか」
ドラン氏が小さく笑う。
「……なにか?」
意味ありげな笑みだったので、少し警戒して私はたずねた。
ドラン氏は理由を教えてくれた。
それは、モッサについての驚くべき情報だった。
モッサは以前、私がトリスティンのラムス王――今では元王だけど、に、よろしくお願いした武闘会のチャンピオンだ。
礼儀がなってなかったので、礼儀を叩き込んでほしいとお願いした。
ラムス王はそれに答えてくれた。
モッサは、見事なまでに、短時間で別人となった。
礼儀作法も完璧になった。
考えてみると、すごい話ではある。
普通なら無理だ。
つまり、普通ではない手段を、ラムス王は取ったのだ。
なんとモッサに王家の秘宝を使ったという。
王族に必要な礼儀作法を一気に叩き込む秘宝の力を解放して、モッサを完璧なる紳士へと進化させたのだ。
一度使ってしまえば、魔力のチャージに10年はかかる――。
それは本当に貴重なアイテムらしい――。
ラムス前王は、とっくにお城を出て、今は田舎にいるらしいけど……。
一度、お礼に行った方がいいのかも知れないね……。
「その彼の教えを受けているのであれば、オルデ嬢の礼儀作法はトリスティン正統のものだ。少なくとも式典で恥をかくことはなかろう」
「式典というと、講和条約の?」
「ナリユ卿のパートナーとして参加させるのだろう?」
そういう話だっけ……。
記憶がない……。
と思ったけど、あるある。
思い出した!
私の小鳥さんブレインも、たまには働くのだ!
「帝国皇太子からの親書はお読みいただけましたよね?」
私はたずねた。
「ああ。帝国は、オルデ嬢の婚姻を許可すると共に、精霊に救われた2人の物語を公表し、同時に我が国に対して復興援助してくれるそうだ」
以前に私と相談した通りの内容だね。
よかった。
それならオルデのことも話の内だね、きっと。
「それを受けるかどうかは、来年始めの調印式の時に、しっかりと話し合いをしてからになるが――」
調印式には、帝国皇太子ことお兄さまが帝国の代表としてやってくる。
あとはお兄さまにお任せで問題ないだろう。
ちなみに私の仕事は送り迎えだけだ。
あとは、ふわふわしている予定だ。
難しい話に参加しても、どうせくらくらしているだけだしね……。
と、言いたいけど……。
オルデの人生には私にも責任がある。
お兄さまが悪いようにするとは思わないけど、そこだけは少し口を挟ませてもらうかも知れない。
「……ところで、今日はナリユ卿は?」
「今は城下に視察に出ている」
「町にですか?」
「とうとう反対を押し切って出て行ってしまったよ。城下の治安は悪い。城の中にいてほしいところだが」
へー。
ナリユ卿にも、少しは統治者の自覚が出てきたのかな。
オルデにもいろいろと言われていたし。
「やる気になられても迷惑なのだがな。困ったものだ。アレは、居ることだけに価値があるというのに」
ギニス侯爵が毒のある言葉を吐いた。
ただ、うん。
私も否定はしないけど。
なんにしても、ちょっと心配ではある。
怪我でもされたら大変だ。
ナリユ卿には、危機管理能力もなさそうだし。
「念のため、私が様子を見てこよう」
今更ながらカッコつけた口調に戻して、私は立ち上がった。




