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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1043 閑話・はぐれ狼オムの成り上がり、ファーネスティラ編3





 俺はオム。


 チンケなはぐれ狼だ。


 だが、ファーネスティラの町に来て……。

 町を牛耳る連絡会の1人、カチグ・ミニナールに気に入られて……。

 俺の人生は……。

 新たなるステージを迎えようとしていた。

 俺は今回の、『ローズ・レイピア』とかいう、エリカ王女の箔付けのためだけに結成された――。

 お嬢様達の、お遊びオママゴト集団の査察を乗り切れば――。

 見事、正式な組員になることを許されたのだ。

 俺の道は明るかった。


 なのに今……。


 俺はどうしてか、真っ暗闇の中を1人で歩いていた。


 1人……。


 俺は気づけば、なぜか……。


 輝くような闇の中……。


 たった1人で、足音を響かせながら、誰もいない通りを歩いていた。


 声をかけてみるべきだった。

 誰かいないのかと。

 カチグに、作戦を継続するか確認もするべきだ。


 だけど、できなかった。


 だって、よ……。


 誰もいないのは、わかっているから。


 いつの間にか、みんな、消えちまっていた。


 カツン……。

 カツン……。


 荒くなる心音の中、俺の足音だけが闇の世界に響く。

 逃げたほうがいい。

 きっと、みんな、逃げちまったんだ。

 そう思いつつも、立ち止まることも振り返ることも、俺にはできなかった。

 俺は、ただ歩いた。

 もしも立ち止まれば、足元の泥沼に引きずり込まれて、二度と出てこれないような恐怖を感じていた。


 なんなんだ……。


 なんなんだよ、これは……。


 いったい、広がる闇は、足元の泥沼は、どこまで続くのか。


「――ねえ」


 そこに突然、冷たい息と共に、耳元に声がかかった。

 若い女の声だった。

 それは、完全に俺をからかうような、遊びに誘うような口調だった。


 俺は、誘われるままに振り向き……。


 そして……。


 闇の中に輝く、ルビーのような、その赤い双眸を見た。


 瞬間、全身が激しく痺れた。

 息が詰まる。

 俺は倒れた。

 恐怖で叫び出したかったのに、それすら俺にはできない。


「あれぇ、どうしたのぉ……? ニンゲンって、ホント、雑魚ばっかりねえ。おっもしろいのー」


 くすくす。

 くすくす。


 そんな笑い声が、頭の上から聞こえた。


「ねえ、主様ー。こいつらはー? ウィルちゃんが味見していいヤツー?」

「こいつらはいいよ。好きにして」

「わーい! やったぁ! どんな味なのか、楽しみねえ」


 おい、待ってくれ……!


 俺は心の中で必死に訴えた。

 味見とか、味とか。

 それってまさか、この俺を食おうっていうのか……!?


「あ、でも、その前に、よく顔は見ときなよ。こういう連中が、好きにしてもいいニンゲンの定番だから」

「はーい。主様の仰せのままにー」


 ひあぁぁぁぁ……。


 と、誰かの断末魔のような、かすれた声が聞こえた。

 俺には運があるのか……。

 最初の獲物は、俺ではないようだ……。


 俺は精霊様に祈った。


 精霊様……。

 闇……闇の精霊様でもいいから、お助けを……。

 どうかお願いします……。

 来てください……。


「じゃ、ボクはこいつにしようかなー」


 え。

 あ。


 ぐ……。


 俺は無造作に首を掴まれた。

 小さな、少女のものであるかのような、柔らかくて冷たい手だった。


 俺は軽々と持ち上げられた。

 足が宙から浮いて、一気に息が詰まる。


「おっと。これだとすぐに死んじゃうのか。加減が難しいね」


 あ……。


 掴まれたままだけど、喉が楽になった。


「よし。これでいい?」


 俺を持ち上げた少女が、俺に問うているのだろうか……。

 そんな問いかけが聞こえた……。


「ねえ。ボク、聞いてるんだけど? ちょっと魔法で釣り上げてみたんだけど苦しくはないよね?」


 え、あ……。


 突然、少女の深い、真っ暗なのに輝いた、この世界にそっくりな双眸が、俺の目の前に現れた。

 俺は、必死にコクコクとうなずいた。

 すると少女は、満足したように、白磁の美貌に笑みを浮かべた。


「なら、これでいいか。あーでも、どうしようかなー」


 た、助けてください……。


 声にはならなかったが、俺は必死に訴えた。


「主様も味見したらどうですかー? ウィルちゃん感動ですよー! いつもの魔物より何倍もおいしいー! ニンゲンサイコー!」

「遊びはこれからだから、お腹いっぱいにならないようにね」

「はーい!」


 明るい声が聞こえた。

 その後……。

 聞こえるのは……。


 くちゅ、くちゅ……。

 くちゅ、くちゅ……。


 何かをゆっくりと、味わうような音……。

 それに、ひ、ひ、という、誰かの小さな嗚咽だ……。


 食われて、いるのだろう……。


「た、た、たすけ……」


 俺は必死に、そこまで声を絞り出した。


「んー。そうだなぁ」


 あ。


 俺は、すとんと地面に落ちた。

 尻持ちをついて倒れる。

 合わせて、急に痺れが取れた。

 手足の感覚が戻る。


「ねえ、キミさ」

「へ、へい!」


 呼びかけられて、俺はあわてて顔をあげた。

 目の前にいたのは……。

 多分、10代前半の少女……。

 だけど、これは噂に聞く、悪魔というヤツなのだろうか……。

 少女らしい輪郭は見て取れるし、さっきアップで見た白磁の美貌も、まだ若い女のものだったが……。

 今、俺の目の前にいるそれは……。

 全体にぼやけて、黒いモヤを衣みたいにまとっていて……。

 ちゃんと見ることはできなかった。


「この町で利権チューチューしてる、ヤラとレヤクって知ってるよね?」

「へい! 知っておりやす!」

「あと2人って誰? どこにいるの?」

「へい……。1人は、その、ここにいるはずですが……」

「あ、そうなんだ。どいつ?」


 見れば周りには、いつの間にか仲間がいた。

 ああ……。

 1人が、黒いモヤをまとった少女に、首元を食われている……。


「そ、そいつでやんす……」


 俺は倒れていたカチグに必死に指を向けた。


「もう1人は?」

「もう1人は……。この町では有名な湖業ギルドの長でやんすが……。そいつがどこにいるかまでは……。あ、そうだ! そいつ、カチグ・ミニナールなら知っていると思いやす!」

「ふーん。そっか」

「なので俺は、どうかお助けください! 俺はただの流れ者で、海洋都市から来たよそ者なんっすよ! 俺はもともとファミリーにいたんっすが、ナオ・ダ・リムに破壊されて、青の魔王に破壊されて――。あ、青の魔王っていうのは、そちら様と同じ少女のような外見をした――」


 俺は必死に語った。

 すると、なぜか、少女が笑い出した。


「あはははは! キミには、よほどの悪運があるようだね!」

「へい! 悪運には自信がありやす!」

「いいよ。面白いから、キミだけは逃してあげる。さっさと町から出て海洋都市に戻るといいよ」

「へい! ありがとうございやす!」


 俺は身を起こした。

 俺の体は、今、自由に動かせる。

 他の連中は、まだ倒れていた。

 これから、食われていくのだろう……。

 俺に助けることはできない。

 無理だ。

 こんな、この世のモノならざる連中に俺ができることはない。

 俺にできることは、ただひとつ……。

 そう……。

 逃げ出すことだけだった。


 俺は逃げた。


 全力で走って、その場から離れた。


「くそお! 俺はおわれねえ! こんなところで、この俺様の英雄伝説をおわらせてたまるもんかよお!」


 こうして――。


 ファーネスティラでの、俺の生活はおわった。


 俺はオム。


 今はまだ、本当に――。


 チンケな、ただの、はぐれ狼だ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 『俺はオム。    今はまだ、本当に――。    チンケな、ただの、はぐれ狼。』 ↑かっこよいです。 生き汚くも、生き残り、そしてのし上がる。 彼ならば、たどり着くことでしょう。 ファ…
[良い点] お久しぶりの誤字報告です。 かっぱん様は対応が早いので誤字報告のしがいがありますね。 [一言] 青の魔王が定着しつつあるので、勇者(ナオ)と魔王(クウちゃんさま)の決戦はお笑い勝負になりそ…
[良い点] いつも楽しく読んでます! あ!生き残った(笑) そろそろ真面目に生きたらどうですか〜 悪運だけはあるからこそ商売とかしたら上手くいくかもな(笑) もしくは、恋したら変われるかな?(無…
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