1035 12月13日のこと
おはようございます、クウちゃんさまです。
今日は12月13日。
セラとサクナとボンバーが、出会うどころか意気投合してしまった――。
その翌朝。
昨日はけっこう疲れたけど、一晩寝たらすっかり元気です。
さすが私なのです。
まずは、いつものように身支度を済ませる。
顔を洗ったりいろいろした後、パジャマから精霊の服に着替えて、その上から冬用のパーカーを羽織って、完成。
2階のリビングに下りると、すでに起きていたヒオリさんとフラウ、それにゼノがお茶を飲んでいた。
いつものように「おはよー」してから、私はゼノに声をかけた。
「朝からゼノがいるなんて珍しいね。何かあった?」
「ねえ、クウ」
「どしたの?」
「また旅行に行くんだってねー」
「うん。明後日からね」
細かいことは、なんにも決めていないけど。
とにかく出発は15日の朝だ。
「ふーん」
「今回は忘れたわけじゃないからね? 一緒に行くのはお姉さまたちで、ヒオリさんたちも来ないし」
「ねえ、クウ」
「どしたの?」
「精霊界のことはどうなったの? イルとキオが、まだかまだかってうるさくて迷惑しているんだけど?」
「挨拶会だよね? 来年でいいよね?」
「いつ、どこで、なにをするつもりなの? あと、結局、どんな方針を大精霊たちに伝えるわけ?」
「さあ」
「さあって、どういうこと?」
「私に聞かれても……」
「へー。じゃあ、誰に聞けばいいのかな? ボクに教えて?」
「すべてお任せします」
「ボクに?」
「はい。私の休日であれば、いつでもいいです。よろしくお願いします」
私はペコリと頭を下げた。
「はぁ……。もう。じゃあ、準備はボクがするから、頼むよ。ちゃんと方針は決めておいてね。少なくとも、イルとキオをどうするか。あの2人、こっちの世界で遊びたがっているし」
「はい。わかりました」
私は、再びペコリと頭を下げた。
話がおわったところで、私はヒオリさんに話しかけた。
「そういえば昨日、セラから受け取ったよ。ユイの知識をまとめた本、ついに完成したんだね。おめでとう」
「ありがとうございます。もうお読みいただけたのですか?」
「え?」
「あ、いえ……。なんでも……」
ヒオリさんはそっと目を伏せてくれた。
うん。
わかってるね!
「ちなみに妾も協力したのである。イキモノの中身を知ることは、なかなかに面白かったのである」
フラウが自慢げに言った。
「具体的には言わなくていいからね?」
私にも、実は研究に参加してみないかと話は来ていたけど……。
もちろん、お断りさせていただきました。
中身とか絶対に無理です。
なので研究の話も、おうちでは禁止にしていました。
「ホント、クウってばさあ……。なんでもかんでも自分で始めといて、だいたい全部丸投げだよね」
「ほおー。私をダシにして、魔法少女アリスちゃんと好き勝手やってる人がそれを言うのですかー」
「こほん。まあ、ボクはいいんだけどね。それなりには楽しいし」
「あはは。某も充実していますよ」
「妾もである。新しい知識を得る過程は実に楽しいのである。クウちゃんのところに来れて幸せなのである」
というハッピーエンドを迎えたところで。
ぱくぱく。
私たちは朝食を済ませた。
朝食の後は、すぐにユイのところに『転移』の魔法で飛んだ。
ユイも朝食をおえて、くつろいでいた。
「ユイ、おはよー」
「おはよ、クウ。朝食の後に来るのは珍しいね」
「あー。そういえばそうだねー」
早速、ユイに本を渡す。
「……すごいね。本当にまとめたんだ。うんうん。なるほどねー。こうすれば水の魔力にも適応できるんだねー」
ユイは、さらっと流し読みしただけで……。
だいたいの内容を理解したようだ……。
「これ、クウはどう思った?」
ユイがなぜか、私に聞いてくる。
すると、すかさずリトが、
「ユイ、クウちゃんさまに本の内容なんて聞いても無駄なのです。クウちゃんさまの小鳥頭に理解できるわけがないのです」
「もー。またリトはクウを怒らせるようなことを言ってー。いくらクウでもこの程度は理解できるよー。ねー」
ごめん、ユイ。
むしろリトが大正解です。
「ところでクウ、この本は一般には公開しないんだよね?」
「さあ」
私、細かいことは知りません。
「なら、まだしないように言っておいて。しばらくの間は、国家と神殿の知識ってことにしておこう」
「はーい。ナオとエリカは?」
「その2人ならいいよー。国家枠だよね」
「はーい。でも、どうして? 広まれば便利になると思うけど……」
「中途半端に知った気になって使われたら悲惨なことになるよ。患部に直接魔術を当てると効きが良いんですよ、とか言って、よくわからない人がお腹を開いたりしたらどうなると思う?」
「あー。うん。了解しました」
それは確かに。
想像するだけでゾッとした。
「そもそもお腹なんて開かないしね。知識として、そういうことだよ、って意味で伝えただけだし。こっちの世界だと、魔物にお腹を裂かれても、ポーションとかでそれなりに延命はできるの。そういう人が緊急搬送されてきた時なんかは、さすがに直接臓器に触れて――」
「あー!」
「どうしたの、クウ?」
「……ごめん、そういう話は怖いのでいいです」
本気で……。
「あははー。えー。かわいいこと言ってー。もっと聞きたいのー?」
いかん、ユイが遊びの時の顔をしている!
「あーそうだ! ねえ、リト! これから調印式の町の近くにあるダンジョンの転移陣を開通させてこようか! 様子も見ておきたいし」
私は話を変えた!
転移魔法は光属性の魔法だ。
当然ながら、光の大精霊のリトも使える。
「ユイは一緒じゃないのですか?」
「ユイは仕事だよね?」
「リトも仕事なのです」
「いいから! 行くよ! 精霊同士なら精霊界からすぐだし!」
私は浮き上がって、リトの手を引いた。
「まあ、それはそうなのですが……」
リトも浮き上がった。
「ゼノも誘って、3人で行こう!」
「はぁ。わかったのです。ユイ、いいですか?」
「うん。いいよー。……でもさ、クウ」
「はい!」
話の続きはやめてね!
私は思いっきり警戒したけど……。
ユイの話は違った。
「クウは、本当に精霊になったんだね」
ユイが微笑んで言う。
「うん。まあねー」
自由に空に浮かんで、自由に姿を消して。
精霊界にも行けて。
魔力も圧倒的で。
自分では、自覚なんてないけど……。
私はやはり、精霊なのだろう。
 




