1034 頼りになります、店員さん!
サクナの武具は、すぐに生成できた。
鉄の細剣。
ベルト固定式の部位防具一式。
必要なスキル値はどちらも低いので失敗することはない。
作った後は宝石を乗せて、付与をつける。
付与は重ねるほどに失敗率が上がって、失敗すると武具も宝石も消失してしまうのだけど、1つだけなら確実に成功する。
耐久力強化の付与を、すべてにつけた。
次はポーションを作る。
100本。
数だけで言うと大変だけど、スキル値を大幅に下回る素材や消耗品は自動コマンドで一気に生成できる。
なので、実のところは簡単だった。
ほんの5分で、テーブルの上にはポーションがずらりと並んだ。
木箱に並べて入れる。
むしろ入れる作業の方が、時間がかかるくらいだった。
最後に、メンバーの人たちの注文の品を作る。
鎌の注文もあった。
マンティス先輩からだ。
鎌にはサービスで、耐久力強化の付与をつけてあげた。
私の付与は、ハッキリ言ってチートだ。
なので気軽にはつけられないけど、まあ、うん、お友だち特典だ。
……サクナの武具には、頻繁に来られるとウザいという理由だけで、すべてに付けちゃったけどね。
ともかく、完成!
取りに来てもらうため、私は工房を出た。
まずは応接室に行く。
「できたよー。工房に取りに来てー」
「わかったっす」
あれ?
タタくんはいるけど、ボンバーがいないね。
サクナもいない。
聞いてみるとお店に行ったとのことだった。
ふむ。
私は、なんとなく嫌な予感を覚えた。
だけど、おそるおそる、お店に戻ってみる。
すると……。
「ふぉぉぉぉぉ! クウちゃんさんだけに! 素敵な響きですね!」
「まさに! クウちゃんさまだけに!」
ボンバーとサクナが、大きな声で感動していた。
「あのお、みなさん……」
と、エミリーちゃんが困った顔で止めようとしているけど……。
完全にスルーされてしまっている。
「ですが2人とも、心得ておきない。クウちゃんだけに、くう。それは真実の言葉。迂闊に口にしてはなりませんよ」
偉そうに語るのはセラフィーヌさんですね。
「はっ! 承知しました、セラちゃんさま!」
「そうですね。この神聖なる言葉……。このボンバー、いつまでも大切に胸にしまうと約束します!」
「ええ。そうしてください。ですが一度だけ、クウちゃんの巫女たるこのわたくしが許しましょう。声を、合わせることを」
「「「クウちゃんだけに、くう!」」」
3人が、それはもう気持ちよさそうに叫んだ。
お客さんが、逃げるようにお店から出ていく。
お客さんはいなくなった。
私は頭痛を覚えた。
幸いにも、エミリーちゃんが私の代わりにちゃんと言ってくれた。
まずは冷静に、店内で叫ぶ3人を怖がって、お客さんが出て行ってしまったことを伝えてから……。
「いいですか、セラちゃん。
このお店は確かに、遊び半分の適当なお店です。
それは、クウちゃんがそう言っているのだから確実です。
わたしだって、お勉強とかしちゃってるし。
でも、そうはいっても……。
それを知らないお客様が来ている時はダメだよね?
だって、クウちゃんの信用に関わるもん。
そちらのお2人も、クウちゃんを敬うと言っておきながら……。
実際にやっていることは迷惑行為ですよね?
営業妨害ですよね?
クウちゃんの信用を落としていますよね?
どういうことですか、いったい」
3人は……。
うん。
まだ9歳のエミリーちゃんに、平謝りだ。
珍しくボンバーまで反省している。
ざまあ。
ただ、うん。
遊び半分の適当な店長でごめんなさい。
まさに自分のことを言われている気もして、私も思わず、心の中で謝ってしまうのでした。
とはいえ、私は店長。
いつまでも見ているばかりではいられない。
「エミリーちゃん、ありがとね」
「店長っ! 申し訳ありません、わたしの監督不行き届きで」
「エミリーちゃんは頼りになっているよ。ありがとね。3人は反省するように。サクナとボンバーは工房に行って。完成したから」
2人は逃げるように工房に走った。
「さて、セラ」
「ううう……。クウちゃん、ごめんなさいぃぃぃ! わたくし、またやってしまいましたぁぁぁ!」
「ホントだよ。さすがに恥ずかしかったからね?」
「わたくし、クウちゃんのことになると、つい夢中になって……」
「でも、まあ、ありがとね」
「クウちゃん!」
「セラー」
なんとなく抱き合った。
で、離したところで、セラが笑顔で言った。
「でも、わたくしは感動しました」
「なにを?」
「はい。サクナさんです」
「……どして?」
「わたくし、知りませんでした。まさか学院の、しかも同学年に、あそこまで気の合う方がいるとは」
「あ、うん。はい」
それ故に、会わせたくなかったんですけれどもね……。
「わたくしたち、良い同盟を組めそうです」
「友情じゃないんだ?」
「ふふ。クウちゃん共同体です」
「そかー」
センセイ共同体といい、共同体ブームなのだろうか。
まったくわからない。
なのでとりあえず、私はいつものように、適当に受け流した。
「あと、そうだっ!」
幸いにも、セラはすぐに話題を変えてくれた。
「実は今日は、ただ遊びに来たわけではないのです。――シルエラ、アレをお願いします」
「はい。畏まりました」
脇に控えていたメイドのシルエラさんが、紐で閉じられた手作りの本を私に渡してくれる。
「実は、ついに第一稿が出来上がったので、持ってきました」
「治療新書?」
と、表紙には書かれていた。
「夏にユイさんから教えていただいた医学知識をまとめたものです」
「おー。すごいねー。ついに出来たんだー」
「と言っても、わたくしが書いたものではありませんが」
「そなんだ?」
「はい。これは、ヒオリさんを始めとした学院の方々と、アルビオを始めとした中央魔術師の方々が、わたくしの原稿を元に、水の魔力でも効果の出るように体系化してくれたものなんです」
「へー」
「まだ研究することは多いようですが……。ともかく、年内にはユイさんに渡すと約束していましたので……」
「わかった。明日にでも渡しておくねー」
「ありがとうございます。クウちゃんからも意見があれば、ぜひ」
言われて、私は本をめくってみた。
なにやらいろいろと書かれている。
うん。
無理。
私は10秒で、そっと本を閉じた。
 




