103 夜の最後の時間に
「ダンジョンだよねー。行くよー。私、冒険者だしねー」
「冒険者かぁ。危険も多いだろうけど、そういう人生も楽しそう。ロックさんたち、自由に生きてたわよね」
ロックさんたちかー。
陛下の演説会に合わせて、帰ってくればよかったのに。
顔を見せてくれないってことは、まだダンジョンにいるのかな。
まあ、わかんないけど。
実は帰ってきていて、私の工房には来てくれていないだけかも知れないし。
そうだったらロックさん殴ってやろう!
私が待ってあげてるのに来ないなんて許せんっ!
「あー、ブリジットさん元気かなー」
とはいえ思い出すのは、ブリジットさんの方だけど。
「またもう」
アンジェが呆れた声で言う。
「2人には、いろいろな選択肢があって羨ましいです」
「セラは聖女様になるのよね?」
「誰かを助けることのできる人にはなりたいですけれど……。聖国のユイ様のような存在には……。どうなんでしょうか……。正直、すごすぎて、考えただけで萎縮しちゃいます……」
「あー、うん。そうよねえ……。すごいもんねえ……」
セラとアンジェの会話を聞きながら、私は前世の親友の姿を思い出す。
ユイかぁ。
あちこちで名前を聞くけど、元気でやってるのかなぁ。
まあ、きっと元気か。
「ねえ、ところでセラって、学院では普通科に入るの? 光の魔力は、しばらく世間には隠すのよね?」
アンジェがセラにたずねる。
「実はそのあたりは、まだ決まっていなくて」
「そっかあ。難しいところよね」
話を聞いていて私は閃いた。
「ねー、いいこと思いついた」
「えー、なにぃ?」
「なんで嫌な声を出すのかなー、アンジェくん」
「くんじゃないわよ。だってクウのいいことって、また変なことでしょ?」
「そんなことはないよ。いいことだよ?」
「じゃあ、教えて?」
「セラは学院では、騎士を目指すっていうのはどう? 姫騎士ってカッコいいよね」
セラのお姉さまのアリーシャ様も、そんな感じだったよね。
制服姿に剣が似合っていた。
「セラは剣も習っているのよね? それなら、騎士科もありかもね」
「そうですね。考えておきます」
「……ていうか、ホントに普通だったわね」
アンジェにガッカリしたように言われた。
「ふふ。実はもう一案あります」
「期待していいのかしら?」
「もちろんです」
アンジェの期待という名の挑戦、受けてあげよう。
実に簡単なことだ。
めんどくさいから隠すのはやめて、堂々と光の魔術を使えばいい。
いいよね、1人くらい、いたって。
むしろお約束だよね。
1人だけ光の力が使えるって。
乙女ゲームの場合は、だいたい主人公の平民だけど。
別に皇女様でもいいよね。
「……アンタねえ。物語じゃあるまいし」
「でも、カッコいいと思わない? 最初の魔力測定でさ、」
これもお約束だよね。
こういうの。
こ、こここここれは……!
属性は――光!?
魔力値は――にせんごひゃくぅぅぅぅぅっ!?
っていうの。
「クウちゃん、ちょっと恥ずかしいかもです、それは……」
「ちょっとならいいよね。そもそもセラはもう注目されているし、なんと言っても世直し旅の主人公で光の人だし」
なるほど噂の通りか。
さすがは姫様。
とかで、当然のように普通に認知される気もするんだよね。
「……それってクウ、アンタのせいなのよね?」
「そうとも言う」
否定はできぬ。
いや真実かっ!
「って、また気楽に」
「あはは。それは構わないんですけどね」
「いいんだ?」
「はい。別に自分が注目されたいわけではないんですけど。でも、2人でひとつの噂になるなんて素敵だなぁって」
「……愛されてるわねえ、クウ」
「私たち、仲良しだもんねー、セラ」
「はい、クウちゃん」
「2人でひとつだもんねー」
「はい、クウちゃん」
「うわ」
「アンジェも仲良しだからね? 拗ねない拗ねない」
「わたくしとアンジェも今日から仲良しですよね」
「……ま、いいけど。なんにしても、セラが魔術科に入るのなら私も嬉しい。あんまりおしゃべりはできなくても、正々堂々、首席を争いたいわ」
「その時には、全力でいかせていただきますね」
「うん。もちろん私もよ」
「ていうか、眠れないね」
私は笑った。
なんだかんだで話が盛り上がって、なかなか眠くならない。
いつもならそろそろ強制的に眠くなるけど。
大いに盛り上がったお笑い祭りで、私のお笑いスピリッツが活性化されすぎたのかも知れない。
「ねえ、クウ。ならさ、1つ、お願いしてもいい?」
「いいけど、何?」
「火と風の魔法を見せてほしいの」
「いいけど、なんで?」
「しっかりと心に焼き付けて、私もクウの魔法を使えるようになりたい」
「うん。いいよ」
ベッドから出て天井の照明をつけた。
「にゅう……? 朝ぁ?」
あ、エミリーちゃんが目を覚ましてしまった。
「……どうしたの、クウちゃん?」
「ごめんね、エミリーちゃん。眠れないから、私の魔法の追加講義をしようと思って」
エミリーちゃんは寝てていいよ、
と言おうと思ったら、すごい勢いでガバっと身を起こされた。
「わたしも受けるっ! ぜーったい受けるっ!」
「うん。いいよ」
そうだった。
エミリーちゃんも魔術師を目指しているんだもんね。
さすがに部屋の中で火と風の魔法は使いにくいので、窓を開けて、みんなを『浮遊』で家の屋根の上に運んだ。
晴れた星空。
帝都の夜。
繁華街の方、とても明るい。
飲めや歌えのお祭り騒ぎが繰り広げられているのだろう。
みんな健康だろうしね。
私の行きつけの『陽気な白猫亭』も、今頃は盛り上がっているに違いない。
メアリーさんは大忙しだろうなぁ。
いつも抱きついてくるキャロンさんはまた泥酔しているのかな。
ちょっと様子を見に行きたくなっちゃうね。
さすがにセラたちもいるし、行かないけど。
夜間外出なんて不健全だしね。
って。
あれ。
私、不健全!?
いやそんなことはないよね。
私は健全です。
ちょっと食堂が好きなだけの普通の女の子です。
「すごい。きれいだね……。夜でもこんなに明るいなんて……。これが帝都……帝国の中心なんだね……」
屋根の上からの景色に、エミリーちゃんが感動している。
それにセラが同意する。
「わたくしも初めて見ます……。これが帝都……なんですね……」
「――クウ、少しだけ待ってて。ちゃんと記憶できるように、心を整えるから」
アンジェが目を閉じて深呼吸をする。
「いいよ。ゆっくりどうぞ」
こうして私たちの夜の時間は、本当に過ぎていった。
修学旅行の深夜、みたいな雰囲気を目指した\(^o^)/
これにて、約20話に渡ったヒロイン集合パーティー編はおしまいです。
最後までご覧いただきありがとうございました。




