1029 旅の相談
お姉さまたちを3階の私の部屋に案内した。
「ここがクウちゃんの部屋ですか。清潔で素晴らしいですね。ちゃんと手入れをしているのですね」
初めて入ったメイヴィスさんが、興味深そうに部屋に目を向ける。
私の部屋は、確かに素晴らしい。
白とベージュの色彩を上手に組み合わせて、シンプルながら居心地の良い空間に仕上げられている。
もっとも、私が整えたわけではないけど……。
「実は、大宮殿のメイドさんにお任せしているんですよ。部屋だけじゃなくて、この家全体ですけど」
「なるほど。それは楽で良いですね」
「あはは」
おかげで我が家は、いつでも快適だ。
至れり尽くせりなことに、季節ごとに色彩も変えてくれる。
実にありがたい。
「メイヴィスさんたちは、自分でやっているんですか?」
「いいえ。実はわたくしも同じです」
「私もだな」
「あらあら。みなさん、ダメですわね。自分のことは自分でしませんと」
アリーシャお姉さまがドヤ顔で言った。
お姉さまの部屋は、意外にも、かなり女の子っぽい。
ぬいぐるみいっぱいの部屋だ。
自分で整えているのかな、と思ったら……。
「わたくしはこれでも、自分の部屋にあるぬいぐるみは、ちゃんと自分で並べておりますのよ」
とのことだった。
まあ、うん。
皇女様だしね。
自分で並べているだけでも、すごいことなのかな。
と私は思ったのだけど……。
「その程度のことで自慢してどうするのです。それくらいは当たり前です。本当に貴女と来たら」
すごいことでもなかったようだ。
この後しばらく、私の部屋を好きに見てもらって。
それから適当にくつろいでもらって。
さあ、本題だ。
「それで、モルド旅行ですけど、何日の出発にしましょうか。あと、滞在は何日くらいにしますか?」
ベッドの縁に軽く腰掛けて、私は3人にたずねた。
「できれば12月の早めがいいですわね。わたくし、年末年始は大宮殿に居ないといけませんので」
椅子に姿勢正しく座ったお姉さまが言った。
「明日からでもいいぜ?」
「そうですね。では、明日からにしましょう」
ブレンダさんとメイヴィスさんは準備万端のようだ。
ただ、明日はアヤと遊ぶ約束がある。
なので、明日については却下させてもらった。
「では、明後日ですね」
「だな」
「いや待ってくださいね! それも早すぎなので却下です! せめて15日くらいにしてくださいよ」
というわけで15日の出発になった。
「次は滞在の日数か。まずはザニデアの大迷宮だよな。攻略したら次はモルド家で兵士どもをぶちのめして……。あとは町に出て、悪党退治だろ……。どうせいくらでもいるだろうし……」
床に敷いたラグにあぐらをかいて座るブレンダさんが、指折り数えていく。
大迷宮で片手が埋まった。
もう片方の手は、モルド家のところで埋まった。
どれだけ暴れる気なのか。
「モルドって、そんなに治安が悪いんですか?」
悪党がいくらでもいるって。
「大丈夫ですよ、クウちゃん。悪党といっても実際には自警団です。血の気が多いだけのことですから」
ソファーに座ったメイヴィスさんが、足を組み替えて笑う。
「そうそう。うちはとにかくザニデア山脈から魔物が下りてくるんで、どうしても荒っぽいんだよ」
「困っているならなんとかしましょうか?」
私なら、話せばわかりますけど。
「いや。魔物から取れる魔石や素材は、生活の必需品だからな。村なんかだと逆に助かる部分もあるのさ。ダンジョン産のは高いしな」
「クウちゃん的には、ザニデアの魔物を殺すのは、どうなんですか? 良い感情を覚えないことなのでしょうか?」
メイヴィスさんが聞いてくる。
「いえ、それはないですよ。襲うのも襲われるのもお互い様ですし。竜族の支配領域にニンゲンが入ってこない限りは気にしません」
「仮に入ったらどうなるんだ?」
「皆殺しですね」
変な気を起こされると困るので、私は笑顔でハッキリと言った。
「こえーな! そんな笑顔で!」
「そればっかりはしょうがないです。侵入者を放置すれば、勝手に開拓とかされかねないですし」
「……まあ、それは確かに、そうか」
うしろに倒れて起き上がって、ブレンダさんは納得してくれたようだ。
「現状維持の限りは、上手くやっていけると思いますよ。特に帝国は昔から竜族の領域には不干渉でしたよね」
「だな。うちでは今も、ザニデアの深部探索は禁止されているよ」
「今後もそれでお願いします」
「うちの親父にも、あらためて、よく言っておくよ」
「私も将来は十分に気をつけますね。クウちゃんに怒られないように。あとフラウニール様にも」
「それで日程はどれくらいにするのですか?」
お姉さまが話を戻した。
「年末までか?」
「そうですね」
と、すぐさまメイヴィスさんとブレンダさんは言うけど――。
私は却下させてもらった。
夏のバカンスでも10日だったのだ。
結局、こちらも私が決めてしまった。
5日間。
それだけあれば十分に楽しめるよね。
ザニデアの大迷宮の踏破はしない。
そもそも大迷宮は、踏破するなら連泊が当然の世界だ。
かなり深いという話なので、気軽には挑めない。
考えてみれば私も、最初の頃に一度、浅い部分に行ったきりだし。
カイル青年を助けた時だね。
懐かしい。
カイル青年は今や、『皇女殿下の世直し旅』の人気で、若手では一番人気の吟遊詩人であり演劇家だ。
人生なんて、どうなるかわからないのものだ。
「あーあ。大迷宮、踏破したかったなー」
拗ねちゃったブレンダさんが、ラグの上をゴロゴロする。
「贅沢を言ってはいけません。私達は引率をしてもらう立場ですよ。クウちゃんがダメと言ったらダメです」
「その通りですわ」
「わかってるよー。ごめんなさーい」
「あはは。日帰りでも、いい腕試しになると思いますよ」
「ま、それはそうか。おーし、やるぞー! 私はやってやるー!」
「今から腕が鳴りますね」
ブレンダさんとメイヴィスさんは、やる気満々だ。
「モルド地方には、どんなスイーツがあるのか。今から楽しみですわ」
お姉さまは食にごキタイのようだ。
なんにしても。
計画は、だいたいまとまった。
あとは行くだけだねっ!
15日、楽しみにしておこう!




