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1026 明日への期待(オルデ視点)






 深夜、私は1人、あてがわれた部屋のテラスで夜の景色を見ていた。

 私はオルデ・オリンス。

 ただの平凡な帝都の娘だけど……。

 今は成り行きでトリスティンの王城に滞在している。


 迎えに来るはずのソード様は未だに現れてくれない。

 なので私は帰れない。

 そんな状況だった。

 今夜も、トリスティンで泊まることになるのかも知れない。

 ただ一応、いつでも帰れるように、夜着には着替えず、外出着をいただいてそれを着ている。

 外出着は高価な品だった。

 これだけで、良いお土産になりそうだ。


「あーあ。明日も仕事なのになぁ。というか、お父さんとお母さん、絶対に心配しているよねえ」


 失踪事件になっていそうで、帰るのがちょっと怖い。

 なんて言い訳すればいいんだろう……。

 ソード様が口添えしてくれるといいけど……。

 いや、うん。

 それはそれで大騒ぎよね……。


 それにしても、王都は暗い。

 見渡す町はトリスティンの中心部のはずなのに、ほとんど真っ暗だ。

 ナオ・ダ・リムの襲撃で破壊されて――。

 解放された獣人に大暴れされて――。

 ほとんど、そのままなのだ。

 今のこの国には、首都の修復にかける予算もないようだ。


 帝都なんて、深夜でも――。

 遊び歩けるくらいに平和で賑やかなのに。


 ナリユとの縁談を、思わず受けてしまった私だけど……。


 トリスティンの貴族と、帝都の平民。


 果たして、どちらが幸せなのか。


 難しいところだ。


 でも、うん。


 公爵夫人の座を蹴るなんて、やっぱりもったいなさすぎる!

 正直、恐いけど……。

 針のむしろなのは理解しているけど……。

 断ったら絶対に一生後悔する自信がある!

 なにかある度に、あの時、受けておけばなぁ、って思う自分は想像できる!


 なので、ソード様に問われて……。

 一か八か……。

 受けてしまった。


 政治には絶対に関わらないようにして、偉い人の言うことは聞いて……。

 余計なことは言わないようにして……。

 適度に贅沢な暮らしだけしていれば、長生きできるわよね!

 殺されないわよね!

 ソード様の後ろ盾だってあるんだし、きっと!


「はぁ……」


 私は息をついて、体の力を抜いた。

 やっぱり不安だぁ。

 同時に、ものすごく楽しみではあるけど……。

 だって、さ。

 公爵夫人になれば、今まで触ったこともないような、超高価なアクセサリーを手に入れることができるわよね、きっと。

 有名デザイナーが一品ものとして仕立ててくれたドレスも。

 私は正直、アクセサリーやドレスが大好きだ。

 いくらでもほしい。

 公爵夫人なら、それくらいの夢は叶うわよね。

 楽しみすぎる!

 部屋いっぱいに集めたいわね!

 その程度のお金なら、使っても文句なんて言われないだろうし!

 何しろ公爵家なんだしさ!

 お金なんて、掃いて捨てるほどあるだろうし!


「ふふーん♪ やっぱり正解だったわよねー♪」


 何を買おうか楽しく考えていると、部屋の中からナリユが来た。


「どうしたんだい、楽しそうにして」

「アンタね、レディの部屋に無断で入って来ないでよね」

「無断ではないよ。ちゃんと外にいたメイドさんに、入らせてもらうよと伝えて来たんだから」

「……あー、そう」


 私とナリユは結婚する予定なのだ。

 そりゃ、メイドさんは黙って入れてくれるわよね。


「ねえ、ナリユ」

「なんだい、オルデ」

「……貴方、本当に私と結婚する気?」


 私は念のために、あらためて聞いた。


「もちろんさ!」

「貴方なら、他にいくらでもいい相手なんているでしょうに」

「ははは。安心してほしい。僕にそんな相手は、まったくいないから」

「嘘ばっかり」

「本当さ。うちは公爵家といっても、父と母は道楽者で借金ばかり作っているし、僕は見ての通りの無能だしね」

「ちょっと待って……。今、なんつった……?」

「え。無能かい?」

「その前! 貴方の家、借金があるの!?」

「ああ、いくらでもあるよ」

「具体的にはどれくらい……?」

「さあ……。でも、安心しておくれ。どうせ返せる額ではないから、僕達が気にすることではないよ」

「しなさいよね! 思いっきり深刻に!」

「はははっ! 大丈夫大丈夫! ドランがなんとかしてくれるさ!」

「あーもう……」


 いきなり疲れた。

 本気で疲れた。

 ただ、まあ、うん……。

 確かに、言われた通りにお飾りの盟主をしていれば……。

 権力者の人たちがなんとかしてくれるのだろう……。

 情けない話ではあるけど……。

 さすがに盟主たる公爵家を、借金で潰すことはしないはずだ……。


 でも、さ……。


 借金まみれじゃ、楽しいお買い物なんて出来なくない……?

 部屋いっぱいに好きなものを集めるなんて、夢のまた夢じゃない……?

 それとも私も借金まみれでお買い物をするの……?

 ……楽しめない自信があるけど、それ。

 借金の怖さは、庶民だからこそ、よく知っているし……。


「だから、オルデ。僕達は僕達の幸せを目指そうっ!」

「それって、どんな?」

「それはこれから考えようよ! どれだけ貧乏でも2人なら幸せさ!」

「はぁぁぁぁぁぁ……」

「どどど、どうしたんだいオルデ!? そんな、溶けるみたいなため息をついて!」


 その夜、結局、ソード様は来てくれなかった。

 ソード様が現れたのは翌朝だった。

 私達はロビーで再会した。

 もちろん、ナリユ、ドラン様、ギニス様も急いで駆けつけた。


「昨夜は来れなくて本当に申し訳ない。加えて申し訳ないが時間がない。すぐに君を送る」

「よかった。私、まずはちゃんと家に帰れるんですね」


 ソード様がなかなか来てくれないから、あるいは、このままトリスティンで暮らすことになるのではとも思っていたのだ。


「あとしばらくは帝都で暮らすと良い」

「わかりました。ありがとうございます」

「あと、ナリユ卿」

「は、はいっ!」


 ソード様に名を呼ばれて、ナリユが直立する。

 そこまで緊張しなくてもいいのに。


「これを後で、関係者と共に読んでほしい。帝国皇太子、カイスト・エルド・グレア・バスティールからの親書だ」

「え。え……? 帝国の……?」

「調印式に皇太子が参加する旨と、オルデ・オリンスの婚姻に関わる提案が書かれている。調印式の日に返事を聞かせてほしい。内容については、帝国皇帝に加えて私とセンセイ、先程、聖女ユイリアからの賛同も得た。君からも快い返事があることをキタイしている」

「あの、それ……。もう決まったのと同じですよね……?」


 確かに。

 聖女様が賛同した事柄を、どう否定しろと言うのか。

 私の運命は、すでに決まっているようだ。

 あの手紙の中に……。


 ただ、その内容を知ることは、残念ながら私には出来なかった。

 私はソード様の魔法で……。

 意識を無くして……。

 気づいた時には、賑やかな朝の帝都の中央広場にいた。


「君は普通に帰宅してくれて良い。君が帰らなかったことについては、すでに両親には説明が成されている。次に会うのは年が明けてからになる。君には調印式に出席してもらう予定だ。事前に大宮殿から使いが来る。指示に従うように」

「はい。わかりました」

「では、さらばだ」


 ソード様が私に背を向けた。


「あのっ! 本当にいろいろとありがとうございました! 命を救っていただいたご恩は決して忘れません! ナリユとのことも!」


 ソード様は、消えてしまった。

 私は1人になる。


 本当に……。


 これがすべて夢ではないなんて……。


 凄すぎる話だ。


 私は家に帰った。

 すぐに両親が出迎えてくれる。

 私は、事件に巻き込まれて、事情聴取を受けたことになっていた。

 ナリユは、自宅に戻されたことになっていた。


 すべては、元通りになっていた。


 両親は、今日はゆっくり休めと言ってくれたけど……。

 私は働くことにした。

 だって、眠くも疲れてもいない。

 王城のベッドは、本当に心地よくて、ぐっすりと眠れたのだ。


 私は店番をする。

 私は花屋の店員。


 飾り付けから配達まで、なんでもこなすけどね。


 正直、いきなりナリユがいなくなるのは、ちょっと寂しい。

 賑やかだったとなりが急に静かになった。

 つい、思わず。

 いないのに、話しかけてしまうし。

 そうして、私は苦笑するのだ。

 実はけっこう、ナリユのことは好きだったのかも知れない。

 だった、ではないか……。

 おわったわけじゃないし。

 私達の物語は、これから始まろうとしているのだ。


 どうなるかはまったくわからないけど……。

 お金の問題からして大変そうだけど……。

 お父さんとお母さんとお別れになるかも知れないのは、考えると悲しくもなるけど……。


 でも……。


 それでも……。


 私は、彼と生きることを決めたのだ。

 自分の明日が、ものすごく楽しみだ。





オルデの物語は、いったんここまでです。お読みいただき、ありがとうございました!

将来、トリスティン救国の母として歴史に名を残すことになる名王妃オルデの若かりし頃のお話は、

まだ続く予定です。

次の出番は先になるかもですが、

よかったら名前だけ覚えておいてやって下さい\(^o^)/


次回からはクウちゃんさま冬休み編となります。

避暑地への旅行、お姉様たちとの旅行、セラたちとの旅行。

年末、年始。

リアルでは旅行なんてまるで無縁な人間なので、物語の中ではあちこちに行きたいと思います!w


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― 新着の感想 ―
[気になる点] オルデが名王妃になるのか! まあ、「ナリユが無能すぎて任せておけない!」みたいな感じで成長したのかな?
[一言] 成り行きに任せれば大体うまく行くのに、積極的に自爆フラグを立てにかかるナリユキと、フラグを折って軌道修正する救国の母。 オルデはフラグを折るで、だったのか…この世界じゃネタが通じないが…
[一言] 初登場ダメダメ過ぎたオルデが……感慨深いですね
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