1023 クウちゃんさまの今日、夜になってもおわらない
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、ソード様としてトリスティン王国の王城に来ていて、ナオと共に会談をしていたのですが……。
正直、途中から寝ていました。
仮面をしていてよかったです。
おかげで会談の内容はさっぱりですが……。
よく考えなくても……。
いつも難しい話なんて右から左なので……。
うん。
何の問題もなし、だね!
あははー。
おわったところで、ナオがざっと教えてくれたし。
ありがとう。
とりあえずディナーに誘われていた。
もうそんな時間だ。
「私とナオは、これにて退席させていただく。オルデは後でまた迎えに来るからディナーをごちそうになっていくといい」
「はい」
オルデは素直にうなずいた。
「ドラン殿も、それで問題はないかね?」
どうせすぐに崩れるけど、私は堅苦しい言葉遣いを頑張った!
「ああ。構わん」
「あとは――。そうそう、オルデの婚姻話だが、」
忘れない内に、オルデの意思を確かめないとね。
「ぜひともお願いします!」
ナリユ卿が、私の話を遮って勢いよく頭を下げてきた。
ナリユ卿は当然ながら超前向きのようだ。
「オルデはどう? 乗り気? それとも嫌? 嫌なら関係者共々すべてを忘れて、家に帰ることもできるけど?」
私はオルデにたずねた。
オルデは、即座には返事をしなかった。
迷っているのだろう。
なにしろ、うん。
まさに人生を決める、運命の選択だ。
しばらく待っていると……。
ためらいがちながらも、オルデはこう言った。
「えっと……。せっかくの機会ですし、皆様の承諾さえいただけるのなら……。このお話はお受けしたいと思いますが……」
「オルデ!」
オルデの前向きな返答に、ナリユ卿が歓喜の声を上げる。
「わかった。では、進めさせてもらおう」
いったん崩れた気もするけど、私はあらためて堅苦しくしゃべった!
ソード様の演技は大変なのです!
「お願いします!」
「だから、貴方が返事をするんじゃないの。こういう時は偉い人に確認をするの」
オルデはナリユ卿をたしなめると、ドラン殿たちに頭を下げた。
「あの、私は一生に一度の機会ですし……。正直、貴族の暮らしには憧れがあるので……。前向きに考えてはいるのですが……。どうでしょうか、ドラン様、ギニス様」
オルデに問われて、2人は了承した。
話は決まった。
私とナオは、すぐに聖国に転移した。
聖女の館。
ユイの家だ。
ただ残念ながら、もう日は暮れているのに……。
まだユイは大聖堂にいた。
と、リトが現れた。
「クウちゃんさま、昼も来ていたと思うのですが、またお遊びですか? 残念ながらユイは大忙しなのです」
「あー、うん。そうみたいだねー」
「もしも用件があるのならリトが聞くのです。言うといいのです」
私はナリユ卿のことと、調印式の日時を伝えた。
「わかったのです。伝えておくのです。――ナオ、遂に戦争がおわるのですね。おめでとうなのです」
「ありがとうございます、シャイナリトー様」
「おまえは死んでいったニンゲンの分まで、生きて生き抜くのです」
「はい」
リトは消えていった。
「クウ、私もそろそろ帰る。今日はありがとう」
「こちらこそ」
「オルデがいて驚いた」
「あはは。そういえばそうだねー」
「気づかれなくて、ちょっと悲しかった」
「残念ながら、そんなこと絶対に言える空気じゃなかったからね?」
戦士長モードのナオは、まさに真剣だし。
さらに正装していると、その雰囲気は何倍にも膨れ上がる。
どれだけ似ていても……。
確実に、別人としか思えないよね……。
ナオが『帰還』する。
私も『帰還』した。
視野が反転して――。
気がつけばそこは、いつもの大宮殿の奥庭園。
晴れた夜。
外灯に照らされた、願いの泉のほとり。
私は夜空を見上げた。
そういえば……。
去年の春――。
初めて帝都に来た時も、夜だったなぁ……。
あれからもう一年半が過ぎた。
なんとなく、最初の夜のことを私が思い出していると……。
「クウちゃんっ!」
「あれ、セラ?」
「はい! わたくし、セラフィーヌですっ!」
私服姿のセラが現れた。
「どうしたの? いきなり?」
気配を感じたとしても、早すぎるような。
「夕食前に時間が空いたので、散歩していたんです。そうしたらクウちゃんの気配を感じて。クウちゃん、久しぶりに夕食をご一緒にどうですか? ちょうどこれから時間ですし。お母さまたちも喜ぶと思います! あと料理長も!」
正直、オルデを迎えに行くまでの間、私は仮眠をしたかったけど……。
考えてみれば、オルデのことは報告した方がいいよね。
勝手に決めてしまったのは、マズかったかも知れない。
「なら、よかったら……」
私はご一緒させていただくことにした。
今日も長い一日だけど、あと少し、気合を入れて頑張ろう……。




