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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1022 閑話・メイドは見ていた(トリスティン編)





 私は、ただのメイドです。

 トリスティンの王城に勤めています。

 つい去年までは、ただの若手の雑用係だった者です。

 先輩方が次から次へと逃げるように辞めていく中、気がつけば王子の身の回りの世話をするどころか――。

 事務仕事までを手伝うメイドになっていましたが。

 その王子も、すでに王城にはいません。

 ラムス王と共に自ら身を引いて、辺境の小領に移りました。

 王家の人間は王城を出ました。

 残された私は元王家専属メイドという肩書きによって……。

 今では、メイドとして最上級の地位に就いています。

 重要な会議の場にすら居ることもあります。

 今日も私はそうでした。


 夕方。


 王城の一室。


 今、私が隅に立つ応接室には、国を代表する要人たちがいます。


 1人は、我が国の騎士団長であり、現在の我が国の実質的な支配者、ドラン様。

 1人は、我が国の侯爵であるギニス様。

 1人は、我が国の貴族連合の盟主であるナリユ様。

 1人は、リゼス聖国のご令嬢で、おそらくナリユ様の婚約者、オルデ様。

 1人は、リゼス聖国の親衛隊第一位、ソード様。


 さらに、もう1人。


 部屋に現れたナリユ様に、立ち上がって短く挨拶をした、将軍の礼装に身を包んだ銀色の髪の少女。

 ド・ミ新獣王国の、ナオ・ダ・リム。

 私たちの住むこの王都に襲撃をかけ、獣人奴隷を解放し、王都の機能の大半を破壊した張本人――。

 そのおかげで、王都は完全に寂れました。

 未だに都市としての機能は、たいして回復していません。

 一時は、魔物ですら自由に出入りできる状態になって、魔物による王都の蹂躙も行われる寸前でした。

 それについては、ソード様が排除してくれましたが。

 そのことは当然ながら秘匿されていますが――。

 メイドとして重要な会議の場に何故か居合わせることの多い私は、その事実を普通に知っています。

 何故なら、ソード様とドラン様の会話の場に私は普通にいました。

 2人に普通にお茶を淹れていました。


 私は、ただのメイドです。

 退出を命じられれば、喜んで出ていきますが……。

 何故かいつも、出ていけとは言われません。

 なので……。

 いつでもお茶を淹れることができるように、隅で待機しています。

 今日も私はそうでした。


 なんにしても、ナオ・ダ・リムは我が国の仇敵です。

 彼女の号令によって、多くの土地が奪われ、多くの人が殺されました。

 また、彼女自身も、一騎当千の英雄。

 王都での戦いでは、王国騎士団は為す術なく一方的に蹂躙されました。


 ナリユ様が恐怖で倒れそうになるのは……。

 当然、と言えるのでしょう……。

 盟主であれば……。

 どうせ感情を乱すのであれば……。

 怖れるより、むしろ怒り狂ってほしかった気もしますが。


 もちろん私は本音など表には出しません。

 私は、ただのメイドです。

 相手が誰であろうと、ただ、お茶を淹れるだけです。


「ほら、ナリユ。挨拶をしなさい」

「え。ふ?」

「ふ、じゃなくて。今、挨拶をされたでしょ。挨拶を返さないと、お互いに座ることもできないでしょ」

「あ、うん……。そうだね……」


 婚約者のオルデ様に背中を叩かれて、ようやくナリユ様は、いくらかの正気を取り戻したようです。


「ど、どうもこんにちは、ナリユです」


 しどろもどろながら、なんとか挨拶をします。

 ナオ様がソファーに座ります。

 ナリユ様は立ったままでしたが、ドラン様に促されて座ります。

 オルデ様はうしろに行こうとしましたが――。


「となりに座ったらー?」


 と、思いっきり気の抜けた声でソード様に言われて――。


「はい。わかりました」


 オルデ様は、ナリユ様のとなりに着席しました。

 ソード様はお疲れのご様子です。


 ナオ様が言います。


「さて、ナリユ卿。我々の講話条約の調印式についてだが、センセイからのご意思で来年の1月10日に決まった」

「あ、はい」

「では、決定で良いな?」

「あ、は、」

「ちょっとナリユ! 貴方が決めていい問題じゃないでしょ! まずは皆様にお伺いを立てないと!」


 うなずきかけたナリユ様を、慌ててオルデ様が制します。


「申し訳ありません。生意気なことをして」


 オルデ様が、ドラン様とギニス様に頭を下げます。


「構わんよ。我々はすでに了承した」


 ドラン様が言います。


「ありがとうございます。ほら、それなら、ナリユ」

「うん。なんだい、オルデ」

「――皆様の了承があったので、私も了承します、でしょ」


 ナリユ様は、言われた通りに言いました。


「では、大まかな部分だけ、確認させていただく」


 すでに講和条約は、ほぼ内容が決まっています。

 ナオ様がその概要を口に出しました。


「賠償は互いに一切の請求を行わない。

 我が国の主権を認める。

 我が国の領土が、旧ド・ミ国の全域を含めることを認める。

 トリスティン国内の獣人を解放し、我が国への受け入れを許可する。

 我が国の捕虜を解放し、トリスティン王国へと返還する。

 以上」


 沈黙が流れました。

 ナオ様の視線はナリユ様にあります。

 当然、ナリユ様が盟主として返答する場面です。


 条項については、私でも知っている内容です。

 本来は、ただのメイドが知っている内容ではないのですが、同じ場所にいるので仕方がありません。

 どうしても、覚えてしまいます。


 正直、国土を奪われれ、王都を蹂躙され……。

 奴隷を解放され……。

 好き勝手にされたわけですが……。

 賠償の支払いがないだけ、敗戦国としては良い条件なのでしょう。


 戦ったところで、現状では勝ち目もありませんし。


 なにしろ、すでにセンセイの名の下に、ジルドリア王国とリゼス聖国が新獣王国との協調を表明しています。

 それどころか……。

 噂を信じるのなら、帝国と大森林と竜族までも。


 ここで講和しなければ、悲惨なことになるのは自明なのです。


「あの、いいでしょうか」


 ついにナリユ様が口を開きました。


「どうぞ」


 ナオ様が発言を促します。


「僕達は、けっこう酷い目に遭ったと思うんですけど……。賠償金すら取ることはできないんですか?」

「アホかぁぁぁぁ!」


 パーン、と、気持ちよく盟主様の頭を叩いたのはオルデ様です。


「アンタね! 一方的に負けて、聖女様まで敵に回る寸前で、どの口がそんなことを言えるのよ! アンタの首があるだけ有り難いと思いなさい! アンタ、実際に殺されかけたでしょ!」


 この後、なぜかオルデ様が必死に謝りました。

 ナオ様はそれを許しました。


 ともかくこうして――。


 ようやく、講和条約は正式に調印される運びになりました。

 これで戦争がおわれば。

 私としては、本当に嬉しいです。










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― 新着の感想 ―
他国を侵略したやつは、やり返されても文句は言えんわな。特に奴隷とか最悪だし
[良い点] ナリユとオルデのコンビがボケとツッコミになっていて面白い。 [気になる点] オルデはこの件でナリユを抑えるのに必要な人材と認められ、国に帰れなくなるのでは?
[良い点] いつも楽しく読んでます! 夫婦漫才(笑)
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