1016 王城で朝食を
おはようございます、クウちゃんさまです。
私は今、ソード様として、トリスティン王城の豪華な食堂にいます。
これから関係者たちと楽しく朝食です。
朝です。
昨日は徹夜だったので、かなりのふわふわ状態ですが、まだおうちに帰って眠ることは許されていません。
いやー、もう。
本当に。
昨日は本当に大変だったのです。
昨日の夕方、ナリユ卿に会う時、ソード様になるか、ならないか。
迷いに迷って……。
結局、その時になったらナリユキで決めよう……。
ということで……。
一応はソード様に着替えておいて……。
私は空中に浮かんで、オルデとナリユを待ち構えることにした。
だけど、2人は帰ってこない。
夕暮れがおわって。
黄昏時になって。
ついには暗くなって。
でも、2人が姿を見せることはなかった。
いったい、どうしたんだろうねえ、と思って……。
敵感知の範囲を広げてみると……。
ずっと反応はなかったのに、反応が2つあった。
敵感知は、悪人に対して反応するわけではない。
敵感知は、私や私の環境に害を及ぼす敵、あるいは、受注済みのクエストに関わる敵にだけ反応する。
たとえば帝都のどこかで赤の他人が殴られていたとしても、知らない誰かが蹴られていたとしても、反応しないのだ。
まさに、ゲームそのままの仕様で私のスキルとなっていた。
つまり、反応があるということは――。
私の敵か、クエストに関わる敵が発生したということだ。
急行して、驚いた。
だって、うん……。
オルデとナリユと知らない老人が、廃墟の神殿のテラスで殺されて、金目のものを奪われていた……。
とりあえず、物色していた男には緑魔法の『昏睡』をかけた。
男は倒れた。
私はすぐに3人に、上位蘇生と上位回復の白魔法を連続してかけた。
幸いにも、3人とも回復した。
よかった。
とりあえず3人にも、眠っていてもらうことにした。
なにしろ、敵感知には、もうひとつの反応があった。
そちらは、すごい速さで移動していた。
これも処理しないといけない。
飛行の魔法で追いかけて、追いついて。
緑魔法の『昏睡』。
こちらは女だった。
倒れたところを肩に担いで、神殿のテラスに戻って……。
犯人らしき2人は、とりあえずロープで縛って……。
さて。
どうしようか。
少しだけ迷って、私はすぐに決めた。
そう。
困った時にはトリスティン。
トリスティン送りが一番だ。
今回は特に、トリスティンの盟主、ナリユ卿もいるしね。
と思ったけど……。
その前に、話だけは聞いてみることにした。
ゼノに協力してもらうことにした。
「またボクを便利な道具扱いする。本当にクウはさ、いつもはボクのことなんて忘れているくせに、こういう時だけ思い出して、」
「まあまあ。ね。ぜーったい、面白いことになるから、協力してよー。オネガイゼノリナータさま」
「はぁ……。まあ、いいけどさ……」
男だけを起こして、ゼノの力を借りてオハナシさせてもらった。
男は素直に、すべてを話してくれた。
2人は、トリスティンの大貴族の子飼の部下だった。
凄腕の諜報員。
その大貴族は、新獣王国との戦いには形ばかりしか兵を出さずに、ジルドリア王国に近い自分の領土で力を蓄えてきた。
そして……。
ナリユ卿の失踪をキッカケにして、ついに動いた。
ドラン氏を失脚させて、自らがトリスティン貴族連合の盟主に、あわよくば国王へと上り詰めるために。
まあ、うん。
申し訳ないけど……。
私に知られてしまったのは、運の尽きだね……。
場所も容姿もわかったので……。
犯人2人とナリユたちは、トリスティンの王城に連れて行って。
とりあえず、いつものように「お願いします」して。
で。
ゼノと2人、大貴族の館まで行って……。
けっこう大変だったけど……。
なんとか本人を見つけて……。
申し訳ないけど、寝たままトリスティンの王城に連行した。
うん。
ごめんね。
でもね、こういうのは、当事者同士で、ちゃんと話し合ってくれたほうがいいと思うの。
私には、他にどうしようもないしね。
というわけで……。
そんなこんなで夜が明けて……。
今は、朝。
食堂には、一切の会話なく、ドラン氏、ナリユ卿、大貴族の男性、ソード様な私がすでに席についていた。
目覚めたオルデも一緒に朝食を取りたいそうなので、来るのを待っている。
揃ったら、みんなで楽しくいただこう。
ゼノは帰りました。
朝食は黒猫ゼノとして、アリスちゃんと一緒に取るそうです。
最後は満足してくれていたので、よかった。
深夜の大貴族捜索作戦は、けっこう楽しかったのだ。
いつもありがとう!
このお礼は、必ずするからね!
私の小鳥さんブレインが、ちゃんと覚えていたら!
さあ。
私はお腹がペコペコです。
なんか、うん。
大貴族の男性からの視線がすっごく痛いのだけど……。
とりあえず私は気にしないことにしている。
何しろ彼は、目覚めたらいきなり王城で、いきなり朝食の時間ですよと言われてここにいるのだ。
そりゃ、不機嫌にもなるよね。
怒るよね。
意味わかんないよね。
よく、怒鳴ったり暴れたりせず、大人しく従っているものだ。
それどころか、王城でシャツとズボンを借りて、ちゃんと着替えて、朝食のこの場に来ている。
実に冷静なのだ。
凄まじい自制心だと感心する。
それだけ見ても、有能な人だとはわかる。
ただ、まあ、うん。
まずは食べてからだよね!
話はそれから!
と、思ったのだけど……。
私は今、ソード様だった。
ソード様は、白い仮面を常に付けている。
その仮面は魔法の仮面なので、視野が遮られることはないけど……。
よく考えてみたら……。
食べることはできない仕様だった……。
私の空腹は限界だ。
よし。
ちょうどオルデも入ってきた。
私は席から立った。
「じゃあ、あとは当事者同士で好きにお話しください。オルデは、適当な時間に迎えに来るから適当に楽しんでて」
「え。あの……。私、1人で、ですか……?」
私は『帰還』の魔法を使った。
私は、うん、帰って、おうちで食べよ。
その後、お昼まで寝よ。
と思ったのだけど……。
「店長、どこに行かれていたのですか! 昨日はお帰りにならなかったので心配していましたよ! さあ、もう時間がありません! 制服に着替えて、すぐに学院に飛んでください!」
「お店のことは任せるのである。クウちゃんは急ぐと良いのである。話も帰ってからで良いのである」
家に帰るや否や、ヒオリさんとフラウがまくし立ててきた。
なんと、今日も学院があるのでした。
サボろうかな……。
とも思ったけど、今日もエミリーちゃんは普通に働きに来る。
エミリーちゃんにサボる姿は見せられない。
私はエミリーちゃんの前では、尊敬できる立派なお姉さんでいたいのだ。
つまりは、行くしかないのだ。
今日はまさに。
試練の1日になりそうだ……。
 




