1011 オルデの家に行ってみる
バーガーを食べて、帰り際……。
バン!
と、勢いよくドアを開けて、気合の入った旅の中年男性が、シャルさんのピンクなお店に現れた。
「ここが最強バーガー大会出場者シャルロッテの店かぁぁぁ!
頼もうー!
我こそは、食の求道者人ドン・ブーリなりぃぃぃ!
さあ、食わせてもらおうか!
料理の賢人に近き、最強バーガーを!」
道場破りだぁぁぁぁ!
挑戦者だ!
居合わせた私たちは戦慄したけど……。
それを出迎えるシャルさんは、胸の前に指でハートを作って、
「しゃるーん☆ おかえりなさいませ、ご主人さまー☆」
と、黒とピンクの姿で、可愛らしくお出迎えをした。
ていうか。
うん。
メイドカフェスタイル……。
ラハ君に怒られたのに、採用しちゃってるね……。
私は気づかないフリをした。
「ぬ、ぬう……? こ、ここ、ここは、最強のバーガー屋ではないのか?」
「ここは、しゃるーん☆はうす、ですよー」
たしかに外の看板には、そう出ていたね。
「ぬう」
「大会のバーガーなら、大通りのレストランにありますよー」
「ぬ、ぬう……。そうか……」
挑戦者は去っていった。
「勝ったー! わーい! しゃるーん☆」
シャルさんが飛び跳ねて喜ぶ。
なるほど。
シャルさんも大変だね。
やっぱり店舗の場所を変えた方がよくない?
とは思ったけど、私は余計なことは言わずにお店から出た。
また大金が吹き飛ぶしね……。
エカテリーナさんたちとは、表通りの駐車場に着いたところで別れる。
私とアヤは残った。
私たちは、普通に走って帰れる距離だ。
まだ日も暮れていないしね。
馬車を見送ってから、アヤともお別れする。
「クウちゃん、またねー! 今日は楽しかったよー!」
「うん。また明日ー」
元気に尻尾をなびかせて走り去っていくアヤの姿も見送って――。
私は1人になった。
私は、アヤとは反対方向の中央広場に向かう。
さて。
私は、まだ帰宅できない。
今日はこれから、もうひと仕事あるのだ。
適当な物陰に入って、精霊族の固有技能『透化』と『浮遊』を発動させる。
これで私は幽霊状態。
ふわふわと、どこにでも行ける。
目的地はオルデの家、家族で経営しているという花屋さんだ。
帝都在中の少女オルデ・オリンスは、現在失踪中のナリユ卿がナリユキのままに求婚した相手だ。
もしかしたら、来ているのかも知れない。
花屋は、大通りから横に入った、庶民向けのお店が並ぶ通りにあった。
ちゃんとした花屋だ。
冬なのに、たくさんの花が店先には置かれていた。
私は『透化』を解除して、お客さんとして普通に入ってみた。
「いらっしゃいませ。どのようなお花をお探しですか?」
すぐにエプロン姿の店員さんが出迎えてくれた。
中年の女性だ。
オルデのお母さんだろう。
顔立ちが似ている。
「そうですねえ……。家に飾る花がほしいんですけど……。今って、どんなのがオススメですか?」
店員さんからオススメの花を紹介されつつ……。
私はタイミングを見計らって、
「ちなみに、なんですけど、お花屋さんって、男の人も来るんですか?」
と、聞いてみた。
「ええ。来ますよ。お店をやっている人が多いですけれどね。最近は好景気だからお店に花を飾る人も増えて」
「若い男の人は来ますか? その、お店の人じゃなくて、普通の」
「もちろん来ますよ。今日も、恋人の誕生日ということで、大きな花束を作られた方がいましたし」
「そかー」
「あら、どうしたの?」
「あ、いえ……」
私は、探偵にはなれないようだ。
上手に話を持っていけない。
もっとちゃんと、話の流れを考えてからお店に入ればよかった。
どうしようか。
ふむ。
まあ、いいか。
「あ、えっと、その……。最近、このお店に、なんかこう、ナヨナヨした感じの若い男の子って来ませんでしたか? 私よりは年上で、お金持ちな感じの。顔は良いけど頼りない感じな」
ストレートに聞いてみました。
これが正解だった。
店員さんが驚いた顔で、こう言ったのだ。
「もしかしてお嬢さん、ナリユ君のお知り合い?」
まさかの、名前そのままです。
「はい。親しいわけではないんですけど……。あの、彼は家出中で……。わかるのなら、どこにいるのか……」
「うちにいますけれど……」
「え。いるんですか!?」
「はい……。うちの娘が拾ってきて、そのまま……」
なんと。
「彼はやっぱり、いいところのお坊っちゃまなの? そう聞いているのだけれど……」
「そうですね。はっきり言ってお坊っちゃまです」
「お嬢さん。もしも知っているなら、彼がどこの誰なのか教えてもらえると嬉しいんだけど……。うちも成り行きで居候させているけど……。一応はね、どこの誰かは聞いているんだけど……。悪い子ではないとは思うんだけどねえ……」
ナリユは、僕は元公爵家の人間です! とでも名乗ったのだろうか。
だとすれば困惑するのは当然だろう。
というか、よく居候なんて、させてあげているものだ。
「うちの娘が言うには、後で謝礼金ガッポリだから、しばらく面倒を見て損はないらしいけど……」
さすがはオルデ。
抜け目がないね。
「娘が騙されているとも限らないし……。そもそも、お金持ちのお坊っちゃまがうちの娘に求婚なんて、ねえ……」
「家柄についてはご安心ください。立派なものであることは私も保証します」
私は今、帝都中央学院の制服を着ている。
少しは信用もあるだろう。
「ならいいけど……。それで、家には連絡していただけるのかしら? あ、まずは会った方がいいわよね。うちの娘とナリユ君は配達に出ているけど、あと1時間もすれば帰ってくるから」
「そうですか。ならまたそれくらいに来ますね」
と、言って、私は気づいた。
私は、ナリユともオルデともソード様としてしか接していない。
クウちゃんとしては、バーガー大会の時にエリカの友達としてオルデと少し顔を合わせた程度だ。
会ったしても、はじめまして、になってしまう。
特にナリユには。
「それくらいに、保護者を連れて来ますね」
私は言い直した。
「あら。帝都にいらっしゃるの?」
「はい。大丈夫です」
「それはよかったわ」
「では、そういうことでお願いしますっ!」
私はオルデの花屋から出た。
うーむ。
さて、どうするか。
ソード様になって、迎えに行ってもいいものだろうか……。
そういう風に話しちゃったけど……。
考えつつ、私は歩いて、とりあえず中央広場に向かった。
 




