1009 しゃるーん☆☆
「しゃるーん☆ お待たせしましたー! シャルルン☆バーガーでーす!」
ピンクと黒の地雷系ファッションに身を包んだシャルさんが、トレイにバーガーを載せて現れた。
「はい。どーぞー」
順番に私たちの前に置いてくれる。
バーガーと、水。
付け合せはなしの、まさに食の一本勝負だ。
まあ、うん。
シャルさんのお店はシャルさんが1人でやっているので、他のものを出す余裕がないだけなのですが。
さて。
では。
お店がピンクになった理由など、聞きたいことはありますが……。
まずは、見せてもらいましょう!
シャルさんの、新作バーガーの実力とやらを!
と意気込んではみたものの……。
今、私の目に前にあるのは、実にシンプルな……。
いかにも普通のバーガーだった。
うん。
バンズに挟まれているのは、レタス、チーズ、トマト。
あとは、薄めのパティ。
幾重にもパティが積まれているわけではなく……。
濃厚なソースがかかっているわけでもなく。
以前のシャルバーガーのように、大根のような見るからに独特な素材が挟まっているわけでもなかった。
そう。
普通、なのだ。
いや、うん。
決して普通が悪いことではない。
それはむしろ、良いことだ。
ただ、ピンクのお店のピンクの店長さんから出される料理ならば、きっとそれはピンクだろう。
と、私は勝手に予測していたので……。
拍子抜けを食らっただけのことだ。
私は正直、もっと異質なバーガーで出てくると思っていたのだ。
たとえば、中にクリームとモモとイチゴがたっぷりと入った、普通にスイーツだよねってバーガーとか。
私は気を取り直して、バーガーを食べてみた。
ぱくり。
ふむ。
こ、これは……。
丁寧に作られた素直なバーガーだ。
ソースは濃すぎずに爽やか。
外からは見えなかったけど、中にはピクルスも入っていて、それが実によいアクセントになっている。
美味しい。
正直、私好みの味だ。
ふむ。
私は、その味に記憶があった。
「ねえ、シャルさん。このバーガーって、もしかして、バーガー2番だった頃の最初のバーガー?」
「さすがはクウちゃん。よくわかったね」
「戻したんだ?」
「うん」
バーガー2番は、去年の今頃……。
もう一年前か……。
シャルさんと出会った時、このお店についていた店名だ。
「ねえ、どうかな? 美味しかった?」
「はい。美味しかったですけど」
「よかったー! クウちゃんにそう言ってもらえて安心したよー!」
「せっかく人気商品になっていた肉々バーガーはやめちゃったんですか?」
「うん」
「そかー」
私のクラスメイトたちの感想は上々だった。
みんな、野菜がたっぷり入って、爽やかな味わいのこのバーガーを気に入ってくれたようだ。
私も美味しかったと思う。
ただ、でも、このバーガーは以前に売れなくて止めたバーガーだ。
シャルさんのお店は裏通りにある。
一般の女性客は、なかなか気楽には来れない。
帝都の治安は良い。
私たちくらいの少女だって、1人で楽しく歩くことができる。
ただ、裏通りは、やっぱりイメージが悪い。
絡まれたことはないけどね。
シャルさんも普通に生活しているし。
最近では特に、うん……。
魔法少女アリスちゃんが、黒猫ゼノと一緒に、悪者をひっさつビームで改心させまくっているし……。
まあ、それはいいんだけど……。
私は完全に気にしないことにしている。
ともかくお店のバーガーは、地元住民にウケそうな肉々しいものに変えて、見事にヒットを飛ばした。
お店は、まあまあ繁盛していた。
「……なのにどうして、わざわざ戻しちゃったんですか?」
私はたずねた。
「それはね……」
するとシャルさんは、ずーんと落ち込んだ。
代わりにボンバーが教えてくれた。
「姉上の店は、以前のバーガー大会で知名度が上がって、帝国中から客が来るようになってしまったのです。とはいえ、裏通りの店ですし、一般の客が押し寄せて大混雑するようなことはなかったのですが。大会のバーガー自体は、表通りのレストランで派手に提供されていますし」
「……もしかして、帝国中の美食家が押し寄せてきた、とか?」
「その通りです。姉上は店を開ければ毎日、このバーガーは出来損ないだ、このバーガーの意図するところを聞かせてもらおう、というようなことを言われて。そうした客には貴族や金持ちが多く……。そのせいで常連客も離れてしまって」
「あー」
「ついに姉上は、焼き切れてしまったのです」
「あー……」
なんか、うん。
それは、すごく申し訳ないことをした。
「ごめんね、シャルさん……。大会になんて誘ったせいで……」
「ううん! とんでもない! クウちゃんには感謝しかしていないよ! そもそも無理やり大会に出させてもらったのは私だし! 有名シェフになっちゃおうかなーなんて思ったのも私だし! ……ただ、うん。私の実力がね、これっぽっちも付いて来なかっただけで」
シャルさんが落ち込むと……。
「その通りですな。まさに、身の程知らずだったわけです」
ボンバーがしたり顔でうなずいた。
うんうん。
と、他のボンバーズのメンバーたちも同意する。
「あああああああああああああ! わかってるよおおおおおお!」
シャルさんが発狂した。
「だからね、私、方向性を戻すことにしたの」
と思ったら、ケロリと元に戻った。
「これからは、人に好かれるバーガーではなくて、やっぱり自分の好きなバーガーを作っていこうって。
よく考えたらさ、売上なんてゼロでもいいんだよね。
だって、お金なんて……。
お小遣いちょーだい、って言えばいいよね♪」
そういうとシャルさんは、胸の前に指でハートを作って、
「しゃるーん☆」
と、明るい笑顔で言った。
私は、うん。
どう返事をすればいいのかわからず……。
ボンバーに目を向けた。
ボンバーは、実の姉の幸せな宣言を聞いて、深いため息をついた。
ボンバーが大人に見える、実に貴重な瞬間だった。
まあ、うん。
ボンバーは、いろいろ問題はあっても、ちゃんと自分で働いて、ちゃんと自分で稼いでいる立派な大人なんだよね……。
 




