1007 閑話・青年ラハエルはクラスの女子たちと……。
どうしてこんなことになったのだろう。
僕、ラハエルは放課後――。
エカテリーナ様の家の馬車に乗って、中央広場に近い裏通りにある姉さんのお店に向かっていた。
馬車に同乗するのは、クラスメイトの女子5人。
馬車は大人4人乗り。
僕たちは3人ずつ横に並んで、向かい合って座っている。
僕の席は、なぜか真ん中。
左右には、アヤさんとマイヤさんがいた。
正直、マイヤさんの空色をした長いさらさらの髪が、さっきから腕に触れていて酷くくすぐったい。
制服の上からなのに妙に感じてしまう。
体も触れているし……。
正面にはエカテリーナ様がいる。
目線を置く場所がなくて、僕は、さっきからうつむいている。
本当に……。
どうして僕は、女の子たちに混じって狭い馬車の中にいるのだろう……。
理由はわかっている……。
マイヤさんの、バーガーを食べに行こうという誘いに乗ったからだ。
最初は2人で行くのかと思って動揺してしまったけど……。
マイヤさんはみんなに声をかけた。
僕は、うん。
残念なような、ほっとしたような、そんな気持ちだった。
ただ今日は、いつもなら付いてくるレオ様が、剣の修行をするからと来なかった。
レオ様は本気で冒険者を目指しているようだ。
レオ様が来なければ他の男子も来ない。
でも僕は、すでに、うなずいてしまっていたから……。
断ることもできず……。
1人、一緒に行くことになった。
マイヤさんたちは、テストが上手くいって上機嫌だ。
楽しそうに雑談している。
僕にも話を振ってくれるあたりは、さすがご令嬢といったところだ。
みんな、如才ない。
僕も頑張って愛想笑いを浮かべた。
やがて馬車は、姉さんの店の近くまで来た。
姉さんの店は裏通りだ。
馬車を止めておける場所がないので、大通りの駐車場から歩く。
僕はみんなに続いて、うしろから姉さんの店に行った。
到着して驚いた。
ボンバーハッピーで黄色に染まっていた姉さんのお店が……。
優しいピンク色に変わっていた。
しゃるーん☆はうす、と可愛らしい看板が出ている。
「……ラハ君。お店、すごいことになっているね」
「うん……。そうだね……」
マイヤさんと2人、思わず呆然としてしまった。
「なんか、うちのお店よりも、普通にぬいぐるみとか売っていそう。見事にピンク色になったねえ」
「う、うん……。そうだね……」
「バーガー屋、やめちゃったのかな。ってそれはないか」
「チケットもあるしね……」
ガラスごしに見える店内には、午後の中途半端な時間なのに、それなりの数のお客さんがいた。
いや、お客さんではないのかな……。
店内にいるのは……。
僕の兄さんがリーダーを務める冒険者組織「ボンバーズ」のメンバーだ。
テーブルに伏せた大きな背中は、多分、兄さんだ。
ボンバーズは、バーガー屋の上に事務所を構えているし。
「帰ろっか」
マイヤさんがくるりと背を向けた。
だけど当然ながら、帰らせてはもらえなかった。
「何を言っているのですか、私たちをここまで連れてきて。さあ、マイヤさん。先に入ってください」
エカテリーナ様に呆れた声で言われて、マイヤさんは仕方なく、ガラスドアのノブに手をかけた。
僕たちは店内に入った。
壁と天井が、白色とピンク色に可愛らしく塗り替えられていた。
テーブルもピンクだ。
ほんの一ヶ月前まで黄色だったのに。
調度品も、すべて、可愛らしいものに取り替えられていた。
いったい、今回は、何に影響されたのだろう……。
ハッピーよりはマシだと良いけど。
「いらっしゃーい! 待ってたよー、クウちゃん」
すぐに姉さんが現れた。
姉さんは、フリルのついたピンクのブラウスに、黒いスカート。
胸と髪にはリボン。
可愛くおめかしした派手な姿だった。
どこから見てもバーガー屋の店員には見えない。
いや、うん。
姉さんはオーナー兼店長だけど。
「ジライ系か!」
すぐにマイヤさんが、そんなことを叫んだ。
言葉の意味はわからないけど、言わんとしたいことはわかる。
姉さんは、気にすることなく、
「しゃるーん☆」
指で作ったハートを胸の前に掲げて、片膝を軽く折り曲げて……。
可愛らしくポーズを決めた。
今年一年、お付き合い下さりありがとうございました!




