1003 閑話・セラフィーヌの休日
今日は休日。
二学期の一斉テストと魔術実技がおわって、お勉強から解放された翌日です。
わたくし、セラフィーヌの心も晴れやかです。
今日はクウちゃんの家で、仕事のお手伝いと、テストの報告会です。
テストは、わたくしはバッチリでした。
アンジェちゃんとスオナちゃんも、バッチリだったようです。
クウちゃんは、どうだったのでしょうか。
最強で無敵で可憐で清楚でかわいくて小鳥さんで、優雅で美麗で、世界で一番、宇宙で一番、帝国で一番、大陸で一番。
あと、カメ様と同じで一番のクウちゃんのことですから、大丈夫に決まっているとは思いますけれど……。
わたくし、クウちゃんを疑ったことなんて一度たりともありません。
大丈夫に決まっていますね!
気にするのはやめましょう!
ともかく、わたくしは今、歩いて、1人で――。
いえ、正確にはシルエラと一緒ですが――。
クウちゃんの家に向かっています。
大宮殿からは、いつものように馬車で出たのですが……。
今日は途中で降りました。
なんだか今日は、歩きたい気分だったのです。
「クウちゃんだけに、くう♪
クウちゃんだけに、くう♪
えー?
クウちゃん、食べちゃうんですかー?
クウちゃんだけにー?
く、う♪
クウバーガー♪
姫様ロールー♪
姫様ドッグー♪
くうくうくう~ちゃん♪」
帝都の大通りは、とても賑やかです。
わたくしも、その賑やかさに乗せられて、思わず歌を歌ってしまいます。
もちろんクウちゃんの歌です。
クウちゃんだけに、くう、は、残念ながら……。
最近では、人前では、あまり言わないようにしています。
だけど1人の時なら、好きなだけ言ってもいいですよね。
わたくし、一日中でも、クウちゃんだけに、くう、ならしていられます。
魔力アップの特訓にもなりますしねっ!
たのしくて、ためになって、力になる。
クウちゃんだけに、くう、は、まさに一石三鳥なのです。
完璧な言葉です。
本当に、すごい言葉なのです。
本当は、なので、もっともっとたくさんの人に広めたいのです。
南の島でリザードマンのみなさんと一緒に「クウちゃんだけに、くう」をした時みたいに……。
あれは本当に楽しかったです……。
来年の夏も、また、みんなでやれると嬉しいです。
ユイさんの元で必死に治療をしていた時の「クウちゃんだけに、くう」は本当に勇気をくれました……。
正直、辛かったけど、良い経験でした……。
ユイさんは、今でも尊敬するわたくしの先生です。
歌ったり、そんなことを考えつつ歩いていくと……。
やがて中央広場に到着しました。
帝都でも、一番に賑わっている場所です。
クウちゃんの家『ふわふわ美少女のなんでも工房』は、中央広場からも入れるエメラルドストリートの中にあります。
エメラルドストリートは、貴族も利用する高級街。
警備体制もしっかりしているので、クウちゃんも安心して暮らすことができていると思います。
中央広場では、午前からたくさんのお店がオープンしています。
クウちゃんに関わるお店も、すでに営業中です。
姫様ドッグ店。
姫様ロール店。
ぬいぐるみマート。
その3つのお店には、早くも、たくさんのお客さんがいました。
姫様ドッグ店と姫様ロール店は、初めて見た時にはただの屋台だったのに、今では素敵なカフェです。
クウちゃんの話では、他の町に支店もあるとか。
本当にクウちゃんはすごいです。
関わる人みんなを、幸せにしてあげています。
わたくしもその1人ですね。
クウちゃんだに、くう。
本当に、クウちゃんだけに、くう、なのです。
と……。
わたくしが、そんな風に、静かにお店を見ている時でした。
「あああああああああ!」
脇で悲鳴をあげて、若い男の人が盛大に転びました。
わたくしはそちらに目を向けました。
見れば、男の人が倒れるのに合わせて、両手で抱えていたらしき大きな花束が宙にくるくると舞って……。
あ。
地面に落ちて、散らばってしまいました。
「ちょっと! もう! いい加減にしなさいよね! 3回目よ! なんで普通に転ぶのよアンタは!」
それに気づいた女の子が、腰に手を当てて怒りの声をあげます。
「はは。まさに、2度あることは3度あるだね」
転んだ男の人はお気楽な様子です。
「笑って言うことかー! 冬のお花は貴重なのよ! 大損害でしょ!」
「安心してくれ、オルデ。ほら、こうやって拾えば元通りさ」
「元通りなわけがあるかー! 折れちゃってるでしょ! 花びらに汚れがついちゃってるでしょ!」
「洗えば平気さ。折れた花は、ほら、短くすればいいし」
「はぁ……。もう。だから私が持つって言ったのに」
「何を言っているんだい。荷運びは男の役割と決まっているだろう」
「決まってないわよ、別に」
「しかしそれでは、僕の仕事がなくなってしまうよ」
「そうね」
「それでは君を養うことができないだろう?」
「ねえ、あのさ」
「うん。なんだい、愛しいオルデ」
「ほんとーに、養ってくれるのなら、実家に帰りなさい?」
「ああ、そうだね。洗う必要もあるし、いったん、お店に戻ろうか」
「だからー、そういう意味じゃなくてね!?」
「はははっ! オルデは本当に、いつでも元気で素敵だね。僕も見習って、元気にまだまだ頑張るよ」
2人は手早く、落ちてしまった花を拾うと――。
来た方向に戻っていきました。
「ねえ、シルエラ」
「はい。なんでしょうか、姫様」
「……ああいうのも、仲が良いとは言うのですよね」
「はい。そうですね」
オルデさんという方は、いかにも頼りない男の人に振り回されて、かなり苦労していそうでしたけど……。
あれはあれで、わたくしの目にも、楽しそうには見えました。
「あとシルエラ、彼女とわたくしとの間に面識はありますか? どこかで見たことのあるような気もするのですが……」
「彼女は、秋に開かれたエカテリーナ様のガーデン・パーティーに参加していた一般客です。同じ会場にはいましたが、姫様への挨拶はしておりません。故に、記憶はあっても面識はないかと」
「そうでしたか。ありがとうございます」
わたくしは気にせず、クウちゃんの家へと向かうことにしました。
クウちゃんの歌、けっこうお気に入りです\(^o^)/




