1002 クウちゃんさまの休日
テストがおわって、ユイのところに行って。
その次の日。
今日は普通の休日だ。
朝。
冷たい冬の空気の中、私は空の上に浮かんでふわふわした。
普通ならのんびりできる気温ではないけど、強化魔法をかければ寒さについては大いに緩和できる。
なので私は、ふわふわできてしまうのだ。
そう。
ふわふわするのは、アシス様が定めた精霊の大切な仕事。
なので私は、ふわふわするのだ。
あとは……。
うん。
ナリユ卿がいないかなー、ということもあった。
見つからなかったけど。
魔力感知か敵感知にかかってくれないと、やっぱり捜索は厳しい。
しばらくふわふわして、私は家に戻った。
お店の前に着地する。
すると通りから、エミリーちゃんが軽い足取りで走ってきた。
「おはよ、エミリーちゃん。今日も元気だね」
「おはよー、クウちゃん! 私は元気だよー! クウちゃんも元気?」
「うん。もちろん」
「よかったー」
「お互い、よかったねー」
笑いながら2人でお店に入った。
ちなみにヒオリさんは、すでに学院に出ている。
今日は休日だけど、テストの後だからね。
学院長のヒオリさんには、たくさんの仕事があるようだ。
フラウも今日は朝から出かけた。
陛下の相談役としての仕事だ。
大宮殿の魔術的な防衛システムの刷新を手伝うらしい。
すごいね。
なので今日は、私とエミリーちゃんで、まずは店番。
ファーもいるか。
昼には、セラたちが来ることになっている。
というわけで。
今日も元気に営業開始ー!
わー!
今日は休日とあって、オープンすると、すぐにお客さんが来た。
「クウ、いたか」
最初のお客は、なぜかお兄さまだった。
「いらっしゃいませー」
「そういうのはいらん」
「と、言われても、営業中なので」
「なあ、クウ」
お兄さまが、にっこりと笑顔で言った。
私はすぐに理解した。
お兄さまとも、すでに一年以上の付き合いだしね。
これは確実に面倒な用件だ。
「もー。なんですかー?」
「おまえは冬休みに、モルドに行くそうだな?」
「はい」
そうですね。
「昨日、アリーシャから聞いた」
「はい」
お姉さまも行きますしね。
というか、陛下の許可は取れたのかな。
「ブレンダもメイヴィスも行くそうだな」
「はい」
ブレンダさんは地元だし、メイヴィスさんは嫁ぎ先だし。
当然ながら、だね。
「あと、ウェイスも行くという話を聞いたが」
「はい」
ウェイスさんも地元だしね。
帰省するわけだから、自然なナリユキだ。
「なあ、クウ」
「はい。なんですか?」
「おまえは俺に、言いたいことがある。そうだろう?」
「お店の前に強そうな人たちがいて怖いです。早く退けてください」
お店の前には、お兄さまの護衛たちが立っている。
私服姿の白騎士さんだ。
店内からちらりと見えているだけでも、なんか威圧感がすごい。
「はははっ! おまえが鍛えた者たちだ。向こうがおまえを怖れても、おまえが向こうを怖れるわけがなかろう」
「お客さんがです」
「気にするな。朝から混み合う店ではあるまい」
「今日は休日ですよー。朝からお客さんが来るんですよー」
「……まあ、いい。なあ、クウ」
お兄さまが、コホンと息をついた。
話を変えるみたいだ。
「はい。なんですか」
「俺もモルドに行きたいのだ。頼む」
お兄さまが、恥ずかしげもなく頭を下げてくる。
「私はいいですよ。陛下の許可さえあれば」
「そうか。感謝するぞ。では、そういうことで、よろしく頼む。父上からは気合で許可をもらうとしよう。はははっ!」
お兄さまは意気揚々とお店を出て行った。
お兄さまの姿が消えてから、脇で緊張していたエミリーちゃんが、ほっとしたように肩の力を落とした。
「……朝一番からお疲れ様でした、店長」
「あはは。だねー」
ユイのようにならなくてよかったよ。
ユイの時は酷かったからね……。
なにしろユイと来たら……。
私に無理やりに誘わせて、私に誘われたから仕方なく、断れず、という名目で公務を放り出して、遊びに出ようとしたのだ。
実行された話ではない。
あくまで、そうさせたかったというだけの、話ではあるけど。
夏のおわり、ナオの新生宣言でのことだ。
その時のユイの醜態を思い出していたから……。
私は、ちょっと身構えていたのだ。
同じことをさせようとしてきたら、氷よりも冷たく断ってやろうと。
そうならなくてよかった。
お兄さまは、ちゃんと自分の責任で動けて立派だね!
偉い偉い!
よかったよかった!
お兄さまが去った後は、普通にお客さんが来た。
今日も売上は好調だ。
からんからん。
お。
ドアの鐘がなって、またお客さんが来てくれましたよっ!
「いらっしゃいませー」
笑顔でお出迎えです。




