100 クウとセラのSSRガチャコント(アンジェリカ視点)
「4番! クウとセラ! いきます!」
クウが高らかに宣言して、セラが静かにお辞儀をする。
さあ、いよいよだ。
続いて、セラが真顔で言う。
「スーパースペシャルレアコント。はじまるよ」
「略してSSR!」
クウが元気に腕を振り上げるけど、略す意味はあるのかしら。
その後、クウが、
「確率0.03%が今ここにっ! 虹色! フィーバー!」
とノリノリで踊ったので、そういうことなのね。
つまりは、感じろ、と。
「ショートコント、水鳥」
セラが真顔で言う。
セラの表情が最初からピクリとも動いていないのが、もう笑える。
「さて、我が弟子セラよ。いよいよ卒業の時が来たのじゃ」
ヒゲを手でこするようなジェスチャーをしつつ、クウが2本の木剣を取り出す。
「はい、先生」
1本をセラが受け取る。
2人が剣を構えた。
水鳥とは無関係な展開に私は戸惑ったけど、考えてみればエミリーたちのコントもそんな感じだったわよね。
うん、気にしないで成り行きだけ見守ろう。
「行くのじゃ」
「はい、先生」
え。
待って待って!
始まったのは、ガチの打ち合いだった。
自由には動けない室内で、突きを主体にセラが攻撃を繰り出す。
それをクウが華麗に受け流していく。
クウは、やっぱりすごい。
でも、セラもすごい。
休む暇なく連続して繰り出される突きは、速くて鋭い。
どう見ても、素人の女の子の剣ではなかった。
と、セラの切っ先が、いきなり横向きに変わった。
首を切り落とすように、薙ぐ。
それをクウは軽快な体のひねりでかわした。
同時にセラの肩を突く。
セラがわずかにバランスを崩す。
そこにクウの、とどめといわんばかりの袈裟斬りが襲いかかる。
だけどセラはそれを弾いた。
クウの剣が宙に飛んだ。反動で両腕が天に伸びる。
そして胴がガラ空きになった。
チャンスだっ!
私は理解した。
そう、水鳥。
セラは皇女として優雅な日々を過ごしつつも、決して修行を怠らなかった。
それが、その答え。
水面下で頑張り続けた、努力の結実!
クウは間違いなく天才だ。
どれだけぽけーっとしていても、なんでもできちゃうすごい子だ。
でも、手を伸ばして、掴むことは――できるっ!
行けっ!
セラ!
届けっ!
努力の剣!
その時。
その瞬間。
2人は同時に片足を上げた。
そして、真顔で言うのだ。
「「フラミンゴ」」
と――。
私の中で。
時間が止まった。
「……そ、そうね」
それ以外に、何を言えばいいのだろう。
うん。
これ、コントだったわよね。
「……ねえ、クウちゃん、セラちゃん」
エミリーが静かに口を開く。
「フラミンゴって、なぁに?」
あ。
クウとセラの時間も止まった。
「……え、えっとね、フラミンゴっていうのは渡り鳥で。長い脚が特徴の鳥でね、」
クウが必死に説明するのが、
……見苦しい。
「立つ鳥跡を濁さず。ですよ、店長」
ヒオリさんが優しく言う。
「ボクもわからなかった。説明されたところで今更だよねー」
「は、はい……」
クウがずーんと沈んだ。
足元に底なし沼が見えるようだ。
「私はよかったと思うわよ。思わず興奮もしちゃったし」
私は拍手した。
かくしてSSRコントは、沈没したわけなのだけど。
「ショートコント、ガチャ」
次の瞬間には復活し、セラが真顔で言った。
ガチャってなんだろ……。
いきなりわからないタイトルに私は戸惑った。
さっきのことも考えて、先に聞いたほうがいいのかな……。
とも思ったけど、エミリーちゃんも黙って見ているので、ここはクウとセラを信じて笑わせてもらおう。
セラが真顔で言う。
「私は創造神です。残念ですが貴女は死んでしまいました。でも、ご安心下さい。貴女には転生の機会が与えられます。まずは、このサイコロを振って下さい」
「待った待った待ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は思わず叫んだ。
だって!
だってよ!
「創造神ってアシスシェーラ様のことよね!? ダメだってコントに出しちゃ! そんな罰当たりなことっ!」
これでも私、神官の孫娘だからね!?
精霊様とアシス様には、毎日、祈りを捧げているんだからね!?
「平気だと思うけど……。アシス様、楽しいこと好きだし……」
クウが戸惑って言う。
「そんなバカなっ!」
「だって、実際、そうだったよ?」
「そうなの……?」
「うん」
「で、でもっ! アシス様と精霊様は信仰の対象でっ!」
「私、精霊だけど、お笑い属性だよ?」
「ボクは大精霊さー!」
「あ、うん。そうだったわね……。ごめん……」
そういえばそうだった。
「アシス様が怒って出てきたら私が謝るよ。一応、アシス様とは友達だし、話は通じると思うから安心して」
「う、うん。その時にはお願い……。
セラもごめんね。コントの腰を折っちゃって」
「あ、いえ。その……。気持ちはわかります」
「よし、問題なしだね! やろう、セラっ!」
「は、はい」
そんなわけでコント再開。
なんか私、間違ってた。
うん。
そうよね。
普通なら私、正しかったと思うけど。
クウって精霊で、しかもアシス様の友達なのね……。
セラが改めて真顔で言う。
「私は創造神です。残念ですが貴女は死んでしまいました。でも、ご安心下さい。貴女には転生の機会が与えられます。まずは、このサイコロを振って下さい」
「……振ると、どうなるんですか?」
クウがおそるおそるたずねる。
「出目によって貴女の生まれが決まります。1ならスライム、2ならゴブリン、3ならオーク、4ならスケルトン、5ならクモ、6ならドラゴンです」
「モンスター限定!?」
クウが驚いたところで、一拍の間。
そして。
2人は横に並んだ。
そして。
「「私はやっぱりフラミンゴ!」」
片足を上げたフラミンゴのポーズを取って、そう言った。
うん。
はい。
「クウちゃん、おもしろかった!
クウちゃん、かわいい!
セラちゃんもおもしろかった!
かわいかったー!」
エミリーの元気いっぱいな歓声が部屋に響いた。




