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1. Side ディアナ

 薔薇が咲き乱れる王城の庭園での恒例のお茶会。

 この場には、私、ヘンリット公爵の娘であるディアナと目の前に座る男、ライオネル・オールディントンの2人だけである。


 侍女はテーブルに軽食やお菓子を並べ、紅茶を注ぎ終えるとすぐにその場を離れた。初めてのお茶会の時から人払いされており、侍女も慣れたものだ。


 私は目の前の男に視線すら向けず、紅茶やお菓子をじっくりと味わう。ひと息ついたところで一瞥すると、彼は眉間にシワを寄せ、嫌悪感を露にした状態で、ただただ座っている。今にも舌打ちでもしそうな雰囲気だ。



 一言も言葉を交わさず、誰がどう見ても険悪な仲である私と、この国の第一王子であるライオネル殿下は、()()()である。見ての通り、お互いが望んで結ばれたものではなく政略だ。


 2人の並ぶ姿は美男美女で、まるで絵画のようだと憧れている人々もいるらしいが、公の場では、2人とも着ぐるみレベルの分厚い猫を被っているといっても過言ではない。


 私は初対面で婚約者として紹介された時から、なぜかライオネル殿下に嫌われていた。


 あれも王城の庭園での出来事だった。

 顔合わせの場が設けられたのは、お互い5歳の時。カーテシーをして挨拶しようとした私の動きよりも先に殿下の口が開いた。


「はっ。お前が婚約者か。僕の足を引っ張るようなことはするなよ」


 冷たい眼を向けた殿下の第一声がこれだ。自己紹介も何もなく。王族だからこそ礼儀は重んじるべきなのに、横柄な発言をされイラっとした。その発言を聞かなかったこととして笑顔を携え、綺麗なカーテシーを披露してやった。


「初めまして。ライオネル・オールディントン殿下。ディアナ・ヘンリットと申します。以後お見知り置きを。これから宜しくお願い申し上げますわね、婚約者様。ご挨拶は致しましたので、これにて御前を失礼しますわ」


 挨拶は終わったとばかりに、ライオネル殿下をその場に放置して、お父様の元に向かった。それ以降、婚約者として一緒に過ごす時間も設けられたが、お互い歩み寄ることは全くなかった。10年以上経つが、縮まるどころか開いていっている。ライオネル殿下がなぜ初対面から私のことを嫌っていたのか理由すら知らないが、仲良くする気もないので、どうでも良い。


 10歳頃からは王妃教育も始まり、私は勉強なども一切手を抜かずに取り組んだ。その結果、王妃様にも素晴らしいと褒められて仲良くなり、実の娘のように可愛がられている。


 物事には全力で取り組んではいたが、ライオネル殿下と結婚して将来的に王妃になるつもりはなかったし、()()()()()()()()()()()()()



 私は3歳の頃、別の世界での記憶を思い出した。それが、ディアナ()の前世であったことを瞬時に理解した。前世の最期に事故にあったことは覚えている。



 この世界は前世でプレイしていた乙女ゲーム『君に恋して』の世界と類似していると気づいた。ゲームに登場したキャラクター達が身の回りに存在した。ゲーム通りの出来事も起こり、類似世界ではなく、まさにゲームの世界かもしれないと思った。


『君に恋して』は、不幸な人生を歩んできた子爵令嬢が通うこととなった学園で高位貴族と恋に落ち、恋愛していくゲームだ。攻略対象は数人。私はもちろんキャラデザが気に入り、声優目当てでゲームをプレイした。ストーリーで萌え要素が所々にあったためハマって、気に入っていた作品である。


 ゲームに登場し、子爵令嬢(主人公)高位貴族令息(攻略対象)の恋のスパイスとなる邪魔者の悪役令嬢、その名もディアナ・ヘンリットは典型的な貴族令嬢であった。傲慢・我儘・高飛車といった性格で、高位貴族と親密になっていく主人公を許せず、犯罪すれすれの嫌がらせや虐めを行う。それが徐々に悪化していき、ゲームのエンディングでは、主人公が誰と結ばれたかによって変わるが、処刑や国外追放、修道院行きや事故死など悲惨な結末が待っている役所(やくどころ)である。



 そんな悪役令嬢、ディアナ・ヘンリットに私は転生していた。そして私は、絶対にゲーム通りの展開にはさせないように動く事を決意した。


『君に恋して』の制作会社は、アドベンチャーやアクション系のジャンルにも強く、剣と魔法のRPGも手掛けている。制作会社の微妙なこだわりによって、実はアクションRPG『Tales of Holy Knight』の世界の中に『君に恋して』の舞台となった国も存在していた。


 つまり、『君に恋して』では出てこなかったが、この世界には魔法が存在している。それに気づいた私は、ヘンリット公爵家の図書室の書物や王立図書館に通い詰め、魔法に関する書物を片っ端から読み漁り、魔法に関しての知識を得た。この世界の魔法発動にはイメージも重要となり、前世の記憶が大変役に立った。


 ひたすら魔法に関する知識を本から蓄え、誰にもバレないように魔法の訓練を繰り返し、魔力量の底上げをはかった結果、莫大な魔力を保持し、四大元素の魔法はもちろん、無属性の魔法を使えるようになったので、これがチートなのかも! これだけ魔法が使えるなら未来を変えられるはずだと神に感謝した。




 15歳になり、貴族達が通う学園に入学してからは、ひたすら光属性と闇属性の魔法の習得に勤しんだ。3年間ある学生生活の中、16歳~18歳の2年が『君に恋して』の舞台となっている。



 諸事情により、1年遅れでヒロインが2年生に転入するところからゲームが始まる。最初の1年は出逢い~友情を育むフェーズで、そこから徐々に恋愛フェーズに移行していく。仲が良くなればなるほど、虐めや嫌がらせが悪化していき、それらが障害物となって、彼らの恋心を燃え上がらせる要素となり、仲が深まっていく。吊り橋効果のようなものだと思う。



 ちなみに、ヒロインと婚約者であるライオネル殿下がくっつこうが、私にとってはどうでも良いが、私がゲーム通りの行動をしないがために、ヒロインがライオネルルートのハッピーエンドに行けず、私がライオネル殿下と結婚することになる結末は避けたかった。あんなやつと結婚しても幸せになんてなれないことは、現状から見ても明らかだ。



 さらに、ヒロインが入学してきた時に気づいたが、ヒロインは『魅了』を使っている。無意識なのか意図的なのかは不明だが、魅了が使えるとなると、嫌がらせも邪魔もしなくても、冤罪で貶められる可能性も出てくる。巻き込まれるなんてごめんだ。



 そこで、私はある計画を立てた。この国では魔法は使われていない。魔法自体もあまり詳しくないだろう。そんな中、鍛えた事により膨大な魔力を持ち、様々な魔法を極めたのだ。魔法を使うこの計画は、私だからこそ実行可能となり、失敗も皆無だろうと予測した。


 イベントがゲーム通りに進行しているのを確かめながら、計画の準備を進め、全ての用意が完了したのは、ヒロインと攻略対象であるライオネル殿下の仲が、友情から恋愛にフェーズが移ったタイミングであった。


 難なく実行に移し、もちろん計画は成功に終わった。そして、私は自由を手に入れた。

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