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君にアイリスの花を  作者: kit
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第四章 昔から 前編

活動報告にもあるように、大変長らくお待たせいたしました。今回は、大分久しぶりだし、元々考えていた書きたい内容が一つに納まりそうもないので、前編つくっちゃいました。それではさっそくお楽しみください。

「なんか最近、田郷さんおかしくないか?」


 と皆に聞こえないように柴村に耳元で囁く


「ひゃん!!?」


 その一声で授業中だったクラスは静かになった。柴村、どうした?と担当教師に聞かれると、なんでもないです。と即座に答えた。神原は俺のことだと勘付いたのか、柴村の周りを見渡していた。


「竹田君の声はどうせ皆には聞こえないんだから、急に囁かなくても良いの」


 とちょっと怒った様子で静かに言った。それで?なんて言ってたの?ごめん、もう一回言って?私は今からノートで筆談にするから。


「いや、だから田郷さんが最近、変て話。最近よく、早川さんと口喧嘩してるし、今朝だって、」


 そぉ?いつも通りに見えるけど。柴村はそう書いて授業の板書に戻った。ちなみに、この時間は数学で、ダルそうな山本が担当の授業だ。今は指数関数の授業をしていて、ノートには、y=3^xという式を使って、柴村はグラフを書いて正解していた。山本先生はいつも説明を軽くするだけして、すぐ問題演習に入る。分かるやつは分かるが、分からない人はどんどん置いて行かれる。そんなスタイル。そういう授業は嫌いじゃないが、もうちょっと生徒の立場になっても良いと思う。山本先生は生徒から慕われてはいるが、授業に関してアンケートでは最下位になっている。


「俺、田郷さんのこと調べようと思う」


 うーん、他人のプライベートを勝手に覗くのはどうかと思うよ。特に女の子の。そう言って柴村はジト目でこっちを見てきた。他にも何か言いたげだったが、はぁとため息をついて、ノートに戻った。俺は懲りずに話しかける。


「大丈夫、柴村には迷惑かけへんから」


 いや、竹田君が調査すんのに私も移動しやんなあかんやろ。そこで俺は重要なことに初めて気づいた。柴村から離れられないなら、俺が一人どっか行くのも柴村と一緒じゃないと動けへんてことやん。ノートには、今更気づいたんかと書いてあった。すると柴村が小言で、しゃーないなぁ。またため息をついてから、私もするから、もう授業の邪魔しやんといてとノートに書いた。

チャイムが鳴ってすぐに、目を輝かせた神原が話しかけてきた。朱花音さっき竹田君と喋ってたんやろ?何喋ってたん?授業中もこちらの様子を見てたらしい。


「田郷さんの様子がおかしいから調べたいんだって」

「なるほど。それなら、私も気になってたんだよね。だって朝から雨も降ってないのにびしょ濡れだったじゃん?それに、なんか早川さんとの喧嘩も多いみたいだし。うん、そういうことなら私も協力するよ。」

「ありがとう神原!」


 俺は嬉しくてついガッツポーズをしたが、神原には見えていないし聞こえない。代わりに柴村が呆れた顔でため息をついていた。


「それにしても渚、竹田君のことになるとすごいテンション上がってるよね」

「え!?ち、ちがっ。違うよ?」


 今にも沸騰しそうな顔を手で隠している。それを見て柴村はわかりやすっと言っていたが、俺は何のことか分からなかった。その会話も束の間。休み時間は10分しかないため、すぐにチャイムが鳴った。神原は慌てて席に戻って次の授業の教科書を急いで探していた。

 その日の田郷さんのテンションと言ったらもう何も言えない。俺たち3人は放課後部活を休んで、田郷さんを尾行することにした。帰りの天気は最悪の雨で、傘を差しながらとぼとぼ歩いて帰る田郷さんをよそに、早川が率いる女子グループはけらけら笑いながら、朝の話をしていた。


「やっと、やってやったわ。あいつ、いつも大内君のこと注意して。私たちが好きで近づいてるのわかんないかな」「やんなー」「うちもそう思うー」


 あからさまに大声で田郷さんの話をしていた。柴村はこれで犯人確定ねとつぶやいていた。その日俺たちは早川たちの話に反応せずに黙って尾行をやめて帰った。帰ってからスマホのSNSを使って神原と、次の日早川の尾行をしようと決めた。

 翌日、柴村が朝食を並べていた。今日は前日の夜ご飯であったカレーの残りだ。朝に食べれるように、あえて量を多くしたという。しかし、朝からカレーとは。男の俺なら喜んで食えるが、女性は朝から重いものを食べるのを嫌がる人が多いイメージがある。まぁ、柴村は体育会系だし、関係ないか。それに食費も抑えないといけないもんな。とか考えていると、一瞬視線を感じたが気にしない。柴村が食べ終わって準備を始めた。おっと着替えの時は部屋の外に。

学校に着くと教室は騒々しかった。慌てて入るとまた早川と田郷が喧嘩している。周囲の人たちは、田郷さんいじめられてんの?かわいそう。まじやばくね?とどこか他人行儀で遠くから眺めているだけだ。すると田郷さんの机に落書きが施してあった。これは流石に周りに見られてる。それに、これはつい最近起こったことと同じで2回目だ。


「早川さん、今日こそはあなたなんじゃないんですか?」


 と田郷は必死に問い詰めていた。クラス委員長としてのプライドも人としての心もズタズタにされた彼女に早川は


「今日こそって何?何の証拠があって言ってんの?ねぇ、教えてよ。」


 とニタニタ笑いながら逆に聞き返していた。と、そこに大原がやってきて


「うるせぇ、お前がやったんだろ!ちゃんとこの目で見てたかんな!」


 と胸ぐらをつかみながら怒声を発すると、早川たちは興が覚めたようにそれぞれ散っていった。ここに大内が登校してきた。すると途端に早川が大内に泣きついていった。


「助けてぇ、私ら大原さんにいじめられてるの~」


 大内は一度早川をなだめて、大原に近寄ってきた


「で、何をしたのかな?大原さん?」

「私はあいつらをいじめてねぇよ!あいつらが田郷の机に落書きしやがったんだ!」

「え?・・・」


大内は田郷さんの机を見て、田郷さんを見た。机には隙もないほど黒のマジックで埋め尽くされていて。田郷はその横で泣き崩れている。大内は静かに笑って


「本当に君たちがやったのかい?」


 と早川達に問いかけた。早川達はその笑顔が怖かったのかビックリしながら否定した。


「私たちの言葉より、ヤンキーのあいつの言葉を信じるの?」

「なっ!?こいつ!」


 大原は今にも飛びかかりそうだ。だが、大内の顔を見た大原が勢いを止めた。


「いや、ヤンキーとか関係ないよね?それに大原さんは確かにヤンキーっぽいけど、理由も無しに人って怒らないよ。あとこれ2回目、だよね?」


 大内は早川をジッと見つめてそう言った。大内に言われて早川達はくっと歯ぎしりをしながら、そそくさと去っていった。その間に誰かが先生に言ったらしく、早川達は生徒指導室に呼び出されていた。


「田郷さん大丈夫?大原さんもありがとう」

「う、うん・・・大内君ありがとう」

「ふん!当たり前のことをしただけだ」


 この日、早川達は下校まで指導室で反省文を書かされていたらしい。学校側は、このいじめを公表しないことにした。なんでも、田郷さんのメンツを壊さないようにしたいのが理由らしいが、誰かがいや、お前らのメンツを守りたいだけだろう!と抗議してる人もいた。俺らは早川達を尾行する予定だったが、朝の一件でもう解決したと判断して調査をやめた。もうこれで田郷さんは大丈夫だろう。クラス内で大原に話しかけに行く人が現れだしたというのは、また別の話だ。


「サイド空いてる!カバー急いで!」「スクリーン注意!」「ゴール下!」「リスタート!」


 離れられない俺は毎日、当然ながら強制的に見学させられている。さっきから聞こえる声の主は柴村。毎日声を張って仲間に支持を出している。本人曰く、そういうポジションだから仕方ないそうだ。しばらくの間見学していて、バスケットボールのポジションが5つあることを知った。まず、柴村がやっている司令塔とボールを奪うスティールのPGポイントガード、そして神原がやっている3ポイントシューターSGシューティングガード、ゴールからこぼれたボールを取る、リバウンドの仕事をするCセンター、そして線の中で点を取っていくSFショートフォワードPFパワーフォワードがあるらしい。

 PFは男子だとダンクが多いらしいが、女子は少ないため基本的にSFと同じようだ。また、男子とは違いワンハンドシュートではなくボスハンドシュートのスタイルが多い。とまあ、色々柴村から聞いた話だが、俺は少し知ったかになっていたりもする。神原も普段はおとなしいが、部活になるとすごい動きを見せたりもする。例えば、急に後ろに下がってシュートとか。練習を見ていると、たまに汗ばむ姿にドキッとしたり。そんなこんなで今日も部活が終わったみたいだ。


 翌日、早川達は黙っていた。昨日の件で周りの女子やクラス、そして大内にも嫌われた。別に周りに嫌われても大丈夫そうだが、一番の理由はやはり大内だろう。彼女らは何もすることもないのか、珍しく黙々と勉強していた。

 先生は更生したと喜んでいたが、クラスのみんなは違和感を感じるしかなかった。反省文は2日続けて書かされるそうだ。最初の日以外は、宿題として自宅で書くのも許されているそうなので、授業には今日から参加できる。それでいいのかと嘆いている人もいたが、学校の規則なので簡単には変えられない。誰かと喋ったりすることもなく、仲間内でさえも喋らない。田郷はようやく安堵した表情をしていた。大内や大原は、彼女らの行動を警戒してはいるが、誰に迷惑をかけるわけでもないので放っていた。


「これで解決かな。俺ら何もしてへんけど。」


 そうだね、私たちはただ外から見てただけだったもんね。ただの傍観者でそれ以下でもそれ以上でもなく、何もできなかった。加害者と同じだよ。そうノートに書いた柴村は落ち込んだ様子で授業を受けていた。それにしても大内君すごかったな。あの時、暴れだしそうな大原さんでも立ち止まるなんて。どんだけ恐ろしい顔をしてたんだ?そう思って大内君を観察する。どうやら、今日は大内に近づく女子はいない。おとといの王子かっこよかったー!なんて声も多々出てきているが、遠くから眺めることに変更したのだろうか。当の大内君はいつも通りの様子だったが、たまにチラチラとどこかを見ていた。その先を見ると田郷がいた。通常運手でも田郷さんの様子を気にしているようだ。その後、何事もなく放課後部活に参加して帰った。

 今日の朝ご飯は鯖のみそ煮缶とご飯だった。今日の服は青色の服でOcean Wildと書かれていた。寝癖がなかなか直らなかったらしく、たまに触っては確認して、また跳ねている所を見て笑っていたら、怒られた。

 登校して下駄箱には田郷がいた。田郷と挨拶を済ませてから、俺たちは教室に行った。田郷はなにやらそわそわしながら教室に入ってきた。そして、机に座るとすぐに手洗いに逃げるように去っていった。


 下駄箱に入っていた手紙を受け取った私は、初めはラブレターかと思って少し高揚したが、すぐに違うとわかった。「放課後、校舎裏に来い」とだけ乱暴に書かれたものであった。そして同時にまだ終わっていないのだと悟った。私は正しいことをしてきたのに。私は。この前からずっと落ち込んで泣いて。何してるんだろう。学校に来て、勉強して、良い会社に就職するために頑張ってる。父の仕事と同じ仕事に就きたい。したい。こんなところで挫けてたら仕事なんてもっと耐えられない。絶対文句言ってやる。さっきまでは落ち込んでいたのに、また怒りがあげ込み上げてきた。

 読者の皆様、この作品を読んでいただき誠にありがとうございました。前書きにもあるように、前編ということは後編も、もちろん既に考えていますのでご安心ください。

ではまた、次回まで楽しみにしていただけたら幸いです。

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