第三章 すれ違い
第三章できました!
色々と考えてて結局時間なくて、、前回からの期間がとても長くなってしまいました。
待ってくださっている方々には、本当に申し訳ない気持ちです。(そもそもいるかわからない)
なお、言い訳はいいわけがないので、今後は控えさせていただきます(どの口が言ってんねん)。
では第三章どうぞ!
柴村の家に帰ってからというもの、柴村とは一度も話していなかった。というのも、俺が柴村の慣れた家事さばきに圧倒されていたのもあるが、まともな会話が思いつかなかった。もちろん聞きたいことは色々あるけれど、柴村の素っ気ない態度から俺は柴村に嫌われてんのか?と思いながらも今は寝るしかなかった。
「・・・-田―!・・・―君!」
なんだ・・・?誰かが叫んでいる・・・。深い眠りの中で、暗闇の中で聞こえる。まるで、誰かを呼んでいるようだ。必死に。何か懐かしい気もする。だけど、途切れ途切れにしか聞こえない。誰だ?一体誰なんだ?夢の中だけど、自分の体は動かせない。
「・・・や―――!」
声から言って、性別は女性だと思う。だけどもうこれ以上、叫び声は聞こえなくなった。と思ったら、いきなり光が目の前から押し寄せてきて・・・。
「おはよう、竹田君。」
と、はっきりとした声が聞こえてきた。気が付くと俺は目を覚ましていたらしい。柴村が朝食を作りながら、こちらに視線を向けている。柴村は赤色の半袖ティーシャツに白字でAggressive Girl (積極的な女の子)という服を着ていた。さらにジャージの半ズボン、白色のエプロンをつけていた。柴村の部屋着は、一般的に言う女の子という服装ではなく、スポーツ系の服という印象だ。と、次第にいい匂いがしてきた。これは、味噌汁の匂いだ。
「ごはんできたよー」
と、さも誰かに言うように言う柴村。けど、俺以外にここに人はいない。俺は訳も分からず、自分に指差して、無言で俺?と聞くと柴村はうんと頷いた。
「俺は食えねぇよ」
とツッコんだら柴村は、あ、そっかと今気づいたかのような反応をわざとしていた。ちゃぶ台の上には1人分のご飯と味噌汁が並べてあった。ちなみにいうと、この味噌は白みそだ。柴村は自分から、インスタントの味噌汁に具を入れただけやけどと言っていた。
「いや、なんか人がいたら無性に言いたくなって言ってもうてたわ笑。今まで一人で作って一人で食べてたから・・・。」
そう言われると、柴村の環境に少し同情する。昨日帰ってからは父親の姿は見ていない。それから、ちゃぶ台で俺はあの夢のことを柴村に話した。
「なんやそれ!こっわ笑。いや、ほんまは目の前に竹田君がいる時点で怖いんか。」
柴村は少し驚いていたが、俺がいることですぐに受け入れたようだ。
「その夢って・・・もしかしてやけど、竹田君が死んだことと何か関係あるんじゃない?」
「確かに、関係あるかも」
「よし。それじゃあ、とりあえず私は学校の行く準備するわ。着替えるから出といて。」
と言って柴村は服を脱ぎだした。そのままでいると、早く出てって!とどやされた。
それから俺と柴村は登校し、下駄箱で神原と合流して教室へ向かった。すると、教室から女子のキャーキャー聞こえる。教室に入ってみると、窓際の前半分が円型で女子に覆いつくされている。柴村が言うにはいつものことらしい。この女子たちはこのクラスだけではなく、他クラスからも来ているそうだ。その円の中心にいるのは、伊達メガネ王子だった。
「やぁ、皆、お・は・よ・う。」
と吐息のような挨拶だけ言って、王子は周りの女子をキャーキャーとざわつかせる。なんだか異常な光景だ。これが通常通りなら、王子にメロメロじゃない女子たちは、頻繁に起こっている出来事を何度も見ていて、呆れているんだろう。普段はおとなしいはずの王子が、今日はメガネを外してコンタクトにしているようだった。ひそかに伊達メガネ王子のファンクラブもあるらしい。
「何をまた騒いでいるの?」
女子たちの囲いに田郷さんが割って入った。
「大内君。何度言ったら分かるの。顔が良いのは悪い事じゃないけど、君が眼鏡を外せば他クラスからも女子たちが集まってきて皆の迷惑になるの。正直言って教室を占領して邪魔なの。」
田郷さんは相当怒っているようだった。確かに教室を占領するのは、邪魔だと言われてもおかしくない。クラス委員として許せないのだろう。しかし、王子を囲っていた女子たちが、田郷の邪魔という言葉に反応して文句を言ってきた。
「まだホームルーム前で、自由なんやからちょっとくらい会いに来てもええやんけ。」「そうそう、自分何様のつもり?」「クラス委員やからって、そんな権限あるん?」
などなど、ひどい言われようだ。すると・・・
「皆、ちょっと黙って。」
この王子の少し低いトーンの声で、田郷さんに対する批判は静まり返った。すると次は声を戻して、満面の笑みで今日中はずっとコンタクトやから、後で教室じゃなくて誰もいないところで話そう。やから、今はそれぞれ教室に戻ってねと周りの女子たちに言った。すると再び女子たちの黄色い声が戻って、それぞれ教室に帰っていった。
「田郷さんごめんね、気を付けてたんやけど。家に眼鏡見当たらなくて。仕方なくコンタクトにしてきたんやけど。ダメやったかな?」
「そういうことなら先に言って。また私悪口言われたわ。ところで、誰もいないところって、大内君。まさかとは思うけど変なことだけはしないでね。」
「分かってる。あの女子たちには何もせーへん。僕がしたいのは君だけ。」
と王子が言うと、田郷さんはフン!と言って自分の席に戻った。二人が犬猿の仲かのように見えた。いつも田郷さんが注意して、少しもめている形らしい。
「なんで一番効いてほしい相手に効かへんねやろ・・・。」
と大内はため息をついて、ホームルームのチャイムが鳴った。
それから約二か月が経ち、今は7月だ。梅雨も晴れて、最近急に蒸し暑くなってきた。空に光る太陽は、地面を焼き焦がすかのように光っていた。地面から出ていた陽炎がゆらゆら揺れている。
未だに、大内と田郷は朝からもめていたものの、特に異常はなかった。一年生の時はお互い別のクラスだったらしく、そんなにかかわりはなかったらしい。だが、同じクラスになったことで、田郷の中で要注意人物認定されていた大内は、田郷から注意されるようになったらしい。大内はこれに動じずに今まで過ごしてきた。
だが最近、王子ファンの間でひそひそと噂になっていることがあった。それは、田郷さんが王子のことが好きで、クラス委員の権限を行使して、大内に見てもらえるように注意し続けているというものだ。最初はただただ、ウザイとしか思ってなかった周りの女子たちだが、さすがに毎回注意してくることにイライラして、今にも爆発しそうだった。そこで、誰かがファンの間に噂を流したらしい。この噂は、今やほとんどの女子たちに知れ渡っている。田郷はもともと、周りの女子たちとうまくいかずに孤立していた。だが、最近やたらと田郷への当たりがきついようだ。
そんなある日、ホームルーム前に大内の周りの女子たちの中でもリーダー格の人物の早川咲が田郷さんに話しかけていた。
「田郷さん、おはよー。ねぇそれ、あんたの机に何て書いてあんの?笑」
と早川は満面の笑みで挨拶してきた。いつもは挨拶なんかしてこないはずの早川さんがおかしいと思ったが、それは無視した。そして言われた通り机を見ると、なんと机には落書きがされていた。机の上には、乱暴にマジックで書かれた誹謗中傷の嵐。これは明らかなイジメだ。
「ちょっと!これ誰が書いたの!?」
怒りが込み上げてきて、私は叫ばずにはいられなかった。自分自身、今までにイジメを受けたことはない。だが、現状いじめられていると考えるしかない。この叫び声で教室はシンと静まり返った。そこからまた、早川がちょっかいをかけてくると思いきや、鼻をフンと鳴らして去っていった。以降、その日は何も言ってこなかった。机の落書きは放課後に自分で消した。
翌朝。田郷が手洗いに行くと、今度は誰かが外から大量の水をぶっかけてきた。さすがに、すぐドアを開けるわけにもいかず、そのまま犯人を見れずにいた。机の落書きは放課後だろうが、朝の手洗い場の中となると、尾行して計画的に実行している他ないと思う。手洗いをすまして鏡を見る。学校に行く前にきれいにまとめたはずのポニーテールからは、大量の涙が滴り落ちている。もちろん、そこだけじゃない。適度な重さだった制服が、鎧のように重くなっていた。
そして、やっと手洗い場出ると、私は服を乾かしたりするために保健室に走っていった。その途中、大内とすれ違って、ずっと名前を呼ばれていたが、こんなびしょびしょ姿を今は誰にも見せたくないと思っていた私は、呼びかけを無視して逃げた。
保健室へ来たものの、こんな時間に先生はおらず、頼る人はいない。とりあえず、カーテンを閉めて制服を脱いでいった。保健室のタオルを勝手に使って、体や髪、服を拭いていく。いつの間にかホームルームのチャイムが鳴っていた。だが、今はそんなことはどうでもよくなっていた。
すると、ドアを開ける音が聞こえた。誰だろうと思いながらも、その足音は近づいてきてカーテンが勝手に開く。
「田郷さん!」
大内だった。勝手にカーテンが開くものだから、てっきり女の先生だと思っていた私は、男だと認識した途端悲鳴を上げた。
「変態!ノックぐらいしなさい!」
大内もびっくりしてカーテンを閉めた。なんで田郷さんが下着姿なんだ!?上下黒のシンプルなもので、背中を拭いていて、ちょうど胸が強調されてた。それに、めっちゃきれいやったと心の中で興奮した大内だったが、田郷が注意し始める。
「だいたい、大内君はいつも周りに女子がいるでしょ?なんで、今そんな気も回らないの?」
「すれ違った時全身濡れてたから、僕は田郷さんが心配で必死にここまで来たんや。なんでびしょびしょになってたん?」
「あなたには関係ない」
「いやいや、雨でもないのに朝からびしょびしょなんて普通じゃないから」
確かにそうだ。だけど、いつも正しさを示しているはずの私が、誰にも、いじめられているなんて話したくない。私はクラス委員長なんだ。堂々とだけしてればいい。今は耐えるだけ。もう一度、それでも関係ないと大内君に言った私は着替えを終えて保健室を出た。
その頃教室では、あれから田郷がホームルームが始まっても教室に来てないことに、早川が笑いをこらえながら座っていた。早川の席は廊下側の前から二番目だった。つまり、早川の前の席は田郷の席である。
一時間目の開始時間には、どうにか間に合ったようだ。大内も何も言わないまま、私を追いかけて一緒に教室に入ってきた。私が席に座ると、後ろから、なんであんたと王子が一緒にいるのと早川が睨みつけてきた。
「別に。私も一緒にいたくていたわけじゃないわ。」
「あっそ。それより、全身濡れてたみたいだけど?なんで雨も降ってないのに全身濡れてんの?お漏らししちゃったとか?笑笑」
冷たくあしらったのに、まだ皮肉を言ってくる。でも、これで犯人が分かったのは大きい。これを知っているのは、朝早くから学校にいないとわからないことだから。
「個室に水をぶっかけたの、あなたよね?早川さん?」
私は何の躊躇もなく訊いた。じゃなきゃ、この胸のイライラは治まらない。
「何急に。証拠でもあんの?」
確かに。現状、当事者以外を信用させられるほどの証拠はない。それに、一番の状況証拠である濡らされたものは、さっき自分で拭いてしまった。悔しいけど、今は諦らめて引くしかない。
「やっぱりなんでもないわ」
私はそう言って席に着いた。早川はふーんと、面白くなさそうにして自分の椅子に座った。
その直後、チャイムが鳴って授業が始まった。
この話を読んでくださった読者の皆様。読んでくれて本当にありがとうございます。
予告ですが、今回と第四章は田郷、大内の展開がメインになっていきます。
今後ともよろしくお願いいたします。
では、次回まで。