第30話 アルベルティーナの幼馴染
俺たちはケルンの領主アンダースに豪華なお食事を御馳走になった。だけど、フォークとナイフがたくさん。どうしよう?
ドラゴン討伐の後、他の商隊の護衛についていたアーネ達と再会した
そして俺たちはアーネたちと共にケルンの領主アンダースに夕食をご馳走になっていた
夕食の席で俺とエリスは固まっていた。見た事がない煌びやかな料理。それに何故かナイフやフォークが何本も置いてある
「レ、レオン様」
エリスが助けを求める様に涙目で俺を見る。俺はエリスに優しく言った
「大丈夫だよエリス。俺にもどうしたらいいかさっぱり分からん」
「そ、そんなあ」
エリスは絶望の声を出した
料理の作法がわからないのはアーネのパーティ3人も同様だった
アルベルティーナがコソコソと使用人に耳打ちした
アンダースの使用人が近くに来て、作法を教えてくれた
正直、料理はびっくりする程美味かったが、ゆっくり堪能出来る程の余裕は無かった
俺達はたくさんのナイフとフォークと格闘を繰り広げた。全ての料理を食べ終わってほっとすると、ようやく談笑する余裕が出た
アルベルティーナはケルンの領主に少々ケチをつけていた
「アンダース、このご時世にこの料理は贅沢過ぎないか?」
「アルベルティーナ、君が来ると聞いてうちの料理長が大張り切りで準備してたんだ
でも、食材にはそんなにお金はかかってないよ。ご存じの通りケルンの街はあまり潤ってない
そのことはよくわかっているよ。でもアルベルティーナ、君はこの街のみんなに愛されてるんだ
この城の人間もみんな君のファンなんだ」
『嘘でしょー』
俺は思わず心の中で叫んだ。こんな失礼な奴が?何で?
そこで近くの使用人さんに尋ねてみた
「あの、本当なんですか?
いや、ご自分の主を疑うのもなんなんですが......」
使用人はこっそりと話してくれた
「何よりアンダース様がアルベルティーナ様を大好きなんです
主人の為に精一杯尽くすことが、私達の喜びなんです
もしもいつか、ご主人様の奥様に幼馴染のアルベルティーナ様がなったら、とっても素敵じゃないですか?」
そう、俺自身も同じだった
俺も両親も街のみんなも、俺とアリシアがこのまま付き合い、やがて結婚する
誰もが、そう思っていた
勇者パーティに入る迄は
それにしても、ケルンの領主はかなりの好人物なんだろうな。
これだけ使用人に好かれているから、こんな風に思ってもらえるんだろうな
俺もこの領主を応援しよう、そう思えた
俺は駄目だったけど、この人の良さそうな領主には幸せになって欲しい。心からそう思えた
食事が終わると皆、席を離れて思い思いに談笑していた
アルベルティーナはしばらく俺達と話すとそそくさと幼馴染の領主の元へ行ってしまった
思わず苦笑した。応援するまでもない様だ
俺は微笑ましく二人を見ていたのだが、大事な事を忘れていた。エリスだ
俺は恐る恐る横を見ると、案の定、エリスが頬を膨らませて、こちらをジト目で見ていた
「あ、ち、違うんだエリス。これは」
「レオン様、浮気は許しませんよ」
違うって、エリス
俺はエリスの機嫌を損ねないようにするが大変になった
エリスは相変わらず俺の事をレオン様とは呼んでいるが、俺の彼女としての自覚は十分な様だ
アルベルティーナの件は彼女が心配するのはもっともだ。彼女は気安過ぎて逆に危なっかしい
エリスの機嫌が直ってから、しばらく話してアーネのパーティのみんなと話した
アーネのパーティのリーダーはシモンと言った
もう1人がシモンの妹でベネディクトというらしい
そして、アーネとベネディクトは好きあっている事がわかった
シモンはAクラスの冒険者だった。ベネディクトとアーネはCクラスの冒険者
「なんかアーネの幼馴染、凄いわね」
「何がなんだ?
レオンは普通だぞ」
アーネがベネディクトをたしなめる
彼女のいわんとしているのは、片腕、単眼、白髪の姿格好のことだろう
「ちょっと、苦労したんだ」
「ちょっと、じゃないでしょう?」
「ああ、どう見ても死線をさまよった男にしか見えん」
シモンもベネディクトに同意する
俺はこれまでの経緯をかいつまんで話す事にした。俺とエリス、イェスタが元勇者パーティだった事はみんな知ってる
「勇者エリアスと侍のアリシア、ウォーロックのベアトリスに俺は非合法な手段で表には出ない奴隷として売られたんだ」
「嘘だろ?
アリシアとお前、あんなに仲良かったじゃないか?
それにベアトリスはお前の妹だろ?」
「人は変わってしまうものらしいよ。二人とも笑いながら俺のことを売り飛ばした
俺は勇者パーティではお荷物だったからな」
「そんなの関係ねぇだろ。きっとなんかの間違いだ
信じられない、あのアリシアやベアトリスがお前にそんな事するなんて」
俺は下を向いた。俺だってそう思いたい
だけど、失った片腕や目が嘘じゃない事の証明なんだ
二人とも変わってしまった。昔のアリシアもベアトリスも、もういないんだ
「レオン」
アーネは俺の肩に手を当てると
「絶対間違いだ。俺にはわかる。ベアトリスはそんな子じゃない。アリシアだって」
アーネは多分、妹のベアトリスのことが好きだった
子供の頃、アーネはよくベアトリスにちょっかい出していた。好きだから構いたくて仕方なかったのだろう
だからアーネはベアトリスを信じたいのだろう
もし、ベアトリスがウォーロックのタレントを授からなかったら、
ベアトリスはアーネと結ばれていたかもしれない
タレント、俺達はタレントのおかげで人生が変わった
俺がクラス4のタレントを授からなければ、
アリシアもベアトリスも勇者パーティに入る事はなかったかもしれない
俺は勇者エリアスの従者として期待された。アリシアとベアトリスは俺についてきただけだった
皮肉にも、俺は戦力にはならず、二人はメキメキと頭角を現していったのだが
「男でしょ?」
ベネディクトは言った
「女は男で変わるものよ。女なんて星の数いるんだから、気にしない事よ、
それに今はエリスさんがいるんでしょ?」
「ああ、俺にはエリスがいる」
「本当に信じられない、お前とアリシアさんが、そんな......」
アーネは未だに信じられない様だ
「アーネ、もうその話しは止めておけ」
リーダーのシモンがアーネを促した。それからシモンとアーネは楽しい冒険譚を話してくれた
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