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少女ロロの事件記録手帳  作者: 烏丸牙鳥
はじまりの物語
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何にもなれない私

『お~~~はよ~~~う!!お前らイイコトしてる暇ないぞ~~?遅刻だぞ~~~い!』


 もう耳慣れてしまった、あの男の言葉で、私は起床した。

 時計を見て、しまった……と思う。いつも起きる時間より、30分ほど遅れている。いつもは、情報端末ケータイの映像などをだらだら見ながら支度をするので、時間には余裕があるが。


 でも、私も、隣で裸身を晒して眠っているマナツさんも、体がベタベタだ。男女の交わりとは違うけれど、それでも相手の体液などでどうしても汚れてしまう。

 シャワーを浴びなければ、このまま服を着ることはできないだろう。


 そして……私は気づく。

 あいつ、戻ってきてる!!


『ふふ~ん。そうともそうとも。俺様がいなくて寂しかっただろ?ロロ』

 そう言われ、私は軽く頭痛を覚えた。助けて貰ってなんだが、あんたは出てこなくていい。


 私は、マナツさんを極力起こさないようにしながら、ベッドを抜けだし、シャワーを浴びる。本当なら浴槽にも浸かりたい気分だったが、そんな時間はない。

 そして、鏡の前に立った時、私は嘆息した。肩の辺りに、マナツさんの歯形がついている。これでは今日の実習テストで着替える際にばっちり見えてしまうだろう。そういうことを見越しての、マナツさんの小悪魔っぷりに、振り回される私としては気疲れするのだった。



――登校時間。

 私は、キジャモとシャンテと共に歩いていた。なんとか、2人との待ち合わせ時間には間に合ったのだ。

「あふ……」

 私は、あくびをかみ殺す。結局、あの後、興奮したマナツさんに事件のことを詳しく聞かれてしまい、眠ったのは明け方になってからだった。

 太陽がいつもよりまぶしい。明らかに寝不足である。


「ロロちゃん、眠れなかったの?今日、実技試験でしょ?確か、ファイヤーを出すんだよね、ファイヤー!」

 と、キジャモが両手を突き出す。そう。学園に入学して3ヶ月で、ようやく私たちは攻撃魔法というものを学ぶことになったのだった。

「あたしは余裕だけどな。論理はちんぷんかんぷんだけど、実技なら得意だよ?」

 シャンテがそう言う。シャンテは、理屈より実際に体を動かして感覚で覚えるタイプの、根っからの戦士なのだ。


「ファイヤー!ね……。どうなんだろうね。先生たちは、空気と空気をこすり合わせるイメージでって言ってたけど……」

 私は、少々自信なさげに言う。この初級中の初級である炎の魔法も、一流の魔術師ウィザードはずっと愛用するという。自分が上手く魔術の構成を練ることができると、消費される魔力が少ないままで、威力の高い魔法を使うことができるからだ。

「ロロちゃん、自信ないっていつも言ってるけど、結局60点くらいは取れるんだから大丈夫だよ」

 と、キジャモは言ってくれる。60点。ものすごく、普通の点数だ。


「……そうだ!ロロ、あの男にお願いしてみたらどうだよ?なんなら100点取ることも可能なんじゃねーか?」

 ぽん、と両手を叩いて、シャンテが言う。

「あー……まあ、どうだろう……」

 私が、ちょっとそれもいいかもな、とよこしまな考えを浮かべると、男は言ってくる。

『使えねーよ?』

(え?)

『俺、魔法使えねーから』

 ……役立たずが!!


 私が、顔をしかめたので、シャンテは

「あ、そういうの、やっぱダメだよな。ズルみたいでさ。ごめんな」

 と、気を使ってくる。

「いや……魔法は使えないみたい」

 と、私が言うと、シャンテは、

「なんだー。ロロの頭の中の男も、戦士系か-。それにしても、早く職業決定したいよな。あたし、ナイトになりたいんだよなー」

 と、言う。

「えー?私は色々と迷っちゃうなー。ドリアードは、自然魔術師ドルイドになるのが王道だけど……エレン先生みたいなビショップもいいなって思うし-」

 キジャモは、後衛系で決まっているようだった。

「ロロは?なんか、こう、ざっくりでいいから、何系になりたいかってのはある?」

 そう、シャンテに聞かれたが……。


 私は、苦笑いして、

「私、まだわからない」

 と、答えるだけだった。


 そう。私は、全てにおいて平均的に点数を取っている。

 だからこそ、私は、自分が何になりたいかが、わからないのだった。


――その後、クラスメイトからの、マナツさんに関する質問攻めと、実習で着替える際に見えてしまった肩の歯形を追求されることになったのだけれど。

 私は、のらりくらりと逃れて、明言することはなかった。


 できるだけ、マナツさんには迷惑をかけたくないのだ。

 だから、私は、マナツさんに勉強を教わることも、実習の練習を見て貰うことも、拒否していた。なんというか……そういうのはチート技みたいで嫌なのだ。


『純愛だねえ』

 そう、あの男に言われる。

 私には、果たしてこれが純愛と言えるかどうかは判断がつかなかった。

 

(そうそう、あんたの名前だけど)

 私は、そう男に話しかけた。というのも、「名前はないよ~~~ん。好きに読んでちょぴれ☆」と言われていたので、「あんた」とか「頭の中の男」では、いまいち呼びにくいので、考えていたのだった。

(トラスト、っていうのはどうかな?古代語なんだけど)

 そう、提案する。男、いや、トラストは、

『ふ~ん。いいんでない?好きに呼んでよ。いやー、もっと変な名前付けられたらどうしようかと思ったぜ☆』

 と、言った。


 トラスト。古代語で、その意味は――信頼。

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