ナンバーワンの手作り弁当
――あの後。
シャンテと共に教官室に真っ青な顔で飛び込んだ私たちは、理由を話して、エレン先生を転移してもらった。
エレン先生は、大量の水をキジャモの体にかけると、祈り始める。すると、水が、らせんを描いて上へと昇り、キジャモの傷がみるみるうちにふさがっていくのを見て、私もシャンテも絶句した。それがエレン先生の「蘇生魔術」だった。
死の淵から蘇生し、息を吹き返したキジャモは、念のために保健室で様子を見ることになり、私とシャンテは連れだって寮に帰った。
それと同時に、構内放送でブラック・ドッグが2匹現れ、退治されたこと、1年生の初級者は十分に気をつけること、を告げられた。
「最初からブラック・ドッグが現れたって、放送でやりゃあ良かったのにな」
シャンテは言うが、私は反論する。
「でも、それじゃ、他の1年生が犠牲になったかもしれないじゃない。特に、1人で帰った子とかは危ないし」
私は、シャンテが、私のあの謎の男と、鎧の話題を避けているように感じた。
「ともあれ、キジャモは今日は帰らないだろうな。あんた、どうする?狭くて良いなら私の部屋で一緒に寝るか?」
シャンテが、気遣わしげに言う。だが、私は、こういうときに逃げ込める場所は既にあるのだ。
「ううん、大丈夫。気を使ってくれてありがとう。でも、私は別の部屋で寝るね」
「あんたが?もう別の友達できたのかよ」
そう、シャンテには言われたが、私は「内緒」と言って、唇に人差し指を当てた。
翌日。
「ロロちゃ~ん、シャンテちゃ~ん!ごめんね!助けを呼びに行けなかったよ~!」
キジャモが、いつも通りにどーんと私とシャンテにボディアタックしてくる。キジャモは小柄な方だが、なかなか痛い。
「それより、体は大丈夫なのか?あんた、一回死んだだろ?」
シャンテがバナナミルクを飲みながら、聞く。なかなか傍から聞いてるとハードな単語だ。一回死ぬって……。
「うん、もう大丈夫!エレン先生ってすごいね!あそこから蘇生させることができるって、やっぱり僧侶にも憧れちゃうかな~」
キジャモが、うっとりと言う。
私たち1年生は、まだ、オールマイティに色々な学科の基礎を学ぶ。2年生の中期までに、自分の進みたい学科を決めて、そこから職業を極めていくといった感じだ。学年としては6年生まであり、最も多い15歳で学園に入ると、21歳で卒業ということになる。私は、1年遅れで16歳で学園に入ったので、卒業は22歳ということだ。
ちなみに、昨日、私の頭の中の男が具現化してから、男は現れていない。頭の中でも話しかけられないという、珍しい状況だ。
……と。
なにやら、窓際が騒がしい。それどころか、どんどん窓際に人が集まっている。
「ん?何?」
シャンテが、気づいてベランダ側に出た。私たちも、それに続く。
「あー……ナンバーワンがご出勤ね……」
シャンテが、急に興味をなくしたように、バナナミルクのストローをくわえてすする。キジャモと私は、ひょいと窓の外を見た。
黒く、長い髪。空色のカーディガンを羽織っていて、下は制服の紺のスカート。
誰かを探しているような、きりっと鋭い黒い瞳が、私たち1年生に向けられている。髪の間から、特徴的な長い耳の先端が覗いている。
彼女こそ、この学園ナンバーワン……いや、この街どころか近くの都市を含めて、ナンバーワンの実力を持つ、ハーフエルフ族の、「マナツ」さんだった。
やれ、龍を指一本で倒したとか、やれ、悪魔を次々と調教して使い魔にしているだとか、その伝説にはいとまがない。
本人が辞退したとのことで、生徒会長にこそ選ばれなかったが、それでも彼女に憧れるファンは多い。
そんな、マナツさんが。
私と目が合うと、「やっと見つけた」とばかりににこっと笑って、手を振ってみせる。
黄色い悲鳴があがり、「マナツさんが笑った!」「私に笑ったのよ!」とベランダが騒々しくなる。
……いやな予感がする。私は、ベランダから離れて、自分の席についた。
「?どうしたの?ロロちゃん」
キジャモもベランダから離れるが、私は、「私、ああいうのあんまり興味ないから」と言って苦々しげに笑う。
やはりマナツさんを追うのに飽きたらしいシャンテも、同じように雑談の続きに加わる。
……だが、これで終わりなはずはなかった。
黄色い悲鳴が、あちこちで起こっている。
そして、コツ、コツと、本来なら校則違反である、金属が仕込まれた靴音を、私はよく知っていた。
がらっ、と、扉が開き、「ええっ……」と、クラスメイトたちが息をのむ。
そこには、マナツさんが立っていた。
そして、教室を見回して、「失礼。ロロさんはいらっしゃるかしら?」と声をかける。
私は、無駄な努力として、教科書で顔を隠す。
「ロロって……あんた……」
と、シャンテがぽかーんと口を開けて私を見る。見る見るな!あっち向いてろ!
やがて、コツ、コツ、と音を鳴らして、マナツさんは私の側まで来た。
「ごめんね。お弁当を渡すのを忘れていたわ。私の手作りで良ければ、食べて?」
そう言って差し出された、可愛らしいキャラクターの包み。もちろん、差し出されているのは、私だ!!
悲鳴が、黄色から、ただの悲鳴に変わった。
――そう。私と、マナツさんは、ほんの少し前から、付き合っているのだった。




