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少女ロロの事件記録手帳  作者: 烏丸牙鳥
はじまりの物語
6/42

ナンバーワンの手作り弁当

――あの後。


 シャンテと共に教官室に真っ青な顔で飛び込んだ私たちは、理由を話して、エレン先生を転移してもらった。

 エレン先生は、大量の水をキジャモの体にかけると、祈り始める。すると、水が、らせんを描いて上へと昇り、キジャモの傷がみるみるうちにふさがっていくのを見て、私もシャンテも絶句した。それがエレン先生の「蘇生魔術」だった。


 死の淵から蘇生し、息を吹き返したキジャモは、念のために保健室で様子を見ることになり、私とシャンテは連れだって寮に帰った。

 それと同時に、構内放送でブラック・ドッグが2匹現れ、退治されたこと、1年生の初級者は十分に気をつけること、を告げられた。


「最初からブラック・ドッグが現れたって、放送でやりゃあ良かったのにな」

 シャンテは言うが、私は反論する。

「でも、それじゃ、他の1年生が犠牲になったかもしれないじゃない。特に、1人で帰った子とかは危ないし」

 私は、シャンテが、私のあの謎の男と、鎧の話題を避けているように感じた。

「ともあれ、キジャモは今日は帰らないだろうな。あんた、どうする?狭くて良いなら私の部屋で一緒に寝るか?」

 シャンテが、気遣わしげに言う。だが、私は、こういうときに逃げ込める場所は既にあるのだ。

「ううん、大丈夫。気を使ってくれてありがとう。でも、私は別の部屋で寝るね」

「あんたが?もう別の友達できたのかよ」

 そう、シャンテには言われたが、私は「内緒」と言って、唇に人差し指を当てた。



 翌日。

「ロロちゃ~ん、シャンテちゃ~ん!ごめんね!助けを呼びに行けなかったよ~!」

 キジャモが、いつも通りにどーんと私とシャンテにボディアタックしてくる。キジャモは小柄な方だが、なかなか痛い。

「それより、体は大丈夫なのか?あんた、一回死んだだろ?」

 シャンテがバナナミルクを飲みながら、聞く。なかなか傍から聞いてるとハードな単語だ。一回死ぬって……。

「うん、もう大丈夫!エレン先生ってすごいね!あそこから蘇生させることができるって、やっぱり僧侶にも憧れちゃうかな~」

 キジャモが、うっとりと言う。

 私たち1年生は、まだ、オールマイティに色々な学科の基礎を学ぶ。2年生の中期までに、自分の進みたい学科を決めて、そこから職業を極めていくといった感じだ。学年としては6年生まであり、最も多い15歳で学園に入ると、21歳で卒業ということになる。私は、1年遅れで16歳で学園に入ったので、卒業は22歳ということだ。


 ちなみに、昨日、私の頭の中の男が具現化してから、男は現れていない。頭の中でも話しかけられないという、珍しい状況だ。

 

 ……と。

 なにやら、窓際が騒がしい。それどころか、どんどん窓際に人が集まっている。


「ん?何?」

 シャンテが、気づいてベランダ側に出た。私たちも、それに続く。

「あー……ナンバーワンがご出勤ね……」

 シャンテが、急に興味をなくしたように、バナナミルクのストローをくわえてすする。キジャモと私は、ひょいと窓の外を見た。


 黒く、長い髪。空色のカーディガンを羽織っていて、下は制服の紺のスカート。

 誰かを探しているような、きりっと鋭い黒い瞳が、私たち1年生に向けられている。髪の間から、特徴的な長い耳の先端が覗いている。

 

 彼女こそ、この学園ナンバーワン……いや、この街どころか近くの都市を含めて、ナンバーワンの実力を持つ、ハーフエルフ族の、「マナツ」さんだった。

 やれ、龍を指一本で倒したとか、やれ、悪魔を次々と調教して使い魔にしているだとか、その伝説にはいとまがない。


 本人が辞退したとのことで、生徒会長にこそ選ばれなかったが、それでも彼女に憧れるファンは多い。


 そんな、マナツさんが。

 私と目が合うと、「やっと見つけた」とばかりににこっと笑って、手を振ってみせる。

 黄色い悲鳴があがり、「マナツさんが笑った!」「私に笑ったのよ!」とベランダが騒々しくなる。


 ……いやな予感がする。私は、ベランダから離れて、自分の席についた。

「?どうしたの?ロロちゃん」

 キジャモもベランダから離れるが、私は、「私、ああいうのあんまり興味ないから」と言って苦々しげに笑う。


 やはりマナツさんを追うのに飽きたらしいシャンテも、同じように雑談の続きに加わる。


 ……だが、これで終わりなはずはなかった。


 黄色い悲鳴が、あちこちで起こっている。

 そして、コツ、コツと、本来なら校則違反である、金属が仕込まれた靴音を、私はよく知っていた。


 がらっ、と、扉が開き、「ええっ……」と、クラスメイトたちが息をのむ。

 そこには、マナツさんが立っていた。

 そして、教室を見回して、「失礼。ロロさんはいらっしゃるかしら?」と声をかける。


 私は、無駄な努力として、教科書で顔を隠す。

「ロロって……あんた……」

 と、シャンテがぽかーんと口を開けて私を見る。見る見るな!あっち向いてろ!


 やがて、コツ、コツ、と音を鳴らして、マナツさんは私の側まで来た。


「ごめんね。お弁当を渡すのを忘れていたわ。私の手作りで良ければ、食べて?」

 そう言って差し出された、可愛らしいキャラクターの包み。もちろん、差し出されているのは、私だ!!


 悲鳴が、黄色から、ただの悲鳴に変わった。


――そう。私と、マナツさんは、ほんの少し前から、付き合っているのだった。 

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