反省文地獄
「今だ!!突入!!」
そんな、ガラ警部の一声で、武装した警察が玄関から、そして、トラストの空けた穴から突撃する。
「あああああああ!!」
男たちは、声を上げたが、シュント先輩を守るために銃を離していたため、攻撃する術はない。
やがて、おそるおそる、3人はホールドアップした。
「やったあ!作戦成功!!」
部長が飛び跳ねて喜ぶ。私たちも、ほっと緊張を解いて、手のひらをぱんっと合わせあった。
「犯人確保!怪我人2名!人質の女子学生も無事です!!」
そう、無線から報告が来る。女子学生じゃなくて、男子学生だが、まあ、それは良いだろう。
「……君たちは本当にすごいな。失礼な態度を取ったこと、謝ります」
ガラ警部がそう言って、頭を下げるので、私とセロン先輩で、「あ、謝らないでください!」と慌てて頭を上げさせた。
「……まあ、すごいヤツだってことは認めるがな。でも、調子に乗ってあんまり事件現場に首突っ込むんじゃないぞ?」
マシタ警部も、スラックスのポケットに両手を突っ込みながら、視線を逸らして言う。全く素直じゃない。
「それに、ほら、お前たちにお迎えだ」
そう、マシタ警部が顎をしゃくると、そこには白髪で立派なひげをたくわえた一人の老人が立っていた。目つきは鋭く、実に「厳格なご老人」といった雰囲気だ。
「おじいちゃああああああん!!」
部長が、そう叫んで、ぱっと両手を広げて駆け寄る。すると、その老人も、目元を緩ませて、部長の小さな体を抱きしめた。
「ウィバー、よくやったな。さすが、俺の孫だ。怪我はなかったな?」
「うん、おじいちゃん!だって、私は『名探偵』だもんねえ!」
「ああ、わかったわかった。お前は本当に、小さな名探偵だよ」
そう、元警視庁長官のウィバー部長のおじいさんは、言う。
そして、私たちに目をやり、丁寧にお辞儀をした。
「今回は、私どものせいで、事件に巻き込むような真似をしてしまい、すみませんでした。早速、鉄道のチケットと今日泊まるホテルを手配いたしましたので、皆様を無事にNW学園の寮まで送り届けさせていただきます」
そう言われ、セロン先輩がまず動いた。
「いえ、そこまでしていただくわけには……ただでさえ、別荘があんなことになってしまったのに……」
「別荘のことは、やむを得なかったことです。それに、孫が決めたことですからね。私どもも、納得はしております。どうぞ、チケットをお納めください」
私たちは、ご老人にそこまで頭を下げさせるわけにはいかないので、ありがたくチケットを受け取り、その日はホテルに宿泊した。
翌朝、シュント先輩と一緒にパトカーで駅に送って貰い、そこから学園に帰った。
――しかし、話はこれで終わらなかったのだ。
「ひいいいいい……」
部長が、今日何度目かの悲鳴をあげる。それもそのはず、学園に戻った私たちは、反省文10枚という不祥事に見舞われたのだった。
「ちょっとお!しょうがないでしょお!緊急事態だったんだからあ!!『外出許可』以内の日に帰ってこなかったからって、反省文ってのはどうなのお!?」
部長はそうつっかかったが、寮長はすました顔で、「しかし、規則ですから」としか返答しなかった。
「1ま~い、2ま~い……なんでこんなに書いてるのに、2枚しかかけてないのかしらね~?」
セロン先輩も、若干壊れてきている。
ニュースでは、例の「カップ麺を食べる女子学生たち」という画が打たれ、さらにお堅いニュース番組では、「元警視庁長官の孫娘たち、お手柄!?犯人逮捕の瞬間!」という、トラストが別荘の壁を壊す映像が延々と流れていた。
しかし、表舞台でどんなに騒がれても、今の私たちは、反省文地獄という。華やかさとは全く関係のない場所で、ガリガリとペンを進めているだけの地味な絵面である。
「あなたたちが反省文を終わらせてくれなければ、私も動けないんですからね。報道部は文を書く部活でしょう?さっさと文章を終わらせてくださいね」
「それとこれとは違うのよお!」
部長が、だんっと机を握り拳で叩くが、寮長は眉一つ動かさない。
……が。
寮長の方から、軽やかな着信音が流れてきた。
「はい。……え?報道部の面々が……?本当ですか?……いや、はい。伝えます」
「何よお。また反省文追加とかなのお?」
部長が嫌味を言うが、寮長は本当にびっくりしたという顔で、私たちを振り返る。
「……ノース地区統治者、雪の女王が、あなたたちを表彰したいとおっしゃっているそうです」
『はああああ!?』
私たちは、一斉に驚きの声を挙げた。ただの女子学生に、あの雪の女王が自ら感謝状を贈りたいということだった。
「やったあー!じゃあ、もちろん反省文もなしよねえ!?」
そう声を弾ませる部長だったが、
「そんなうまい話があるわけないでしょう。反省文は反省文です。早く書いてください」
と返され、途端にぶすくれた表情になったのだった。




