「教育」返し
初めて、自分に対して怒りを表したヤンチャ男に、女教師風は戸惑う。
『ど、どうしてよ?あんたたち、私の言うこと今まで絶対に聞いてたじゃない?たかが卵の分け前くらいで、なんでそんなに……』
『うるせえ!』
ヤンチャ男が、女教師風に完全に銃を向けた。女教師風は、押し黙る。
『こんな状況で、後輩が気ぃ使って自分の分け前要らないって言ってて、それで何言うかと思ったらそれかよ……!それが、あんたの言う「フェミニズム」かよ……!』
女教師風は、目を泳がせている。すると、他の男2人が、ヤンチャ男のそばに並んだ。
『これは、「教育」でしょ?』
『俺らのこと、全然考えてないもんな。その自己中心的な考え方を改めるには、「教育」しかないな』
『……ああそうだ。「教育」だ』
女教師風は、叫んだ。
『なんで!!「教育」だって、最初に考えたのは私なのよ!?あんたたちはそれで「はいはい」って従ってたじゃない!!卵だって、私は幹部で女性なのよおおお!?たっぷり栄養つけて、いたわられるべき存在でしょおおおおお!』
『……もういい』
ヤンチャ男が、銃を下ろす。ほっとした女教師風に、ガツンと蹴りを入れた。
『げほっ……なんで、なんでえええええ!?』
『……お前ら、「教育」始めるぞ』
そこから、ただの暴力が始まった。
『教育!!教育!!』と、男たちの声が聞こえる。画面に血が飛ぶ。ぼきっ、と、どこかの骨が折れる音がする。
「……うっ……えっ……」
セロン先輩が、えづく。ウィバー部長はそれを見て、セロン先輩に肩を貸して、ダイニングの流しまで連れて行った。
「……酷い……」
私も、かなりきつい画面に、おそらく顔は真っ青だ。アジャリ先輩は、「うぐるる……」と、喉の奥でうなってみせる。
「警察も、この画像転移をしてないでしょうか……?だったら、早く突入するとか……」
と、私が部長に聞くと、セロン先輩を介抱し終えた部長は、腕を組んで、
「それは難しいわねえ。そもそも、画像転移そのものが、私たちの学園のあるセントラル地区以外では違法なのよ。警察が法を犯すわけにはいかないでしょ?突入するにも、銃を持っていて魔法攻撃の通らない犯人に、どう対抗するかって話になるわあ。まあ、さすがはエリート集団ねえ。ノース地区の警察の弱みを華麗に突いてるわあ」
と、話す。
「でも、画像転移の動画は受け取って貰えたんじゃ……」
「まあ、これも緊急事態だし、市民……それも、私たちが学生だから大目に見て貰えた感はあるわねえ。未成年のアルコールと同じで、目をつぶって貰えることはあるけど、マスコミにかぎつけられたら、私たちも危ないわあ」
私たちは、再び画面をのぞき込んだ。
『「教育」止めっ!!』
ヤンチャ男が叫び、男たちが女教師風から離れる。
女教師風は、ぴくりとも動かない。口や、鼻から血を流して、そこに横たわっていた。
『う、うわあああああ……やっちゃった……やっちゃったよ、俺ら……』
普通顔が、そう言って、崩れ落ちる。
『大丈夫ですよ、先輩。この「教育」から蘇れば、この人もきっと「真の革命戦士」になれるんですから』
地味顔が、とんでもないことを言って見せた。
『え?何?お前ら本気なの?本気でそう言ってんの?』
普通顔がそう問うが、他の2人は動かない。
『……というか、もう、革命戦士と信じるしかないだろ……』
ヤンチャ男がそう言うと、更に叫ぶ。
『信じるしかないだろおおおおおおおお!!』
男3人は、拳を血まみれにしたまま、ただたたずんでいた。
――
「……やっばいわねえ」
部長は、そう言って、コートを脱ぐ。どうやら、脂汗が出ているのは私だけではないらしい。
「シュント先輩は……無事で帰ってくるんでしょうか……?」
私がそう聞いても、誰も、返事をしない。
「……帰ってくるわよお」
諦めかけた時、部長が、そう呟いた。
「……絶対に、うちの部員を返してもらうわよお。絶対に、無事で戻ってくる策を考えてみせるわあ……!」
ああ、この人は、本当に強い。
私は、その瞬間、心の底から、部長を尊敬した。
「そのためには、情報が必要だわ!!アジャリ!テレビを付けて情報収集!セロンは、もう動けるわねえ!?セロンはラジオを付けて情報収集!」
先輩方は、「はいっ!」と返事をして、テレビとラジオを一度に付けた。
「あの、私は……」
「ロロはそこで待機っ!何かおかしい動きがあったら、私に知らせてちょうだい!」
「……はい!」
私たちは、そうしてバラバラに散って、情報を集めることにした。
部長はというと、カーテンの隙間から現場の様子を覗いている。
「絶対に、絶対にシュントは無事で返して貰うわあ……!それまで、考えるのよ、私……!何か、起死回生の一手を……!」




